【ヴァルフェリアオンライン】モルモー
え? どゆこと??
もしかして、例のテイム騒動ではぐれた? いや、違うよな。
私を他所に、タクは突然ボロボロ泣き始めた。
『ごめん……ごめん! 僕のこと、何とも思ってないって勘違いしてごめん!! ごめんよぉ。モル……!』
そんなタクを無視して、モルモーは私の育てた農作物の残骸をもっもっもっもっもっもっ!と食べ続けるばかり。
お腹が減ってたんだろうな。
タクが餌を食べているモルモーを優しく両手で包みこんで「『テイム』……!」と呟く。
しゅわん、と特殊なエフェクトがモルモーの身を纏った。
あ、テイムされちゃった……
でもまぁ、正直、モルモーの使い道って何もないんだよね……
この異世界においては愛玩動物っていうより、畑や家を荒らす害獣扱いされているし。
強いて挙げるなら……食用。
ビックリするかもしれないけど、マジである。
この異世界でもそうだが、現実でもモルモットが食べられている地域があったり、伝統料理もある。
嘘のようなホントの話。
私は食べたこと無いけどね!
モルモーはタクによって穴から引っ張り出されてしまい。
私(後輪)からは、どうなっているか分からないが……
『ちょっとタク……何をしているの?』
女性の声が聞こえた。
ここからだと姿は見えないけど、他にも数名の足音が響く。タクを囲っているハーレム女子が集ったようだ。
誰が誰かは分からないけど、モルモーの存在に気づいた声がちらほら。
『にゃ!? タク、その子……』
『うん! モルだよ!! あれから、ずっとここで僕を待っていたんだ! 僕が戻ってくると信じてたんだよ……だから』
『ねえ……まさか、またテイムをするって言うんじゃないでしょうね』
『え……?』
いや、もうテイムしちゃってたけど……
最初に聞こえた女性の声が、怒りを隠せないものになっていた。
『テイムはできないって反省したんじゃないの!? もうテイムはしないんでしょ! 普通の仕様じゃないから自分はもうテイムはしないって……アレは嘘だったの!?』
『いや……でも……モルが』
……帰っていいかな? もう。
てか、私の存在自体が場違いっていうか……いや、最後にハーレム女子たちをブックマークしておかないと。
彼女らはタクのように畑を荒らしはしないが、タク擁護派なので警戒するべき存在だ。
木の根元から『後輪』を移動させる。
掲示板でも目撃証言があった雰囲気に似ている女性アバターたちが。
全員企業ギルドのマークはない、プライベートの個人アカウントでログインしていた。
彼女たちのブックマークを終えて『後輪』を解除。
……何しようとしてたんだっけ。
あ、そうだ。もう一つの『後輪』!
でも、南側の『後輪』の方角は私が入国してきた方角……つまり、見慣れた道なのだけど。
念の為、何かないか探っておこう。
おっと!? 宝箱があるじゃないか!
フィールドには、ランダムに宝箱やダンジョンがポップするのだ。
異世界視点では天井の神様が与えてくれる報酬や試練と解釈されているらしい。
さっきまで発見できなかったのに……ああ、もしかしてタクたちに回収されていたのかも?
で、宝箱の中には武器が入っていた。
レアランクの剣!
要らない……と思ったけど『勿忘草の剣』というこの武器。スキルに『盗難防止』が付与されているぞ!
確か、スキル屋でスキルを剥がす事ができると聞いている。
よし、今度ローキィの所に持っていこう。
……こんなところか。
なんか、目立った素材が見当たらなかったのは、タクたちが回収しまくったせいなんだろう。
一定時間経過したら、再度ランダムにポップされると思うけど。
今日はここまで。
バン!
うわああああっ!? な、なに!!? 急に部屋入って来ないでヘーゲルさん!?
部屋を覗き込んできて、ヘーゲルさんが言う。
「国籍取得できたよな」
「あ、はい。1年後になりますが」
「じゃあ、もう出ていけ」
「え」
「ヘルメースから家買って来い」
それだけ告げて、ヘーゲルさんは再びバン!と強く扉を閉めて去っていく。
……長期滞在、駄目なんすか?
他のVRMMOではこんなイベントないのに!?
でも、あくまで宿屋は非国籍者の為だから、国籍持ってる奴らは出ていけって奴なのかも。
まさかのイベントにショック受けつつ、部屋にある衣服などは時空間魔法でつくった収納ポケットへ。
農作物は『後輪』へINした。
でも、確か、この国の家ってどれも高くて、代わりに畑はノーブルの需要がないから安いと聞いている。
畑……ねぇ。
一先ず、私は今日でヘーゲルさんの宿を後にする事となった。




