【あなたがアイドル】撮影
「大宮くん! ドラマ撮影に協力してくれる『星に選ばれた御方』たちよ!!」
「はぁ?」
幸助がログインして事務所に来るなり、AIマネージャーが突然見知らぬプレイヤーことアイドル三名を紹介し出した。
「こちらの茶髪の方はカンダタと同室のテオ役の『平坂』さん」
「基本は受験勉強の為にログインしています。勉強場所を提供してくれると聞いて来ました」
「こちらの黒髪の方はノア役の『薬師寺』さん」
「推し活の為にログインしてます。なので撮影より萌葱ちゃんのライブを優先するのでご了承ください」
「こちらの金髪の方は乙女ゲームでの攻略対象の一人、ヴェス役の『二階堂』さん」
「裏で料理作ってばっかりだから、そこんとこよろしく!」
「全員アイドル活動してねぇじゃん」
幸助の突っ込み通り、様々な理由でアイドルではない活動をする面々ばかり。
しかし、AIマネージャーも「そうよ!」と答えた。
「大宮くんのように活動されていない方々というのも、結構多いの。大宮くんと同じで訳ありの人達なら、大宮くんも一緒に活動するのに抵抗がないと思ったから……取り敢えず、このメンバーで最初のシーンは撮影できるから、やってみましょう!」
「げぇ、マジかよ」
やる気は全くないが、AIマネージャーが勝手に呼んでしまっただけに、やるしかない。
渋々、台本に目を通すが幸助はある異常に気づく。
異常というか、前回のドラマとは大きく違い過ぎる点があった。
「あ? こんなシーンあったか??」
「前回はカットされた部分よ」
「テオと勉強するシーンとか、なかっただろ」
「それも前回カットされたの」
「生徒会の仕事押し付けられるも……」
「だから全部カットされてたのよ! 本来だったら、こんなに大宮くんが担当するシーンがあったのに……私、結構ショックだったわ」
「いや、多すぎだっつーの」
前回のドラマがいくら短縮版とは言え、幸助のやる部分があまりに多すぎる。
他にも、協力してくれるアイドル達も結局は素人。
学園祭の舞台並の出来栄えだろうと幸助は期待しなかった。
結果として――幸助も含めて全員の撮影は今日中に終了。
撮影自体は、最初に他メンバーが登場するシーンの撮影を終えてしまい。
残りは、幸助自身とマスコットキャラクターとして登場する『カーバンクル』とのシーンを長く撮影しただけ。
意外と難しい場面はなく、台詞も少ない。
幸助は比較的多かったものの『カンダタ』のキャラクターの都合上、小難しい専門用語や長い台詞がない為、気楽な方ではあった。
ただ、幸助は眉をひそめる。
(な~んか、前より楽な気がするな。……あのウルセェ奴がいないからか?)
★
「原作通りじゃないって、どういう事? 絶対荒れるじゃないの! ただ原作通りにやればいいだけなのに――」
「美月さんっ、少し話を聞いて!」
花たちの方では、今回のドラマが原作通りではない。原作改変であると聞いて、花は騒ぎを起こしていた。
これには他メンバーたちも納得がいかない様子。
月が冷静に、花を宥めるマネージャーに尋ねた。
「私達も花と同じ気持ちです。事務所側の都合で、私達の誰かを主役にする為に、あえて原作を改変するというなら、それは違うと思います。どういった理由で、原作改変の脚本で撮影するか監督からお話はあったのでしょうか?」
「は、はい。今回は原作のベースとなった『乙女ゲーム』のシナリオをドラマ化する。謂わば、原作の前日譚的なものを作りたいと……」
「知らないわよ! 視聴者が求めているのは前日譚じゃなくて、原作そのもの!! 私は撮影から降りるわ。冗談じゃない!」
「み、美月さん! 美月さんは、主人公――乙女ゲームのヒロイン役に抜擢されたんです!! 降りると言われても困ります!!」
「はぁ!? どうして第一王子の婚約者『フローラ』じゃないのよ! もしも、原作通りのドラマの方を撮影する事になったら、私が頭おかしい転生者役やらなきゃいけないじゃない! ふざけんじゃないわよ!!」
そんな怒声を吐いて、花は別の場所に転移する。
ステータス維持の為のトレーニングを黙々とこなして、怒りを鎮めようとしていた。
一方で、花が『フローラ』役ではないと聞いて、香は慌てる。
「えっ、あのっ、私達の役って前回と違うんですか……?」
「いえ。『水無瀬 月』さんは前回と同じく水魔力を持つ子爵令嬢『アイリーン』。『小日向 焔』さんも前回と同じく火魔力を持つ男爵令嬢『フレイア』。あ……『花牟礼 香』さんが『フローラ』役に変更されています」
「ええ!? わ、わわわわ、私がフローラ!!?」
香は非常に戸惑っていたが、焔と月は別に問題ない風であった。
「でも、香って漫画版のフローラと雰囲気にてるし、いいんじゃね?」
「ええ。雰囲気というか、表情も、穏やかな香と似ている顔立ちだから、そこは監督が色々精査して判断してくれたのかもしれないわ」
「そ、そうかなぁ。でも、フローラって結構難しい台詞が多いから……大丈夫かなぁ」




