【あなたがアイドル】はじまり
「ええ!? 大宮くんっ、キャストから外されたって……嘘でしょ!?」
「別にいーだろ。そもそも突っ立ってるだけで、いいって言われてたし。金も貰えたからな。つーか、本格的な奴だと台詞覚えねーと駄目だから無理に決まってんだろーが」
華やかなアイドル達が切磋琢磨する裏側。
世間的としては弱小アイドルとして活動しているプレイヤー達がいた。
彼らはアイドル活動は愚か、荻野のようにバイターなどの仕事や趣味で足を運んでいる訳ではない。
ここを集合地にして、気ままにだべっているだけ。
変な話、VRMMOでは珍しくない光景だ。
荻野のようなバイターよりも、良くも悪くも怪しまれない。
真剣にアイドル活動をしているプレイヤーが多いだけで、ここは平和なのだ。
攻略最前線を走ってピリピリしている奴や、PK集団、他多数の害悪プレイヤーは比較的少ない。
事務所に所属していれば部外者は入って来ない。
だらだらと自由に過ごせるのである。
「あぁ……初めて、仕事が入ったのに。こんなのって、あんまりよぉ……」
事務所に所属するたった一人の事務員でありマネージャーとか諸々全部兼任している女性AIが嘆く。
ここの所属アイドル『大宮幸助』が、最近ドラマのキャスト。
しかも、主人公に抜擢される快挙には彼女も感激していた。
だが、現実は主人公なのに、何でか全然台詞がない。
立っているだけでいいと言われて、幸助は本当に突っ立てて外野の騒ぎを傍観して欠伸するだけで、何も指摘されず撮影終了。
そして、本格的なドラマ撮影のキャストには抜擢されず。
AIマネージャーは気を取り直して、彼に提案した。
「大宮くん。こうなったら、私達だけで撮影してみない?」
「はぁ? 無理に決まってんだろ。原作読んでねーけど、結構人数必要らしいぜ。ふぁ~、俺『DRDR』の集合時間まで寝るわ」
幸助は、事務所のソファで爆睡を始めてしまう。
AIマネージャーは盛大に溜息つく。
あくまで彼らはAIなので、ゲーム上で設定された行動パターンを行う。
彼女の場合、幸助の様子に呆れながらも、彼が撮影を否定していなかったと判断した。
何故なら、キャスティングに必要な人数が多く、撮影が困難というだけ。
別に撮影を否定はしていない。
実際、幸助は小遣い稼ぎとは言え、ドラマ出演したのは事実である。
「キャスト……うーん。そうね。まずは原作の把握から……え? こ、これ……」
AIマネージャーが発見したのは、原作の小説。
それに加えて、漫画化およびドラマ化に必要なモデリングデータである。
かなり膨大なデータであり、わざわざ原作者は舞台のデータを再現する用のサーバー料金を支払って解放している。
つまり、自由に見学するなり撮影するなり、やってくれという訳だ。
加えて登場人物の簡易的なモデリング。
代理アバターを使って、足りないキャストをNPCで再現できるものだ。
台詞や行動、表情を、第三者が指示・操作する事が可能。
更に、各登場人物の作中タイムスケジュールから、魔法のエフェクト。
作中に登場する異世界の生物のモデリングまで。
「す、凄い!? 流石、星に選ばれた御方……!! これがあれば大宮くんだけでも、撮影する事ができる! ……でも。なるべくキャストは星に選ばれた御方達で埋めた方がいい。よし、後は私が頑張るだけね……!」
★
一方、花たちが所属する○○プロダクション事務所。
オーディションの宣伝が開始し、着々とスタッフが集結していく。
そんな中。社員の一人が必死に訴える。
「待って下さい!? 折角、原作者の方が用意して下さったんですよ! 少しでも目を通して――」
「ああ、もう! そういうの要らないから!! 全く、これだから素人は。そんなもの渡されたって、こっちが困るんだよ。原作の原文だけ残して、後は捨ててくれ。こっちにはこっちの都合があるってのに」
現場監督が、そう突き返す。
実際、荻野のやった事は余計な迷惑なので、否定しようがない。
社員は不安に思って、二つだけ資料を渡す事に。
「……ではこちらを送付します。一つが原作である男性主人公の物語。もう一つは、舞台の基盤となる乙女ゲームの原作です」
「……ん?」
「ですから。ご説明した通り、このお話は舞台が乙女ゲームの……」
「いやいやいや。それは分かってるって。……えーと? 本来の原作と、乙女ゲームの原作? 何? 二つもあるの??」
「原作者の方は真面目のようで、矛盾がないようにわざわざ、乙女ゲームの原作を実際に執筆してから、男性主人公の原作を書いたんです」
「えー、気持ち悪い奴だなぁ。そこまでやる?」
なんて文句垂れながら、資料をざっと流し見した監督は「これ」と言葉を漏らす。
「普通に、乙女ゲームの方が面白いじゃないか。よし! こっちをメインにしよう!!」




