タクの日常 その3
畑で誰も見つけられなかったタクは、仕方なく町の方へ向かう。
他のプレイヤーがいないか探すのだが……いない。
「誰もいない? どうしてこんなにも人がいないんだろう」
プレミアムパックを利用しているプレイヤー達がほとんど彼をブロックしているので、そんな光景になっているとは知らず。
フラフラと商店街へ移動するタク。
(あれ? 美味しそうな匂いだ)
里香の朝食を作るのに夢中で自分は何も食べていない事に気づくタク。
匂いにつられて、商店街で何か朝食を買おうと足を運ぶ、
一軒のパン屋に向かい、タクは塩バターロールに小さめの野菜のキッシュを購入。
「美味しい!」
普通ならここで食べて満足するべきだが、タクは何か物足りなく感じてしまう。
(う~ん……キッシュの食感が何か惜しかったし、バターロールのバターももっと濃い味がいいんじゃないかな)
そう思ってタクは再度店に足を運ぶなり。
「すみません! ここのパンをもっと美味しく作れる方法を思いついたんです! 僕にお店を手伝わせて下さい!!」
タクとしては善意のつもりで申し込んでいるのだろう。
しかし、店主である女性プレイヤーは不愉快そうに。
「は? あたしのパンが不味いって言いたい訳??」
「え……いや、そうじゃなくて! もっと美味しくする方法があるんです!! だから」
「アンタ、噂通りの奴ね。何でもかんでも自分の思い通りにならなきゃ気が済まないんでしょ。自分勝手って言うのよ」
「そ、それは違います! 貴方こそお店をやっているなら、人の意見を聞いて――うわ!?」
タクは突然店の外に突き飛ばされる。
店主がブロックしたからだ。
タクの前から、素敵なパン屋が消え、適当な一軒家にしか映らない。試しに中へ入ろうとしても、プロテクトがかかって扉を開ける事ができないのだ。
「ちょ、ちょっと!? なんだこれ。どうなってるんだ……」
彼の背後から「うわ、アイツここまで来てるよ」とひそひそ声が聴こえる。
振り返ったタクだが、誰もいない。
いつの間にか、沢山並んでいた商店街が消滅していた。皆、彼をブロックしたからだ。
それに気づかないタクは、訳が分からず呆然としてしまう。
誰もいないのかと、しばらく商店街を彷徨っていたタクはふと冒険者ギルドの建造物が視界に入った。
「……あ! そうだクエストを受けないと!!」
貢献度の為に毎日受注しているクエストを目当てに、タクは駆けこんだ。
「すみません! いつものクエストを受けに来ました!!」
冒険者ギルドの管理人であり受付を行う顔に傷がある銀髪の女性ノーブル『エリザベート』は、満面の笑みのタクと対照的に無表情無言でクエスト処理を行う。
タクがいつも受けているのは『ロストページの捜索』である。
特殊なダンジョン、ロストダンジョンと呼ばれる場所に転移されるタク。
ここには失われた情報、廃棄された遺物が落とされており、ノイズやモザイクがかかったモンスターが徘徊し、武器やアイテムが落ちているものの識別困難なものばかり。
そんな中、大量に積まれた紙束が落ちている事がある。
これが『ロストページ』。
過去に実在したと思われるモンスターやスキルの情報が記されているが、真偽不明。
支離滅裂な文面になっているなど、一般的にはゴミ扱いされる代物。
しかし、これを興味本位で収集しているNPCがおり、タクはその依頼を受け続けている。
まあ、言ってしまえば簡単な探索クエストの一つである。
実際にタクは、いつものダンジョンへ入り、いつもの場所にあるロストページを回収し、そしていつものNPCへ手渡すだけ。難易度ランクはFと最も簡単なクエストだ。
それを続けているのは、その『ロストページ』という存在、設定に感銘を受けて、クエストを熟し続ければ何か成果があるんじゃないか? とタクが勝手に思い込んでいるだけで、全く無意味な行為を彼は続けているだけなのだ。
タクのように勘違いするプレイヤーの方が珍しいだけで、別に公式側も「騙して悪いが」と言えるほどではない。
「よし! エリーゼさんに届けよう!!」
ロストページを収集している図書館司書のエリーゼ、彼女に届けてクエストは終了する。
図書館に駆けこむタクは、途中誰かとすれ違った。
扉に手をかけた時、はたと気づいて振り返った時には誰もいない。
「あれ……誰か図書館から出てきた筈なのに」
その時。タクの元にメッセージの通知が入る。
確認したら、琴葉たちから沢山メッセージが。
彼はクエストに夢中で気づかなかったが、何度も通知は来ていたのだ。
内容をみると――
「わっ! そうだ、今日は遠征に行く日だったじゃないか!! 急いで準備しないと――」
タクは慌ててギルド特有の拠点施設へ転移する機能を使い、琴葉たちの元に戻る。
その後、クエストの途中であった事に気づいて再び戻るハメになるのは、説明するまでもない。




