VRバイターが往く！～近未来の生存戦略～

【ヴァルフェリアオンライン】ドーナツ

「ご依頼のロストページです。大雑把にジャンルごとに分けておきました」

「ああ、クエストの。ありがとうございます…………えっ、これは！　リヴァイアサンのロストページですか！？　しかも人型の魔族……レヴィアタンの番(つがい)、ですって？」

エリーゼさんが驚いている部分を解説すると。

リヴァイアサンは人型ではない、水龍のモンスターとして実装されている。

だが、ロストページの方では、人型の魔族……男性の姿の記録が残されていた訳だ。

ちなみに、レヴィアタンの方は女性の人型魔族として、実在している。

恐らく、セットでキャラを設定していたのだろうが、商業的な狙いで女性のレヴィアタンだけ実装。

こういう女性キャラには男の影があってはならない的な、アイドルめいた意味合いも含まれ、男性リヴァイアサンはボツになったのだろうな、と。

悲しいなぁ。

更にエリーゼさんは熱く語る。

「魔族は子孫を残せない生態系の筈ですが、ロストページの記述によると、世界の改(・)変(・)前(・)では繁栄システムが構築されていたですね。ああ、どういう事かと解説しますと、この世界は御(お)上(かみ)の方々によって何度か改変され、微調整が行われているのです。ロストページはその名残であり痕跡。何故、これを改変する事に至ったのか、それを考察するのが私の楽しみで……あ、すみません。長々と……」

「あ、いえ」

しかしまぁ、WFOでは他VRMMOにありそうな部分がなかったりする。

他プレイヤー達はそれを不満に感じているが、システム面を考慮すると、ああ、無くした方がいいのかな。と思うのだ。

「多分、データ量の削減……いえ、容量のコストカットでしょうね」

「……コスト、ですか？」

「えーとですね。仮にモンスターが子孫を残せたとして、分類の近い異なるモンスター同士で子孫を残すと、新種だったり亜種だったりが生まれるじゃないですか。で、それがまた異なる同士で……という風に生態系が拡大していくと、その分データ量が増える訳で。でも、正直そんな風に色々増えた所で無意味、って訳じゃないですけどデータ、いえ情報の保存領域がパンクしてしまうんですよ」

これがかつてランダム性を弄んだVRMMOが抱えた問題だ。

そう、データ量がとにかく増えまくる。

調子に乗って色んなプレイヤー達が色んなものを産み出しまくったせいで、データ領域がパンクし、ものの数日でサービス終了になったVRMMOは、結構あった。

WFOの場合は、そういうランダム要素を可能な限り徹底的に省いている。

８倍の加速時間を快適する為、これに尽きるだろう。

ただし『イースターエッグ祭』のようなイベント系は除く。

あれはあれで別に作って、不具合発生してしまった奴かもしれない。

って、NPCに説明してもアレだけどね。

エリーゼさんは、理解したようで「成程」と頷いた。

「オーギノさんも私の同じ仮説ですか……やはり、そうですよね？　この世界のあらゆる動植物全てが常(・)に(・)一(・)定(・)数(・)保たれているという研究報告があるのです」

お、おおう。

NPC的にはそういう解釈になる訳か。

エリーゼさんが更に言う。

「この世界を紐解くには、やはりロストページが鍵になるようです。オーギノさん。もし他のロストページを発見したら、私に届けて貰えませんか？」

「はい、構いませんけど。クエスト以外でロストページって獲得できるんですか？」

「ロストダンジョン以外でも各所にロストページの発見報告はあります。とはいえ、ほとんど廃棄処分されてしまうようですが……」

あ、そうなのね。

取り合えず、これでクエストクリアだ。

エリーゼさんからの頼み事、的な追加クエストは表示されない。

ロストページの発見は、ちょっとしたおまけ要素かな？　追加報酬が貰えるのを期待して、発見したら届けてみようっと。

「あの……一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか？」

と、エリーゼさんの方から声をかけられた。

なんだろう？　ノーブル特有のイベントかな？？

「オーギノさんが、相(・)当(・)量(・)の『ドーナツセット』をご購入された件ですが」

「…………………………………………………………………え」

ちょっとおおおおおおおおおお！　ここでソレ指摘しないで欲しいんだけど！？

確かに、無茶苦茶注文しまくってたけどさ！

え？　何、もしかして出禁とか？！　勘弁してお願いします！

「こ、今後気を付けます！　えっと、注文は何個までとかある感じですか！？　食材の在庫とか！　てか、あれってエリーゼさんが作ってるんですか。無茶苦茶美味しかったですよ！」

「いえ、作っているのは私ではございません」

はい。

「あと、注文制限や在庫の方の問題もございません。ただ……何故、異様なほどに注文なさるのかと疑問に思った次第です」

「ドーナツが無茶苦茶美味しいからです」

「無茶苦茶美味しいから、ですか」

復唱せんといて……何か遠くから他プレイヤー達の視線が刺さってるよ～

エリーゼさんが不思議そうで、納得しきれない様子で「そうお伝えしておきます」と会話を終えた。

気持ちよくクエスト終われなかったよ。

……結局、ドーナツ作ってるの、誰なんだろ？