【ヴァルフェリアオンライン】田んぼ
「問題ありませんが、事前に何か必要なものなどありますか?」
異邦人……つまりプレイヤー同士の交流場か。
私が把握している人達以外だと……キャサリンさん達とフレンドになっているカモミールさん、ぐらいか?
他にもいるのだろうか。
ともあれ、私が事前準備を確認すれば、意外そうな反応でイーリスさんは「いえ」と言う。
「とくに準備の方はしなくてよろしいかと……あっ、ただ、流石にノーブルの礼儀作法に準じて下さい。下界の子達は寛容で、何も注意はしませんけど」
えっ、そんな不味いマナー違反してた?
礼儀作法あったなんて知らなかったんだけど!
思い返すと色々覚えがあるので、試しに尋ねてみた。
「目上の方には『創造言語』を解除しなければならないのですか?」
「え? いいえ。それは問題ありませんし、『創造言語』の緻密さで相手の技量を確かめられるのでアピールポイントになりますよ」
「毎日同じ服着るの駄目とか」
「えーと、同じ服着るどころか毎日睡眠取らなかったり、一定期間休眠する子もいますし」
「……ひょっとして大食いが品良くない、とか?」
「ああ……それは、まあ、うーん。マナー違反ではないけど、珍しいというか。ノーブルは食事を億劫に思う種族なので、オーギノさんがどうしてそんなに食べるのか好奇の目で見ている面はあるかも知れません」
食べるの嫌い!?
だから、ドーナツセットの時もあんな風に尋ねられたの?
でも……コーデリアさんは飲料ゼリー売ってたし、ああいう感じで食事を済ます種族って事か。
見当違いの質問をしてしまった私に対し、イーリスさんが告げた。
「これです。異邦人の方々は『後輪』を使って地に足を付かないようにしていません。これがノーブルにとっての最大のマナー違反。卑屈な自虐行為と見られるのです」
ええ!? それなの!!?
で、でも、当然か。ある意味、納得。
NPC達も、管理AIのイーリスさんですら後輪の座椅子を使って、地に足をつけない。
そ……そうかぁ。これかぁ……でもなぁ……
「恥ずかしい……」
「はずっ、え!? 恥ずかしい!!? 何故!」
思わず呟いた私の言葉に、イーリスが驚いていらっしゃる。
慌てて私は訂正した。
「遠くから見る分はいいんですよ。NPCの方々がやるのは全然いいです。むしろファンタジーっぽい生活習慣でいいなぁと。でも、自分自身がやるのは、恥ずかしいというか。実際、私以外の異邦人の方々もやっている人……いないですよね」
「まぁ……確かに。一応、バルフォードはやっておりますが、あれは彼なりに『後輪』を活用した結果ですものね……ですが、今回の会合ではどうにか、やって頂けると幸いです。会合には女王陛下もいらっしゃいますので」
え、あ、はい。
私は気まずく「わかりました」と頷いておく。
話を終えたイーリスさんが案内をした。
「それではオーギノさん。改めまして、これより『ヴァルフェリアオンライン』の世界へ再びいってらっしゃいませ。どうか、良き生活を」
★
って、嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?
私がオギノのアカウントでログインし、マイルーム空間に転移。
同時に、テイムしている瑠璃さんとドラゴン君が現れた。
テイムしている彼らは、アバターがログアウトしている最中の時間干渉を受けない為、私と同じくタイムスリップした感覚にある筈。
そんな私たちの前に広がるのは……田んぼ!
辺り一面の田んぼ!!
私が整地した場所が全部田んぼに変わってるんだけど!! 全部!!?
「なー……」
「ちゅら!? ちゅら、ちゅら!!?」
流石の光景に、瑠璃さんとドラゴン君も唖然としていらっしゃる。
立て続けるかのように、私達に向かって、奥から白い塊が迫って来る!
げえ!? 『スターラビット』!
額に星マークのある兎達は、農家にとっては害獣扱いされている存在。
夜空を飛行し、上空から集団で農作物を食いつくしに流星群が如く飛来するのだ。
コイツらの特攻攻撃で、NPCも、プレイヤーも犠牲が尽きない。
『スターラビット』の群れがわらわらと私達の周囲を取り巻く。
咄嗟に『創造言語』で光の防御壁を展開して、瑠璃さんとドラゴン君も一緒に守ったが、攻撃はしてこない。
けど……多い! 無茶苦茶いるんだけど!!
「先生!? 大丈夫ですか、先生!」
兎まみれで周囲が見えないけど、この呼び方はアレクさん!
「大丈夫です!」と返事をしたら、返事が聞こえているのか分からないけど、アレクさんの信じられない怒号が響き渡った。
「アレス! お前の兎共を何とかしろ!! 私が焼き払うぞ!」
「だぁーもぉー! 変な事しなきゃ大人しくしてるんだよ、コイツらは!! 侵入者が来たから反応したってだけで」
「ここの所有者は先生だぞ! 侵入者も糞もあるか!!」
……な、なんか。
やっぱり環境が変わると、性格は変わるんだね。




