【まほ★まほ】危機
「ご、ごめん……まさか、こんな事になるなんて……」
運営メンバーの一人が涙目で謝罪する。
だけど、意外にも他メンバーや真帆与は全然怒っていなかった。
彼女たちが寛容なのではなく、特別問題ある事態とは思っていなかったからである。
我儘な真帆与でさえ、こう言うのだ。
「普通に新規登録させる為に、サーバーの整理したって事でしょ? むしろ、やってくれて助かるよ!!」
「うう……『MAO』がちゃんと処理してくれると思ってたのに……お店の情報消しちゃうなんて思わなくて……」
「いいって! 最近沢山BANしちゃったから、その分、新規入れて当然だって!!」
処理作業を終えたメンバーが声をかける。
「新規もそんなに入ってなかったから、各サーバーに分散させた。これで大丈夫だと思う。居住区の場所変わって不満あるかもだから該当ユーザーに多目の補填しておいたよ」
「ありがとう!」
「良かった~」
「他のユーザーにも交換チケット配布しておけば問題ないよね」
「イベントのシステム作業戻ろ!」
そんな具合に、各自分担作業に戻っていった……が。
イベントのデバックを担当していたメンバーが「えっ」と声を漏らす。
恐る恐る真帆与に声をかけた。
「ま……真帆与。ちょっと見て欲しいんだけど」
「も~、なに?」
「モルガンの誕生イベのデバックしてて……これさ……」
『きゃっ! 嬉しい~!! ありがとうございます~!』
メンバーが流したキャラボイスは、モルガンの誕生日イベントにて専用ボイスとして用意されていたもの。
なのだが……真帆与は「え、知らない」と震える声で返す。
どういう事か?
確かにボイスはモルガンの、彼女の声優の音声。
しかし、モルガンのキャラはこうではない。
「きゃっ」なんてあざとい台詞は言わないし、「嬉しい~」なんて明るい台詞も言わない。
トドメは「ありがとうございます~!」……口調がバラバラ。
何より、モルガンは薄桃色ロングヘアの儚げでおしとやかな美女。
一人称は『妾』なのに、他のボイスでは『私』『あたし』とバラバラ……
それを知った他メンバーも不安に思い、同じく誕生日イベントが近いチャロとルルの内容を確認したが……まあ、どれもこれも酷いものだった。
チャロはぶりっ子みたいに、体をくねくねさせるモーションばかりやってて。
ルルの台詞は似たような感謝の台詞ばっかりで差分がない。
真帆与は顔色を真っ青にしながら叫んだ。
「し、知らない! 知らないよ、こんなの!? なんでこんな事になってるの!?」
「モーションは『MAO』に任せたから変な事になっちゃってるかもしれないけど、台詞は真帆与の担当なんだから知らない筈ないよね? 声優さんの音声データだって、聞いて確認してるでしょ??」
「本当に知らないんだってば! あ! で、出て行ったアイツが変な風に弄ったのよ!! きっとそうよ!」
「……どっちにしても。声優さんに連絡取って、音声は再録しないと……」
「え!?」
「これ間に合うの……? モルガンの誕生日イベント再来週から始まっちゃうよ??」
「え!? ええっ!!? そ、そう……だっけ……」
「だって誕生日が来月の四日だよ」
衝撃的な事実に真帆与は呆然としてしまう。
真帆与を差し置いて、メンバー全員でイベントにデバックをしていく。
だが、調べれば調べる程、ボイスの取り直しや、キャラのモーションや動作。
デートイベントまで修正箇所が多すぎて、途方に暮れてしまった。
「取り合えず、モルガンだけ間に合わせよう!」
「無理だよぉ。イベントシステムだって完成してないのに!」
「真帆与!? ねえ、どうする?」
「え、あ、うん……」
ぎこちない様子の真帆与に、色々とメンバーが意見する。
「簡易的なデートにするなら、私達もシステムを間に合わせる事ができるよ。簡易的デートはオープンワールドの都市デートって感じで記念撮影とかできて」
「そ、それは、特別感ないから嫌。モルガンのデートイベは舞踏会でダンスさせたい! ユーザーだって喜ぶよ!!」
「ああ、舞踏会じゃなくて武道大会で舞ってた奴ね」
「うっ」
「『MAO』任せにしたら、またああなっちゃうから。私達が一から仕上げれば、複雑なモーションも、背景も拘れる。ギリギリ間に合うと思う。でも、システム作成に手がつけられないから、最初予定してた通りランキング形式のままでいい?」
「駄目! 絶対システムは間に合わせて!! 今日から残業して頑張ろ!」
「……ふざけないでよ」
流石にメンバーの1人が口を開く。
「アンタのミスをフォローしなくちゃいけないのに……無理言わないで。当分、ずっと残業しろっていうの? チャロとルルのイベントも作り直さなきゃいけないのに? また来月も誕生日のキャラがいて、イベントがある訳でしょ? それも結局、全部私達がやらなきゃいけないよね??」
「わ、私! モルガンの声の子に再録頼んでくる!!」
気まずくなった真帆与は逃げ出すように、加速空間からログアウトした。




