【あなたがアイドル】星団
別の方向性から月達は『乙女ゲーム』のシナリオでのドラマ化に反対の意志表示を出したのだろう。
だが……花が首を横に振った。
「無駄よ。私も監督とかにフローラの役に変えて欲しいって訴えたのに、聞く耳を持ってくれなかったのよ。アイツら、作者とか私達の気持ちなんてどうでもいいんじゃない」
「で……でも……私達だけじゃなくて、他の人達にも声をかければ……!」
香が何とかしようとする中。
マネージャーが割り込んで「あの!」と提案した。
「それっ、他の方々にも相談されてて……一つ解決策になるか分からないですけど、思いついた事があるんです! ――私達だけでドラマの撮影をするんです!!
一瞬、どういう意味か分からず花たちがポカンとするのにマネージャーが改めて説明した。
「企業がバックアップしてくれる『乙女ゲーム』の撮影とは別に、事務所側で『原作』のドラマ撮影をしても全然問題はありません! ま、まぁ、これは皆さんに二度手間かけてしまう事になるんですけどっ。でも原作者の方が撮影セットとかのモデリングを提供しているので、撮影移行は比較的に楽なんです」
「お……おお、おお! そっか!! 好きに撮影していいのか! 考えてみればそうだよなっ!」
そう別に撮影してもいいのだ。
これが『あなドル』のクリエイト作品における自由度というものだろう。
花も唐突な提案だったが賛同する。
「本番の練習にもなるし、悪くないわね。問題は他のキャストだけど」
「前回の方々が話に乗って下さってますので……あっ、主役を演じていた『大宮』さんに声をかけるのは……キャストを外してしまった事もありまして、なので改めて主役の方を探す事になります」
主役?
と一瞬、眉をひそめる花。
ただよくよく考えたら、主役はカンダタ。
花たちは一応、サブキャラポジションという立場なのだ。
しかも、カンダタを演じていた『大宮幸助』は花たちとは別に撮影を始めて、第一章の中盤を過ぎたあたりまで投稿を終えている。
「できれば漫画と容姿が似た感じの奴、お願いね」
花がそう告げたのに、香が申し訳なさそうながら提案した。
「えっと……もう一度、大宮さんにお願いするのは駄目、かな?」
「はぁ? 何言ってんの、香」
「だって、似た人を探すのだって大変だったんだよ!? 大宮さんに、今やっているドラマとは別って伝えれば、もしかしたら……」
香の意見に、月と焔も渋い表情をしてしまう。
それぞれが花よりオブラートだが、香の意見を否定した。
「流石にやめた方がいいわ、香。彼は、私達や他のアイドルグループの方と気が合っているようではなかったもの」
「アイツもアイツで仲いい奴と撮影してるみたいだし、水差すのは止めよーぜ?」
「……うん」
★
「……カットです! 皆さん、お疲れ様でした!!」
「やったー!」
「じゃあ、あたし達向こうで『レッスン』するね~」
「はい! 頑張って下さい!!」
一方、幸助たちの方では順調に撮影を終えていた。
幸助たち以外にも、令嬢役としてスカウトしたアイドル達や作詞作曲をするアイドル、服のデザイナーやインテリアなどの設計図、漫画や小説を執筆するアイドル……
という具合に、様々なメンバーが集った。
作品に登場するメインキャストだけでも、結構な人数がおり、訳アリアイドル達だけで構成するにあたって、中々メンバーが揃わない中。
何とか第一章を完結できる程度まで揃い、撮影を進めていた中……
ドゴォォン!
突如、巨大な効果音が撮影空間で響き渡った。
まるで爆発したかのような騒音に、昼寝をしていた幸助も飛び起きる。
「ウルセー! 一体なんだよ!?」
「お、大宮くん! あれを見て!!」
AIマネージャーが指さす上空を幻想的な輝きが覆っている。
『あなドル』をやっていて見た事ない現象に、目を見開いている幸助を他所にAIマネージャーは興奮気味に語った。
「『星団現象』よ! す、凄い! 凄すぎる……!! 私も生まれて初めて見た……!」
「……なにそれ?」
「って、知らないのぉ!? 凄い事なのよ!」
「ふーん?」
幸助も、他のアイドル達も目の前の光景をいまいち理解できていない為、反応が薄い。
ただ唯一反応を見せたのは、アイドルの追っかけをしていたノア役の『薬師寺』。
「『あなドル』の隠し要素があると噂には聞いていたな。他のアイドルを区別化させるという特殊強化らしいが……企業絡みのVRMMOだから、情報統制がされてて一般的に広まっていないんだ」
「へー。隠し要素とかあんだ。……でも、ステータスとか変わってないぜ?」
「あ! 『星団現象』は『星に選ばれた御方』には影響はないの。関わった事象に特別な名誉が与えられるのよ。今回は多分、皆様が関わった作品に対してね」
「なーんだ。ステータス上がれば面白かったのにな」
これといって変化もない為、アイドル達は各々やりたい事に戻っていく。
『星団現象』の効果は大分後になってから発揮されるもので、幸助たちは勿論、他のユーザーすら知る由もなかった。




