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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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タクの日常 その8


「ふう……ちょっと休憩しよう」


謹慎中でありながらVRMMO『まほ★まほ』をやっていたタクは、一旦ログアウトをしていた。

何故、ゲームをやっているのかと問われれば、ゲーム以外する事がないのである。

実家住まいの彼が、何故家の手伝いをしないのかと問われれば、両親が彼に何も手伝わせないからである。


メッセージアプリの着信音にタクが反応する。

会社からの連絡が来るかもしれない、とタクにしては珍しく着信音をオンにしていた。


送り主は里香であった。

彼女から、個人のアカウントでWFOにログインして欲しいとメッセージが来た。

他の面々……琴葉たちもタクと会って話がしたいと言う。

タクも今後が不安で、彼女たちと話し合いたいと願い、個人のアカウントでWFOにログイン。


いつも通り黒髪黒目のモブ顔のアバター。

プレイヤーネームは『タク』……にしようとしたが、[既に他プレイヤーが使用しております]とメッセージが表示され、仕方なく『タクヤ』で作成をした。


タクは、里香が先に作ったギルドから勧誘を受け、承諾をし。

ギルドの機能の一つ『ギルドへの転移』を利用。

即座に彼女らと合流した。


再会の感動は束の間、早速、ミミが不安を漏らす。


「にゃ……琴葉ちゃん。私達がどうなるの? クビになっちゃうの??」


琴葉は皆を安心させるように微笑した。


「大丈夫よ。クビにはならないわ」


「はぁー……! ビビった~、クビになったら不味いってもんじゃねえよ!!」


アキが胸をなでおろすが「でも」と琴葉は続ける。


「クビにならないだけで、別部署に人事異動させられると思うわ……企業ギルドは別の人達に引き継がれるでしょうね」


「そんな! 僕達が頑張って建てたギルドなのに……!!」


不満を隠せないタクに対し、琴葉は申し訳なく告げた。


「でもタクだけは違う。タクは私達と違って、正社員ではないから……解雇されると思うわ」


「えっ……それって僕がPKしたから……」


「違うわよ。タクは私がスカウトした『アルバイト』なのよ。正式な会社の社員じゃないわ」


「え? えっと……」


タクがポカンとしている様子に、里香はフォローをする。


「タク、君の気持ちはわかるさ。しかしこれが正社員とアルバイトの違いって奴なのだよ。アルバイトは一定期間で解雇されてしまう。だから皆、正社員を目指すのさ」


「いや……そうじゃなくて……()()()()()()()()()()()()()……?」


頭をかきながら困惑を隠せない表情で、そんな台詞を言うタクに、空気がピシリと氷ついた。

彼女たちの表情に気づかず、タクは話を続ける。


「だって、大きな会社に入れるって琴葉が言うから、アルバイトなんかじゃなくて社員になれたんだって思ったのに! どうして説明してくれなかったんだよ!! 琴葉!」


子供のような顔でプリプリ怒るタク。

琴葉はかつての『氷の女王』を凌駕するような鉄仮面でタクを見つめるばかり。

拗ねた態度のタクも、無言のままの琴葉に段々と怖気づく。


他の皆も、何とも言えない表情だった。

何故なら皆、タクがアルバイトで雇われた事を知っていたし、琴葉がちゃんとタクに説明していた場面にも居合わせていたのだから。


ようやく、自分が何か間違っていたのかとタクが理解したものの。

何と言えばいいか分からず、戸惑う。

琴葉が口を開いた。


「折角だから皆でクエストをやりましょう。里香、簡単な採取系のクエストをお願い」


「……ああ」


何とも言えない気まずい空気の中、採取クエストが行われた。

全体的に空気が重く。

タクは積極的に行動できる勢いを失っていた。


琴葉に何か声をかけたいのに。

シィの魔法の使い方が下手だから教えてあげたいのに。

アキが採取そっちのけでモンスターを倒しているのに。

ミミが根っこごと引き抜いているのを駄目だと指摘したいのに。

里香がクエストには参加しないで引き籠っているのに。


普段であればタクが積極的になる場面なのに、落ち込んでいるせいで何もしない。


ああ……きっと皆も知ってたんだ。

どこかで僕がアルバイトだって説明も受けてたんだ……

それなのに、覚えてなかった……僕って、どうしてこんなに忘れっぽいんだろう……


過去にも何度か同じ空気を味わっていて、その度に周囲が、何度も何度もタクに説明したのにタクが忘れていたから、一気にしらけ。

タクは深く落ち込む。


そんな矢先だった。

採取クエスト中、タクが不思議なものを発見したのは――


「なんだろう? これ」


オギノが四方に飛ばした『後輪』の一つである。

タクは純粋な気持ちで、宙に浮かんで静止している『後輪』を観察していた。

すると、突然『後輪』が動き出す。


「わっ、動いた!」


驚きながらも、謎の未知なるものを発見した少年のようにタクは『後輪』を追いかけていく。

わくわくする純粋な子供心が止まらなかった。

タクは嫌な採取クエストなど忘れ『後輪』に夢中となった。

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