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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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タクの日常 その4


事の始まりは、日曜日に遡る。

WFOでの初イベント『イースターテイム祭』。このイベントは全プレイヤーが参加できる。

無論、企業ギルドに所属しているタクも。


彼は他VRMMOではテイムを駆使して活躍している事が多く、このイベントで沢山のテイムモンスターを確保しようと心待ちにしていた。

タクの場合は、ゴブリンやスライムなどの雑魚モンスターのテイムエッグも、()()回収してしまったのだ。


タクは()()()考えなしでテイムエッグを回収した訳ではない。

企業ギルドの施設建設の為、素材集めの効率化や畑を守る為に、テイムを活用しようとしていたのだ。

しかし……


「にゃーーー! 駄目ぇーーーーー!!!」


猫の獣人・ミミの悲鳴がギルド内に響き渡った。

タクが「ここは皆の家だよ!」と教えてしまった為、テイムエッグから飛び出した生物たちは好き勝手暴れ出す。


ネズミたちは穴を開けて巣穴を作り出す。

鳥たちは羽を撒き散らし、糞を落とす。

猫たちは、あちこちで爪とぎを始め。

まだ躾のなっていない犬たちは、いたずらし放題。


モンスターたちは通常モンスターと変わらない動きで、ギルド内を動き回る。

それだけで木が腐ったり燃えたり、破壊されたりと被害が発生した。

中でもゴブリンは、わざとらしく狙って窓ガラスを破壊し、ミミたちプレイヤーにもちょっかいをかけるのだ。


苛立ったオーガのアキがタクに怒鳴る。


「おいタク! モンスターはやっちまっていいよな!? このままじゃ、全部壊されんぞ!」


「待ってアキ! 『テイム』! 『テイム』!! みんな止まって! 止まってくれ!!」


悲劇の主人公のようにタクは、必死にスキルを発動させようとしているが、WFOでは違う。

理性がきく動物達は、ごくごく普通にペットを飼うように、対象を理解し、時間をかけて友好関係を築き、躾なければならない。

理性的ではない動物達は『テイム』のスキルレベルをかなり上げなければコントロールできない。

他VRMMOとは違う仕様になっている事を知らないタクは、無意味な行為を繰り返していた。


「タク兄……」


エルフのシィが、必死なタクに心配かけようとした瞬間。

いたずらの度合いが酷いゴブリンが、面白半分でシィの体に触って来たのである。

モンスターとは言え突然、セクハラめいた挙動をしてきたゴブリンにシィは――キレた。

怒りに任せ、闇魔法による重力操作を爆発させ、ギルドの施設の一角をぶち壊す威力を放つ。


……会社での会議を終えてログインした琴葉を出迎えた景色が、その惨状だ。


「なに、これ」


あまりの酷さに琴葉は呆然としてしまう。

シィの闇魔法は、魔素の重さの為、発動が遅かったせいでゴブリンは素早く避けてしまい。

今度は、アキへちょっかいをかけてきた。

いよいよ我慢できないアキは、ゴブリンを仕留めようと炎を拳に灯す。


対してタクが必死に叫んだ。


「アキ! そのゴブリンは生まれたばかりなんだ!! 頼むから止めてくれ!」


「っ……!」


そう言われるとアキは攻撃を中断したが、彼女の拳に宿った炎がカーテンを燃やし、火の手が上がってしまった。


「わたし帰る!!」


収拾がつかない状況から逃げるようにログアウトするシィ。


「タクー! 早くなんとかしてぇ~~~~!! にゃああああんっ!」


動物たちを必死に抑えようとするミミだが、彼らに噛まれたり、舐められたりで悲鳴を上げた。

タクは一匹一匹に対し、目線を合わせて言う事を聞かせる作戦を取る。

相手の目を見て話す。

彼は祖母からそう教えられて育ったので、信条にして常日頃行っていた。


ただ、タクはそれを一番暴れているゴブリン相手ではなく、そこら辺をちょこちょこ歩いていただけのモルモットっぽい動物相手に始めた。


琴葉は膝から崩れ落ちてしまう。

明日、遠征に向かう予定だというのに。折角完成した筈の施設がこんな有り様になってしまった。

もう間もなく、事前の会員登録を済ませたお客様が利用する筈だった場所が。

ついさっき上司に「準備は万全です」と伝えてしまった琴葉はわなわなと体を震わせる。


タクはモルモットっぽい動物を抱えて「琴葉!」と明るく声をかけてくるのだ。


「明日、遠征に行くからギルドの畑を守る為に、イベントで沢山テイムエッグを確保してきたんだ! この子は『モル』!! モルモットじゃなくて()()()()って動物で……」


「モル? モルモー? ……ふざけないで」


「え?」


タクは琴葉が泣いている事に気づいていない。肝心な時に相手の顔を見ないのだ。

琴葉が限界に達して、怒鳴り散らす。


「もう嫌……ねえ、なんで? なんでこんな事になるの、ねえどうして!? 少しは考えて行動しなさいよ! 一気に動物を持ち込んだらこうなるのは分かるでしょ!?」


「生まれたばかりだから、すぐテイムで言う事を聞いてくれると思ったんだ。でも……言う事を聞いてくれなくて……」


「これどうするつもり」


「こ、この子たちはちゃんと僕が育てるよ!」


「違うわよ! 無茶苦茶になったギルドよ!! 今週中にはお客様が来るのよ……? ねえ、まさか私が直さなきゃいけないの?」


「皆で協力して直そうよ! この子たちだって悪気あった訳じゃ」


「タクが1人で直しなさいよ」


「え」


「貴方の責任よ! 貴方が1人でやるのが当然でしょう!?」


「いや……でも……」


「タクが()()()()を持ち込まなかったら、ギルドは無茶苦茶にならなかったのよ!」


琴葉がログアウトして消え去るのを、タクは呆然と見届けるしかなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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