【あなたがアイドル】諦め
「一つだけ、条件があります」
「は、はい。何でしょう!?」
「多分、というか通常であれば普通の事ですが、私に直接撮影現場に出向くようにとか、出演者と関わらせるような真似をしなければ、構いません。あ、勿論、作品の使用料はお願いします。この会話は録画してありますので、後になって契約違反するような要求をしたり、使用料の滞納が発生した場合、証拠として提出します」
「はい!? え……ああ、まぁ、わかりました。使用料は後程、事務所から通知をお送りしますので、そちらから口座などの手続きの方をお願いします」
「かしこまりました」
ふぅ……
安西さんと話を終えた私は、事務所の一室から転移機能で外へ抜け出す。
ま、原作者って原作使用料をポンと支払われて、それだけよ。
現実は非常。
実の所、結構私は実写化作品を生み出しまくっている。
でも、その多くが原作改変まみれ。
原作に登場しないキャラがいたり、男性だったキャラが女優の為に、女扱いされたり。
シナリオ通りでも出来栄えが酷かったり……その度に、痛感し続けた。
ドラマ化や映画化なんてものには期待しない。
適当に――真面目に話は考えてるけど――書いた小説で百万円程度を貰えるだけ、いい小遣い稼ぎってことで、もうどうでもいいのだ。
今回は、経緯が特殊過ぎてアレだったけど。
ドラマも映画も原作者そっちのけで作成されるので、現場に呼び出される事なんてない。
だから、念押しする必要もないのだが……あの、花ってアイドルがね。
あまり関わりたくないって言うか。
相性が悪そうだから、接触したくないというか。
ぶっちゃけ、嫌いなので関わりたくない。
何で、こんなもので、私が被害者なのに更にストレスかからないといけないのだよ。
そんでもって、お次は漫画の方か……
公開停止されてしまったから、どんなものか確かめようがないんだよな。
一先ず、話し合うしかなさそうか。
★
花たちは原作者からの許諾が降りた事で、短編ドラマも公開されたまま。
作品については、親作品登録をし忘れていた程度の扱われ方で、上手くトラブルを切り抜けられた。
その代わり――
本格的なドラマ撮影を行う為、コンサートは当分行われない。
新曲も、折角だからドラマの主題歌を作ろうという話に。
「一時はどーなるかと思ったけど、しばらくコンサートはなしかぁ。体が鈍っちまいそうだぜ」
焔の不安に対し、月も「そうね」と頷く。
「感覚を失わないように、ダンスの振り付け練習は短くても、やっておいた方がいいかもしれないわね」
「あっ! そういえば、運動してないとステータスも低下しちゃうって聞いた事あるよ」
「げぇ~。どのくらいの頻度やっておかねぇとキープ出来ないんだ?」
彼女達は彼女達でドラマ撮影に向けた不安要素を話し合っている中。
険しい雰囲気で花が叱咤した。
「ちょっと! 今はそういう場合じゃないでしょ!! アンタ達、本当にやる気ある訳!? 香! アンタは台詞しょっちゅう噛むんだから、練習しなさい。焔は台詞忘れるんだから、今からでも原作を読み込みなさい! 月は――、そういうのはプロデューサーが調整してくれるんだから、ドラマの方に集中して!! 最初に提案したアンタ達が一番やる気ないのは、どうかしてるわよ!?」
一際、花がドラマを意識し過ぎている風にも思えるが、それほどまでに彼女は本気なのである。
これが女優デビューの切っ掛けになると考えているのだ。
もしも、荻野がドラマ化を断れば、どうなったか分からない程に。
花の気迫に押されながら、月たちも練習を行う事にする。
一方、許諾に一安心したのも束の間、事務所の方では社員達が全員唖然としてしまった。
「な……なんなんですか? これ」
「えっと……荻野さんから送られて来た原作の、まだ未掲載されてない分と、設定資料?」
「いや、いやいや。本当になんなんですかこれ……3Dのマップ?」
「それ、舞台の学園と周辺のVRマップらしいです。撮影する際に利用して下さいとのことです」
「このスケジュール表って……?」
「作中の登場人物のスケジュール、らしいです。ジャンルが推理ものなだけに、主要キャラの行動や無理ある移動や、アリバイの立証に使用していたと」
「え。恋愛ものじゃないんですか? 推理ものだったんですか??」
「……本当に何なんですか、これぇ」
送られて来たものに、圧倒される社員一同。
荻野はどうせ使用料をポイと渡されてお終いだと諦めているので、嫌がらせ半分にポイと膨大な資料を渡したのである。
改めて、安西は皆に呼び掛けた。
「資料の方はドラマの監督・スタッフに引き継ごう。それよりも、キャスティングだ。前回の短縮版とは違い、長期ドラマ化を前提にオーディションの開催を行う! VRMMO内で大々的な宣伝をしよう!!」




