【Fatum Essence Online】希望
コロッセオにて大衆の悲鳴が響き渡った。
華やかな薔薇吹雪が舞い上がり、誰もがコンサートの演出かと思われたそれは、あまりに量が尽きなかった。
どこからか降り続ける薔薇の花びらは、コロッセオ内部を全て埋めつく勢いだった。
「な、何をしているの『ヘリオガバルス』! これではコンサートどころではなくなりますわ!!」
ネロの叫びに倒し、舞台裏で演出を行っていた青年が登場すると。
彼の姿に人々が驚かされた。
なんと彼は美しい赤のドレスを纏い、化粧も施した姿だったからだ。
「否! これこそ妾が王道!! 妾こそが真のアイドル『ヘリオガバルス』なり!!」
女装男子が流行ってらっしゃる?
何であれ、彼(彼女?)こそがローマ編のラスボス、ヘリオガバルスなのだ。
「ひぃいいっ! ここから出られなくなっている!!」
「このままだと薔薇に埋もれて死んじまうぞ!?」
「そ、そんな……!!」
コロッセオの閉鎖装置を使い、観客を窒息死させるのが狙いだったようだ。
「このまま美しく死ねるのだから良いのだ。あの御方も喜ばれるだろう……」
意味深な台詞を呟くヘリオガバルスを他所に、高々と芯のある声が会場内に響き渡る。
「皆の者! 恐れるではない!!」
兎たちが用意したドレスを纏ったブーディカさんが登場する。
彼女の一言で観客は落ち着き、彼女は剣を掲げた。
「私が明日への道を切り開く! 応援を!! 応援の喝采を響かせろ!」
このコロッセオは特殊な結界となっており、ここでは観客の声援がアイドルの力となるのだ。
観客は各々沸き立つ。
「おお……! なんと美しい女神!!」
「そうか、そうだったのか。アイドルとはこういう事だったのか……!」
「私達の希望となってくれる御方よ……!」
ブーディカさんに力が集中する一方で、ヘリオガバルスは意外と冷静であった。
むしろ、さも当然と言わんばかりだ。
彼は奇行が酷く目立っていたが、政策には目を見張る部分があったのも事実である。
「流石だ、ブーディカよ。妾はお前のような女に敬意の念がある。かくも美しく、勇ましい……アイドル、否、女性とはこうあるべきだ」
「その上でこんな真似をするとは、愚かな……」
「仕方ない事だ。あの御方は本当の妾を受け入れてくれたのだ。期待に応えぬ訳にはいかないのだよ」
「……成程。心底ふざけた奴だと思っていたが、信念は持ち合わせていたようだな」
そんな感じでヘリオガバルス戦が開始される。
フィールドとなるコロッセオが薔薇の池、もはや大海状態と化しており、足場として不安定なのが特殊ギミック。
私もといツクヨミの場合は、空中移動をできるが、できないプレイヤーは苦戦を強いられるそうだ。
ブーディカさんも本来はチャリオットーー戦闘用馬車を用いた戦闘を行うのだが、このフィールドでは不利そのもの。
いくら、応援バフがついているとはいえ……
すると、兎たちが(勝手に)竹で何かを作り出す。ツクヨミがオートでブーディカさんに呼び掛けた。
「ブーディカよ。その上ならば馬車を走らせられる筈だ」
「……! かたじけない! 感謝する!!」
成程! 竹のレーンか!!
ヘリオガバルスは薔薇の吹雪を利用して、攻撃を仕掛けたり、目くらましをする。
それを切り抜ける為のフォローを私達が行う。
ブーディカさんがチャリオットでヘリオガバルスに攻撃を仕掛けると、何か強大な圧が放たれた。
ドス黒いオーラを纏い始めるヘリオガバルス。
これはフランス編でのジャンヌ・ダルクたちにもあった謎オーラである。
ネロが私達に呼び掛けた。
「もう少し時間を稼いで、ブーディカ! 兎の従者!! 私の奥義で薔薇を消し飛ばすわ!!」
対してヘリオガバルスは鼻で笑う。
「薔薇を処理したとて、妾には太陽神の加護があるぞ。そこの未熟な月神に負けぬ道理がない」
なんだと……?
太陽の神ってことは、ええと、タマモちゃんとやらは何? どういう繋がり??
それともヘリオガバルス限定の話?
ツクヨミは、しばしの無言の後、ブーディカさんに告げた。
「ブーディカよ。その着物に私の力を注ぐ。ネロ皇帝の奥義が発動した後、隙をついて刺せ。私単体ではなく応援の力を得たお前ならば可能だ」
おお、応援バフが効いてくる訳ね。
ブーディカさんが頷くと、彼女のドレスが月のような輝きを放つ。
自然な流れで彼女のチャリオットも煌びやかな形状へ。
対するヘリオガバルスも謎オーラで変貌すると、何故かタマモちゃんみたいな獣耳と尾が生えてる!?
薔薇の波による波状攻撃が激しくなる。
加えて黒の炎エネルギーも襲い掛かって来た!
こんな時は……
お前ら! 竹は持ったか!!
兎たちと共に竹の盾を構えて立ち向かうのみ!
フランス編でも同じ黒エネルギーの炎を防いだ実績がある!!
竹の盾を『勾玉』にくっつけて、ブーディカさんの進路を安全に確保する防御壁にした。
時折、襲い掛かる薔薇の大波は兎たちが放り投げる竹の手りゅう弾を野球の如く打ち放って、形状を崩す!
ブーディカさんが何度かヘリオガバルスに攻撃を命中させると。
ネロの奥義が発動し、薔薇が完全に消え去った。
そして、最後の集中攻撃でフィニッシュ! ローマ編 完!!
捕捉説明
薔薇を大量に降らせて窒息させようとするのがヘリオガバルスの奥義。
そのような逸話があったのを基にしている。
実際、薔薇による窒息はあったのか? 真偽は不明である。




