【ヴァルフェリアオンライン】安倍晴明
三日目。
私はこれからのバイター生活を送る上で一つ懸念するのは、タクという厄介なプレイヤーの存在だった。
WFOの掲示板や『まほ★まほ』のそれらしい彼の言動を観察するに、しつこい人間だと。
良くも悪くも人にちょっかいをかけてくる。
実際、WFOでは彼の言動はウザがられているのだ。私は仕事の邪魔をされる可能性が高い。
しかし、である。
『WFO』のタクと『まほ★まほ』のモブ顔プレイヤーが同一人物であった場合、一つの光明が見える。
即ちシフト。
企業ギルドなのだから、シフト制でログインしていると考えて良い。
少なくとも昨日は、フリーだったからこそ『まほ★まほ』にログインしていた。
ならば――まずは『WFO』にログインする。
ログインボーナスを受け取りつつ、無料ガチャをひき、放置しておいた『アワの実』と『隆起豆』を収穫した。
部屋の中に窓があった。
私がここへ来た時には窓がなかったのに、恐らくだが、例の門限中は窓も消える仕様なのだろう。
時刻は……朝食まで時間があるぞ。
だが、冷静に掲示板でタクの動向を探った。私がログインしていない間の状況も明らかになる。
ジェルヴェーズ王国から新たに50人の追放がされた。
随分と追放数が減ったものの、ノーブルのアカウントを放棄しているプレイヤーの総数を考慮すると信用できない数字だ。
今日のタクの動向だが、ログインをしているようだ。
ならば、今日は朝食だけ頂いてログアウト。『まほ★まほ』へログインしてみよう。
手短に仕事を終わらせる。
今日は翻訳の仕事だ。
と言っても、ちょっとしたニュースサイト記事の翻訳である。
その際、手打ちではなく武器である羽ペンで文章が書けるか試してみた。
……書ける!
しかもスキルレベルも上がった!?
嬉しい、が……これ下手に『武器:筆』のスキルレベル上げているとバイターって怪しまれるな!?
普通に羽ペンで攻撃する事ができるし、慣れてきたのに……
軽く、ワールドマーケットの様子も探っておこう。
特別変化はない。現段階ではプレイヤーが作物を売りに出している所は少ない。
クリエイターマーケットは、短編漫画みたいなのが上がっていた。
おや?
クリエイターマーケットにもNPCの書き込みが……こっちもNPCが購入して見れるんだ?
登場人物が喋っている文字が分からない、的な事をコメントしているぞ。
他にも色々と、この世界観のこれってどういうこと?みたいな、異世界側からの疑問が色々コメントされている。
ひょっとして小説より漫画の方が良さそうかな?
漫画なら、プレイヤーだけでなくNPCも楽しんでくれて、ゲーム内硬貨の収入が確保できる。
そうすると……人口数的に、どの種族が多いんだろう?
島国にいるオーガと人間と……無難にこの二つ種族向けに描いてみようか。
しかし、どんな話を描こうかな。
私はファンタジー系は不得意だし、そうでないジャンルはこの世界で流行するのかね?
パッと思いついたのは『安倍晴明』である。
そう、陰陽師の。
最近テレビで特集をやっていたからなのと、私が描きやすい日本を舞台にできるから。
確か……晴明の幼少期、出生は曖昧で分からない事が多い。
それを利用しよう。
ある所に、晴明という少年がいる。
彼は元々、安倍家の人間ではない。平民出身にしておく。
晴明は妖怪や怪異を探しにあちこち放浪していた。
だが、彼は聡明で妖怪や怪異と噂に聞いたものを理論的かつ科学的に理解し、解決してしまう。
所謂――平安のホームズみたいな推理ものにしよう。
彼の動機は『本物の妖怪を探す為』という探求心で、それ以外には価値を見出していないというか。
割とホームズっぽいな、うん。
しかし、彼だけでは物足りない。ワトソン役の同行人をつけようか。
取り合えず、本物の妖怪は登場しない。
だが、妖怪や怪異と恐れられる現象を思いついただけ、メモしてみよう。
……ううむ。
だけどなぁ。
これ続編は描きたくない奴だ。
一応、最終的に晴明は『百鬼夜行』という部族に襲われそうになった貴族を助け、そこから陰陽道の道に歩む事になる流れだが。
平安貴族の生活はロクなもんじゃない。
上級貴族が下級貴族をイジメるとかあるし。
全体的に不衛生まみれ、食生活も酷いもんで、何があっても占い占い占い頼り。
異世界人からすれば、何やってんのコイツらと突っ込まれて仕方ない有り様。
……なので少年編で完結ってことで。




