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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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タクの日常 その5


琴葉はログアウトしてしばらく、1人で泣き続けていた。

自然と過去の記憶を脳裏に呼び起こす。


かつてVRMMOのプロプレイヤーとして最前線に立っていた彼女は、冷静冷酷かつ美しくプレイヤーを葬る姿から『氷の女王』という異名がつけられた。

一方で、彼女自身を釣り合う相手はおらず、VRMMOという荒んだスラム街のように治安が悪い戦場では誰も信用する事ができない為、彼女の心もまた氷ついて行く。


そんな中だった、彼女がタクと出会ったのは。

あるVRMMOでタクは、他プレイヤーとは異なる意味合いで彼女の前に立ちはだかった。


「駄目だよ! NPC相手だからって、こんな事をしちゃ!!」


VRMMO界隈では珍しく、あまりに正義感が強く、NPC相手にも感情的になるタクは、最初の内は彼女を苛立たせた。

あまりに偽善的で、鬱陶しいまであり、ことごとく琴葉の邪魔をする。

一種のストーカーかと言わんばかりのしつこさに、かつては酷い暴言すら琴葉は吐いていた。


だが、タクはお得意の相手の目を真っ直ぐ見つめ、琴葉の手を握り言うのである。


「君の事は放っておけないよ。ほら、こんなにも手が冷たいじゃないか」


VR越しで何言ってんだ、と突っ込む場面である。

しかし琴葉的に、ちょっとドキッとしてしまい。彼を意識する切っ掛けになったのだ。

こんな事で?

と思ってしまうほど、VRMMO界隈は荒んでいるので、仕方ないのだが……


その後、琴葉は悪質プレイヤーの罠に嵌まってしまい、蹂躙されようとする寸前をタクに助けられた。

VRMMOでも誠実でいようと彼女が改心する切っ掛けになる。


あの時も、タクは色んなモンスターをテイムしており、彼らの力で琴葉は助けられたと思い出す。

少し冷静を取り戻した彼女は、再度ログインするのだった。

ギルドにはミミだけが残っており、獣人の能力で地道に床や壁の傷を修復している。


ミミが琴葉に気づいて、慌てて伝えた。


「琴葉ちゃん! シィちゃんは、嫌がってログアウトしちゃったんだけど、アキちゃんは兄弟のお世話に戻らなきゃいけなくなったから……」


「……分かってる。アキは大家族だからね。仕方ないわ……タクは?」


「テイムした動物をみんな畑に移動させて、特訓しているよ。琴葉ちゃんに怒られた事、気にしてたみたい」


――ギルドの修復はしてくれないのね。


彼女は言葉を飲み込んで、必死に「タクもテイムを頑張っているから、自分も頑張ろう」と言い聞かせる。


「私たちがタクの代わりに頑張りましょう」


「にゃ!」


ミミの修復能力ではとてもじゃないが間に合わないので、琴葉はジェルヴェーズ王国にある不動産屋を務めるNPCノーブルに修復依頼をする事にする。

膨大な依頼金を要求されたものの、恥を忍んで頼んでみると……

なんと一瞬で、建物から装飾品まで全て元通りになってしまった。


「ちなみにだが、外観は非常に気に食わないので手を加えさせて貰ったよ。今後、建造する際はジェルヴェーズ王国に相応しいものにしたまえ」


そう、不動産屋のNPCノーブル『ヘルメース』が告げたのはさておき。

琴葉はお陰で精神的に安堵する。

ミミと共に、遠征前の最終チェックに専念する事ができたし、しっかり休んで明日に備える事ができた。


一方、タクは必死に動物とモンスターのテイムが行えるよう特訓を行う。

しかしながら加速時間を用いたところで、一日二日程度で全てを扱えるようになる訳がない。

そこで考えたタク。

普通の動物のテイムを後回しにして、モンスターのテイムに集中する事にした。


戦闘で経験値稼ぎをしつつ、タクが彼らに指示をして、友好関係を築いていく。

表面上、タクの指示を聞いて動いている風に見えるモンスターだが、彼らは適当に他のモンスターを攻撃しているだけ。

タクの指示とズレた行動をしても、結果として敵モンスターを倒すので、タクは楽観的に受けながしてしまった。


そして……無意識かもしれないが、タクはモルモット風の動物モルモーの『モル』を一番可愛がっていた。

他の動物は置いていったのに、モルだけは抱きかかえ、同行させる。

モンスター達の休憩時間ですら、モンスター達を労わらずに、モルを撫でたり餌を与えたり。

時折、モルを地面に降ろして、ちょこちょこ歩く様子を微笑ましく見守っていた。


モンスターたちが何をしようと「よし、~ができるようになった!」と呟くだけで、褒めたりしないタク。

しかし、モルが魔力を使って地面を掘り出せば


「凄いよ、モル! 魔力をコントロール出来るようになったんだね!!」


……と、リアクションをするのだ。

これほど対応の落差があるようでは、他の動物やモンスター達が懐く筈がない。

しかも、タクが畑に戻って見れば……


「み、みんな! 駄目だよ!! 駄目だってば!」


動物たちが好き勝手暴れており、畑が無茶苦茶になっていた。

流石に畑を直すのが億劫になったタクは、琴葉たちに助けを求めようとする。

だが、既に彼女たちはログアウトしていた。


「はぁ……僕がやらなきゃ駄目なのか。………はぁ」


自分がやらかした事に、何度も溜息をつきながらタクは畑を直す。

途中で、動物たちやモンスターが暴れるので、何度もやり直しになりながら。

少し休憩でログアウトする以外は、ずっとログインをし続け、畑を直し、動物たちの妨害されを繰り返す。

彼は厳しくしかる事ができない為、永遠の無限ループが繰り返されてしまう。


そして、悲劇は遠征当日の月曜日に起こる……

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