タクの日常 その11
タクは気まずいからログアウトする訳でもなく。
何かしたいけど、何をするべきか分からない。でも、だからといって、離れる訳には……
そんな心中で、うじうじと突っ立っているだけ。
子供たちもタクの、かまって欲しそうな雰囲気に気づいたが、誰も何もせず「行こうぜ」と去っていった。
あっ、とタクが呼び止めたかったが。
先程の拒絶っぷりを目の当たりにしたら、何もできず。
それから長い時間。俯いたまま、じっと動かない状態が続く。
本当に何もせず。フィールドの探索やクラフトもしないで、ただただ突っ立っているだけ。
どうすれば良かったんだろう?
悪気はなかったのに
どうしたら許して貰えるんだろう
自分なりに頑張ろうとしたのに
永遠と立ち尽くす時間は、唐突に終わりを迎えた。
「あ、あれ?」
強制ログアウトである。
脳への負荷を考慮し、長時間ログインを続けたプレイヤーを強制ログアウトさせ、一定時間ログイン不可にする機能が搭載されているVRMMOがある。
子供向けの『まほ★まほ』には当然、搭載されていた。
再び『まほ★まほ』にログインすると……
強制ログアウトした時にいた牧野の店の前にリスポーンされる。
それで、次がどうなるか想像つくだろう。
ほぼ昨日と同じ事の繰り返し。
何とかしなきゃ。
でも、どうしたらいいんだろう。
やがて再び強制ログアウトされてしまい、VR機のメニュー画面が広がるのだった。
そこには、VR関連のニュースサイトが流れており。
中でも目に引いたのは……
「『FEO』の初イベント? なんだろ、新しいVRMMOかな……あ! これ」
タクはゲームの正式名『Fatum Essence Online』の方を記憶していたので、略称には疎かった。
しかし、タクは苦い顔をする。
実はタクも『FEO』に新規登録し、一先ずメインストーリーをクリアしていた。
が。
『FEO』の方は、最近ログインしなくなってしまった。
タクは『FEO』のストーリーに干渉できない一方通行な選択肢に嫌気が差していた。
イベント中に会話に割り込めない。
動けない。
何も選択できない。
他プレイヤーとの関りが少ないし、パーティを組んで探索はできない。
いくらゲームの世界観に忠実とは言え「こんなのVRMMOじゃない!」と叫んでしまった。
だから、ログインを躊躇していたのだが……
「イベント、かぁ。参加してみようかな」
イベントだから、ちょっとやってみよう。
そんなノリで久しぶりに『FEO』へログインしたタク。
戸惑いながら操作感を確認する為、VRモードで戦闘をすると……
(うわっ!? 凄い! このゲーム、こんなに戦闘クオリティ高かったっけ!?)
雷撃で敵を一掃する神『ゼウス』の適合者となったタク。
魔法のバリエーションが欠ける『まほ★まほ』や、全ての仕様に癖がある『WFO』とは異なり。
VRに慣れたタクなら簡単操作で戦闘を熟せ、何より爽快感が圧倒的だった。
(あと……チャットルームかぁ。こういうの入りづらいけど、覗いてみようかな)
織田信長の適合者となったプレイヤーが簡易戦闘で二章のラスボスをクリアした!
と盛り上がっている最中だった。
ちょっとだけ「おめでとうございます!」とコメントを打ってみたタク。
すると……
[カルナ]
ゼウス。久しぶりだな。具合でも悪かったのか
[ハデス]
お前もうログインしないと思ってたわ>ゼウス
[アーサー]
ゼウスさん!? 初めましてです! あとでエッセンスリンクお願いします
[織田信長]
ほああああああああ!? 生きとったんかいなぁ、ゼウス!
[テスカトリポカ]
あ、ちょい待って、俺もゼウスとエッセンス交換しねぇと不味い
[オリオン]
カグヤちゃんのエッセンスはよ!!!!!!!!!
[八咫烏]
久しぶり~、何かあった?
(……! みんな!! なんか、ここって昔と同じだ!)
タクは漸く理解した。
自分が望んでいた世界はこんなところにあったのだと。
『まほ★まほ』でも『WFO』でも、周囲の人々は優しくなく、自分が何をしようと関心を持たれないどころか邪険に扱われる。
昔は、こうじゃなかったのに……タクが『FEO』で感じたのは懐かしさだった。
ここでは『ゼウス』という存在の適合者として周囲から求められる。
ゲーム内で何をしようと何も言われない。
メインストーリーの形式には……不満があるけれど。
(もう少し、ここで活動しよう!)
タクは別の意味で前向きとなったのだった。




