【まほ★まほ】難題
時は少し遡る。
真帆与は呑気に新規の来客NPCのデザインを行っていた。
キャラの口調や色彩、理想のキャラボイスまで、彼女なりに設定していく。
『まほ★まほ』の世界観を生み出しただけあって、クリエイト部分だけは秀逸なのだ。
気分転換にエゴサをする真帆与。
そこである事に気づく。
「え……? どういうこと??」
あるユーザーが『まほ★まほ、完全オープンワールドじゃなくなって寂しい; ;』的なコメントを流していたのである。
マイルーム空間が個別となり、荒らしや嫌がらせからは回避する事で安心感を抱く荻野のようなプレイヤーもいれば、MMO特有の他人の気配を味わいたいというプレイヤーもいる。
というか、基本VRMMO通いするプレイヤーは、接触的コミュニケーションを求めているものなのだ。
当然、真帆与もそれが良いと感じて『まほ★まほ』をオープンワールドにしたいと要望していた。
ただ大企業ではない、ほぼ個人事業のような真帆与たちでは、小規模なサーバーしか用意できない。
仕方なく、サーバーごとにオープンワールドを生成する形式にすると話し合いで決まった筈。
なのに……
「オープンワールドじゃなくなってるの!? ちょっと『MAO』! ワールドに変なことした!? 何で余計な事したのよ!!」
『はい。全ての空間をオープンワールドと一体化するとサーバー負荷が膨大となります。しかし、オープンワールドを限定化する事でサーバー負荷が大幅に軽減され、多くのユーザーが快適に利用できるようになります』
「――――ふっざけんじゃないわよ!!! このポンコツ!!! 今すぐ元に戻しなさい! 今すぐ!!」
『かしこまりました』
呑気に淡々と答える『MAO』に対し、苛立ちを感じる真帆与。
自分のせいじゃない。
余計な事をした『MAO』に責任がある。
『MAO』に緊急メンテナンスをさせている間にも、気分転換として真帆与は呑気に外出。
いい値段のレストランで食事を取り、映画を見て、お洒落な服を買う。
休日をそんな具合に過ごして、疲れて爆睡。
更なる事態に気づいたのは月曜日になってからだった。
「は? な、何よコレ」
何と『まほ★まほ』がニュース番組で取り上げられていた。
朝食を取る過程で、何気なくつけたテレビの画面で『まほ★まほ』の公式HPが映し出され。
ひょっとして特集が組まれたのかと、歓喜した真帆与だったが……全然違う。
『話題沸騰のVRMMO「魔法使いはまったりほくほく暮らしたい」。通称「まほ★まほ」が現在アクセスできない状況となっております』
『一昨日、緊急メンテナンス実施後、ユーザーが「まほ★まほ」にログインできない状況が続いております。現時点で運営公式からの発表はありません』
『「まほ★まほ」は先日から複数回の緊急メンテナンスを実施しており、システム内容の大幅変更を繰り返しておりました。それによるユーザーからの反発的な意見が多くみられる状況です』
まさかの不祥事の取り上げである。
こんな形で認知されるのは不愉快極まりないが、それよりも――ログインできない状況を把握していなかった真帆与は、朝食を取らず、慌てて加速空間へログインした。
「『MAO』! 何やってんのよ、この馬鹿!! 本当にポンコツじゃないの! 皆が『まほ★まほ』にログインできない状況になっているの! 何とかしなさい!!」
『おはようございます、真帆与。プレイヤーがログインできないのはサーバー負荷が膨大な為、』
「だから! それを何とかしなさい!! 元のオープンワールドのまま!! ログインできるようにして!」
『――かしこまりました』
AIである『MAO』は簡単に返事をするが、無理難題である。
オープンワールドのままに、それでいてサーバー負荷をかけないでプレイヤーをログイン可能にする。
限られた容量のサーバーで全て処理する。
どれもを保ったままという無茶苦茶な要求に応える。
『MAO』はAIとしての最適解を再び計算し、結論を導く。
★
『真帆与、緊急メンテナンスが終了いたしました。各サーバーごとに全プレイヤー収容完了です』
流石の真帆与も『MAO』に確認する。
「本当に全部元に戻ったの。変なの追加したり、消したりしてないでしょうね」
『はい。各サーバーの全プレイヤーを収容し、オープンワールドを稼働する事は不可能であると判断した為、探索エリアを削除しました』
「………は?」
『また各大陸を海で隔てておりましたが、海の処理に膨大な負荷がかかる為、海を削除。各大陸を削除した探索エリアで穴埋めしました。これにより大幅に負荷を削減し、全プレイヤーを各サーバーのオープンワールドに収容する事が実現できました』
「…………………はぁ?」
『各所で発生するNPCのイベント、モンスターの発生処理、天候操作など大幅に削減。戦闘関連のデータを削除し、クラフト関連のデータを追加しました』
あまりの展開に真帆与ですら、怒りを通し越してしまう。
何でもかんでもAIに押し付けた末路。
自業自得とは言え、あまりの酷さに何もかも、どうでもよくなってしまった。
「もう知らない。私、課金とか運営とかよく分からないから。アンタがやったんだから、アンタが責任取ってやりなさい。私に迷惑かけて赤字出さないようにするくらいは出来るでしょ」
『かしこまりました』




