【あなたがアイドル】小説
時はかなり遡る。
荻野が『あなたがアイドル』……『あなドル』に小説を予約投稿後、しばらく経過した後の話。
ある女性アイドルグループたちが、ダンスレッスンを行う部屋で集合したところ。
一人が唐突に提案をしたのである。
「花ちゃん! 私達でドラマ撮影してみない!?」
「……ドラマ? コンサートはやらないの」
花――『美月 花』というツインテピンク髪の少女。
迷惑VRプレイヤー・タクの騒動に巻き込まれ、賠償請求した被害者ではあるが、彼女は普通にダンスレッスンを励もうとしていた。
花は、良くも悪くも真剣にアイドル活動を勤しんでいる。
たが、彼女と同グループメンバーは、ちょっと気が抜けていた。
ちゃんと練習はしているし、ダンスも歌も、ゲームの実況配信もやっている。
それでも、何か真剣ではない。
学生の部活感覚で取り組んでいるようだった。
実際、この時、花に提案したメンバー……金髪ショートヘアの香も「コンサートがやりたくない訳じゃないよ!」と少しむっとした表情で否定する。
「でも……ほら。花ちゃんだって前に言ってたでしょっ。いつか舞台とかドラマみたいな役を演じてみたいって。ここでなら舞台セットもAIがそれらしいの用意してくれるし、服とかもパパッて出来ちゃうみたい!」
メンバーのもう一人・赤髪ポニーテールの焔が言う。
「この間、『クリエイトエリア』が解禁されただろ? そこに投稿されてる小説とか漫画を台本にやってみねーかってさ」
「は? そんな事していい訳??」
怪訝そうな花に対し、青ロングヘアの月が答えた。
「ゲーム内で二次創作の規約設定をできるのよ。だから許可がある作品を選んでやってみましょう」
花は「まぁいいけど」と素っ気なく了承する。
勿論、彼女は本気でやる。
だけど、他のメンバーはどうだろうか?
面白半分の学園祭の演劇部のノリを出されては、冗談ではない。
しかし……
「う~~~ん……なんかなぁ。恋愛ものって何が一番ウケルかわかんねーや。これがランイキング一位ってマジかよ?」
「ちょっと、焔。あまりそういう事は言わないの」
「でもさ~~~~。香の方はどうだ?」
「私はメンバー全員が登場できるような作品を探してるんだけど、登場人物が多い作品がないよぉ」
「あ! 確かに!! 一番それ大事じゃん!」
「小説の場合、登場人物が多いと読者が混乱してしまうから、登場人物少な目で話を展開していくのが受け入れやすいのかしら……漫画の方も見てみましょう」
メンバーがそれぞれ意見を交わす中、花は作品を流し見て溜息をつく。
『クリエイトエリア』で文句垂れていた男性プレイヤーの指摘通り、登場人物の少なさもそうだが、ありきたりな逆転・スカッと・ざまぁ系の話ばかり。
それを恋愛ものとして発表している始末。
(まともな作品なんて無いでしょ)
漫画の方は、落差があった。
面白い作品があったとしても短編で登場人物が少ない。
メンバー全員登場できる程の登場人物の多さでも、内容がイマイチ惹かれるものではなかったり。
そんな中、やっとまともで彼女達が納得できる漫画作品を発見できた。
題名は『ここは乙女ゲームの世界のようですが、俺の前世には乙女ゲームなんてものはない』。
……という長ったらしいもの。
近年、長ったらしい、作品の内容を説明する題名作品が多い。
内容を確認せずとも一目でどういう作品か伝えられる為、なんだとか。
花も長い題名が好きではないが、内容は中々まともだ。
題名説明通り、舞台は乙女ゲームの世界なのだが、主人公は男性であり、前世はあるが近現代出身ではない。
果たして、主人公は無事に乙女ゲームの舞台となる学園生活を終える事ができるのか?
ジャンルは恋愛。
主人公が恋愛をする描写はない、でも周囲のキャラは恋愛の駆け引きをしまくる。
内容、ではなく世界観が乙女ゲームの舞台というだけあり、登場人物は多い。
乙女ゲームのヒロイン、であり転生者の少女。
ヒロインの攻略対象となる六人の子息。
ヒロインのライバルポジションとなる六人の令嬢。
他にも細かな登場人物――貴族関係者、学園関係者、魔力属性ごとの祭の開催に合わせて登場するキャラたちを含めて、とんでもない数になる。
納得しているが、主要キャラの多さに花も聞き返す。
「私もこれでいい。てか、色んなもの見てコレが一番マシ。でもメインがこんなにいるのよ? しかも、男性が結構多い……どうすんの? マネージャーに相談するしかないじゃない」
「待って。上手く工夫をすればできると思うわ」
月がある提案をした。
「全ての場面を撮影をしない事にしましょう。この作品の場合……区切りがいい所は、学園内で転生者のヒロインが暴走して大混乱を引き起こした『魅了魔法暴走事件』。ここまでを撮影して公開するの。その際、次の展開に登場するキャラ描写はカットする」
「そんな事していいの? 原作改変って色々問題があるじゃない」
「花。今回のドラマ撮影……視聴者の反響は未知数でしょう? まずは様子見して、評判が良ければマネージャーさんを通して本格的なキャスティングと撮影をした方がいいわ。結構、挑戦的な事をするのだから、下手な真似はしないで慎重にいきましょう」
「………」
花は結構複雑な感情だ。
この手の提案は、月の方が上手。
実際、自分たちのドラマがどれ程、影響を及ぼせるか、評価されるかは不明。
先の見えない道なのである。
焔も「おー! 確かにな~」と納得し、香は「私、どこを切り取るか考えるよ!」と積極的に取り組む。
何だかんだ、彼女達は自らの仕事を進んで行うのだった。




