【まほ★まほ】漏れ
荻野が影でモルガンの誕生日イベントに苦戦する中。
世間一般の反応は様々だった。
中でも大きかったのは、最終的なイベントの仕様について。
何だかんだ、運営の社長ポジションであった真帆与から強制的に引き継いだ博人が、真帆与の我儘な世界観を叶えたのである。
かつて、彼女の友人たちが匙を投げたものを。
表面上は変化がなくても、他プレイヤーたちは違和感を覚えるような些細なものを組み込んでいく。
その一つが、荻野も関心していた誕生日イベントのポイント仕様。
クラフト有利にせず、かといって周回有利にせず。
各プレイヤーが平等に報酬が貰える具合。
それが各ポイント固定というもの。
クラフトすれば何でも500ポイントに換算される。
でも、周回一筋なプレイヤーからするとポイント確保の為に、一々クラフト作業に移らなけらばならない手間に苛立つ。
だからといって、格差は生じない。
簡単なクラフト作品でもポイントアップするのだから、真面目にポイントを稼ぐのは基本。
そして、これらは通常プレイでも適応されている。
スキルの仕様は変化しないが、格差が生じる程ではない調整を行っていく。
クラフト一強でも、プレイスキル一興にも、スキル一強にはしない絶妙な塩梅。
博人はこれをとにかく重視して、微修正を行っていった。
『マスター。イベントコースのモデリングが完了しました』
「ああ……ありがとう『MAO』。はぁ~~、これで一段落着く……」
真帆与がポンコツ扱いしていたAI『MAO』も博人は有効活用していた。
簡易的かつ、単純な作業であればAIはしっかり仕事をしてくれる。
荻野が妖精の雑用を投げている感覚で、単純な雑用だけをAIに任せるだけでも作業効率が格段と良くなるのだ。
むしろ、商業用AIであった『MAO』がここまで独自に試行錯誤し、真帆与たちの無理難題に合わせて来た事こそが博人にとっては奇跡に感じる。
そして『MAO』に任せていたのは次のイベント特設ステージ。
競技性イベント『魔法技能大会』。
制限時間内に魔法で的当てする射撃。
箒によるPVPレーシング。
様々なギミックがあるダンジョンのタイムアタック。
こういうものであれば、真帆与が願う通り、子供でも大人でも楽しめる要素なりうる。
PVPレーシングだけは若干荒れるとは思うが、ある程度の割り切りとした。
レーシングでも荒れて、やめろと言われるようなら、もう何もかも駄目だろうと。
『マスター。「バーチャル・リアリティ技術研究所」よりメールが届いています。内容は味覚データ申請の許諾についてです』
「おっしゃ! 良かった~。ほんと、何で真帆与の奴ら、申請しなかったんだよ……概要リンク張るだけで済むってのに。どんだけ広告とか嫌ってたんだ。しかも……こんなにあった案件も、全部断ってさ」
彼女たちの異様な拘りに溜息を漏らす博人。
料理の味覚データについては、提供料を渋るVRMMOは多くある。
味覚データを取り入れているVRMMOの方法は様々。
『あなドル』や『WFO』は出資や広告宣伝している店舗や企業がデータを提供し。
『FEO』は、実は慈善事業に参入している自社が作成したデータなので、実質タダ。
そして、プレイヤーの味覚情報を提供する事でタダで味覚データを提供してくれる研究機関への許諾がある。
これは『まほ★まほ』以外のVRMMOも取り入れている事もあって、味覚のクオリティには拘れないものの。
現状、味覚を楽しめない、死にコンテンツとなっている『料理』クラフトにとっては重要要素だ。
他にも、宣伝や特集を組みたいという出版社からの依頼もあった。
が、真帆与たちは全て断る有り様。
加えて断る文面も、真帆与が対応したのか酷い内容で、博人は頭を抱えてしまう。
お陰か、特集の依頼は一切入らなくなっていた。
真帆与たちは、真帆与たち独自でVRMMOを作って、それこそのんびりまったり活動したかったのだろう。
だが、VRMMOの仕様上、運営にのんびりも、まったりも許されない。
彼女たちは根本を理解していなかった。
「とにかく、赤字にならないようにやっていくしかないな……ある程度したら、オフライン版を作成してサ終しよう。俺だって長く張り付きたくねぇもん」
これは別に博人が投げやりだから、という話ではない。
そもそも、真帆与たちが責任を取るべきものを、博人がやるハメになった訳で。完全な尻ぬぐいなのだ。
ただでさえ赤字運営になりやすいVRMMOを惰性で続ける訳にはいかない。
ある程度の元を取ってから、サ終をという奴だ。
それに、適当な形でサ終しては、真帆与が更に癇癪を起す。
「あとは……『MAO』。ユーザーからの問い合わせを幾つかピックアップしてくれ」
『かしこまりました。不具合の指摘報告を受けているのは「傘」の能力値についてです』
「傘? え、傘って武器にあったっけ」
『はい。杖の派生武器として登録されております』
ファッションアイテムの一部には、傘以外にも『扇』なども武器判定で登録されていたりする。
これまで、武器の補正値を調整しまくっていた博人だったが、主要武器――主に問題視されていたタロットカードの調整に注力しており、傘や扇などは眼中になかった。
慌てて確認すると――
「……やべぇ! 調整されてねぇ!!」
荻野が何度作っても能力補正が載らないのは当然だった。
傘には能力値の調整がされていないのだから。
故に、とんでもなく品質が良くても、能力値が低いという訳の分からない仕様になっていたのである。
そもそも、自前で傘を作るという物好きが『まほ★まほ』では少数だった為、疑問視されず。
博人も把握できていなかった。




