【ヴァルフェリアオンライン】情報屋
……落ち着こう、私。
今日は夜のジェルヴェーズ王国を楽しむ方針へ切り替えよう!
門限の都合上、中々、夜の王国内の散策はしていなかったのだ。
掲示板や地図などに目を通してみると、どうやら、夜間限定で営業している場所があると知った。
ローキィのスキル屋が閉まっている代わりに『アラクネー』という女性ノーブルが営む雑貨屋が営業する。
少しばかり、スキルの販売もされているが、主なのは衣服類だ。
私は衣服には無頓着だし、プレミアムの衣服で十分だから、立ち寄る事はないかも。
『ニューソ』という、ハーフリングとノーブルのハーフ男性が経営するレストランの営業時間も夜である。
ただし、こちらは数年先まで予約が埋まっているという!
味は本当に絶品らしい。どうにかして食べれないものか……
この時間でも何件かの宿屋は、開いている。
どこかのタイミングで、別の宿にも泊まってみようかな? 今しか楽しめないかもだからね。
うわ!? 改めて見ると凄いな……
遠目からでも一際目立つ派手なライトアップがされた外観のホテル『グラズヘイム』。
タクのテイムモンスターの討伐時、ここのスタッフである『ワルキューレ』という美女軍団が活躍したと掲示板でも話題になっていた。
彼女達は普段、ここでアイドル活動をしており、ホテルでは毎日コンサートが開かれているという。
うん、ここは泊まるのなしで。
「あら~。こんばんは。お食事でもいかが?」
徘徊する私に声をかけて来る大人びた女性ノーブル『ヴェストゥーム』さん。
彼女は小さな宿屋……ヘーゲルさんと同じ格安の低ランクホテルを経営しているNPC。
母性的な彼女を『ママ』と呼ぶプレイヤーが後を絶たない(?)。
そんなヴェストゥームさんの宿だが、宿泊客以外にも食堂を開放しており、ギルドのクエスト帰りに立ち寄るプレイヤーが多い。
ご厚意に甘えて、ちょっと食事を頂こう。
ほうほう、ナポリタン風の麵料理、グラタン、オムライス、シチュー、パイ包み焼き……
本当に家庭的な料理ばかり。
しかしながら……とんでもない量! ボリュームが圧倒的!!
味変をしないと食べるのに飽きてしまうぞ。
ヴェストゥームさんが、私の食べ方を不思議に感じていたのがちょっとNPCっぽさがあった。
ボリュームある料理を味変する事を理解できていない。
私は「美味しいですけど、途中で味に飽きてしまいますよ」と告げておく。
これを反映するかは、今度確かめよう。
食事を終えた私が、再び国内を巡り歩くと一際古びたレンガ作りの建築物を発見。
明かりが一切ないうえ、建物自体もレンガがヒビ割れ、欠けている部分もあり、半分以上が蔦で覆われている。
周囲の徹底的に整備と清掃された街並みと比較して、不自然なくらい放置されているここは『病院』。
男性ノーブル『レーピオ』が院長として在籍するらしいが……いるのか?
あまりにも気配がない。患者も、今は誰もいないのかな?
もう一つ、不動産屋の『ヘルメース』にはお世話になるかもしれない。
チラっと彼の店を把握しておこうと、足を運んだ時。
誰かに足を掴まれた。
ぎゃああああああああああ!!? ○子!!!?
ネタでもなく、本当の意味で○子のように長い黒髪が地面から這い上がってきたので、一種のホラーシーンだったぞ!
黒装束で目元もみえないほどの長い髪の男が、ズルズル姿を現す。
マップで何も反応がなかったのは、彼が時空間魔法で存在を隠していたからだと分かる。
恐らく『後輪』で腰かけた格好で足を組んだままの○子、ではなくノーブルが私に話しかける。
「やぁ、若いの。何か困っている事はあるかな」
えっと? 急にどういう流れで??
「嗚呼。私は『ホーエンハイム』。情報屋をやっているのだよ。お前の知りたい事を相応の値段で教えてあげよう」
お、おお……情報屋だって?
何でも知ってる?? ノーブルは情報把握能力高いからなぁ……
当然、知りたい事は結構あるけど、国籍取得条件をわざわざ聞くのもなぁ。
……周囲に誰もいないのを確認して私が尋ねた。
「タクというプレイヤーについてご存知の事はありますか」
「ふむ? あの騒がしいのか。何故わざわざ尋ねる?」
「正直、あまり関わりたくないなぁって……遭遇を回避したいんです」
「くっくっくっ。それなら良い知らせがあるよ。彼はもう消えるようだ」
は? え、クビって事??
……てか何でNPCのこの人が知ってるの?
「すみません。失礼を承知で言いますが、その証拠というか」
「信用するかはお前次第さ」
あ、はい。
「しかしね。お前たちは他種族の皮を自在に被れるだろう? つまり、そういう事だ」
はぁ~、アカウント消して、別アカ作るって事かよ~
外見から、ボイスチェンジ機能を使えば、あっという間に別人だもんね。
色々と警戒して、活動しないとじゃん……
「報酬は貰ったから私は帰るよ。ちなみに私の活動時間は大体18時から翌朝4時までだからね。それじゃあ」
………………………………………あっ。
ああ、あー、そういう……それが門限の意味、ね。
ズルズルと再び次元の狭間に消えていくホーエンハイムさん。
そして、いつの間にか、情報料が抜き取られててビビった私であった。




