タクの日常 その7
「君達は何をやっているんだ!!!」
企業ギルドの施設にて、琴葉たちは男性プレイヤーに怒鳴られていた。
あれから様々なドラマがあった。
強引に遠征を続けていた琴葉だが、1人で体を休める事はできないので、アバターの方が睡魔と疲労に襲われ、モンスターに一方的に嬲られてしまう。
そこに、何とかタクたちが合流。琴葉を救出したのだった。
テイムの件は、タクが理解を示した事で琴葉と和解。
心機一転、彼らは結束力を取り戻し、無事遠征を終えて『ヒュルアニア公国』に到着。
二つ目の施設建設を完了……めでたしめでたしとはならなかった。
タクが一般プレイヤーをPKした件は、企業にも報告が届いていた。
タクが登録しているアカウントは企業側が登録している為、PK騒動の修正についてテイムのPK判定の旨がメールで届いてしまったのである。
彼らの上司は、これで彼らが引き起こしていた騒動が事実であったと把握したのだ。
「……VRMMOだから多少、企業に対するカスハラみたいなのは覚悟してたし、君達のやってた事が誇張されているんだと判断した私も甘かったよ。君達には実績がある。信頼をしていたんだ」
「申し訳ありません。課長……」
琴葉が深々と頭を下げる。
タクたちは頭を下げるというより、俯いている姿勢を取っていた。
一つ一つ、上司は確認していく。
「まず、なんで遠征なんてしたんだ。私も色々調べてみたんだけど、人間のアカウントを作れば人間の国の近くから始められるそうじゃないか」
「し、しかし、課長が仰っていました。企業のアカウント作成には時間がかかると。一々、ギルドの建設でアカウントを作る手間をかけてはご迷惑がかかると……私が判断しました」
「はぁ……私もゲームのことを把握していなかったのは反省している。でも一言相談はして欲しかった。少なくとも、今回のような事態は未然に防げた。違うかい」
「はい……」
「それと『テイム』の一件だけど……」
「ごめんなさい! テイムの仕様が他のVRMMOと異なって、それで上手くできなくて! 僕の責任です!!」
上司の言葉を遮って、タクが必死に頭を下げた。
非常に失礼な部分はあれど、彼の反省した態度で話を進める事にする。
「そのようだね。テイムのスキル仕様の把握については不問とさせて貰うよ。ただ……そもそも何故、動物やモンスターをテイムしようとなったのかな」
「遠征中、畑を守る為です!」
「あー……そう、そこなんだよ。どうして畑を作ってるのかな?」
「……え? えーと」
タクは上司の問いが理解できなかった。
何故なら、VRMMOではごく普通にやる作業の一つ。
野菜を売ったり、ポーションなどの薬の為に薬草を育てたり、皆に振る舞う料理の為に、いつもいつも畑を作ろうと耕すのが常だった。
対して、上司はVRMMOのアバター越しながら、しかめた顔で問いただす。
「そもそも、私は君に畑で作物を作る事ではなく。施設の家具の作成を頼んだ筈だ。覚えているかな」
「えっと……」
「まぁ……覚えていたら、こんなものは作らないか」
「こ、こんなものって! 僕が作った家具のどこが駄目なんですか!?」
「これは君のオリジナルの家具だ! 我々の企業ブランドの家具と同じ現物のものを作って設置する!! 覚えていないのか! 君は入社して直ぐの会議に参加した時!! 私の計画に感銘を受けて自分がやると宣言していたじゃないか!」
「え……えっと……」
そうなのだ。
そもそもタクたちが所属している企業ギルドは、何のギルドか。
家具や生活雑貨など日用品のオリジナルブランドを立ち上げ、世界にも数店舗進出している有名会社なのだ。
上司が叫んだ通りギルドの施設に、オリジナルブランドの家具などを設置して、顧客に購入意欲を高めるのが施設貸し出しの切っ掛けであった。
彼は一般層も安全にプレイできるプレミアムパックがあるWFOに注目。
会員費と施設内の宣伝効果も合わせて、売上を見込んでいた。
しかし……その結果がこれである。
続けて彼はこうも言う。
「それにね! 君たちが野菜を売っている事もあって、ウチの会社を農業関連の企業と勘違いするお客様も出てきてしまったんだ!!」
「え!? そ、それはその人達がちゃんと調べないで……」
「いいかい! 君たちの行動は他の一般人の方々に目にちゃんと映っているんだ!! 君たちには社員としての心構えが足らなすぎる! 企業の看板を背負っている事を自覚したまえ!」
琴葉たちが低いトーンで「はい」と答えるが、タクだけは納得いかない様子で返事をしなかった。
上司は最後にこう告げる。
「しばらくはログイン禁止。自宅謹慎だ。各自、追って連絡するが……タク、いや田中くん。君のアカウントは消去させて貰う」
「え!? そんな待って下さい!」
「どんな理由であれPKを行った社員が活動するのは、イメージダウンに繋がる。君がなんと言おうと、これは決定事項だ」
「……っ」
タクは反省するどころか、上司に睨みつけるような視線を送っていた。




