【まほ★まほ】変更
毎月行う『来客NPCの誕生日イベント』が発表されて、少しした後。
『まほ★まほ』の運営はSNSや掲示板の様子に気づき緊急会議を行う事となった。
というのも――
「このままじゃ、また子供不利のイベントになっちゃうじゃない!!!」
真帆与が叫ぶ。
ユーザーは札束ゲーだの、新たな戦争を始まりだの、推しの誕生日に歓喜だとか。
お祭り騒ぎを起こしているが、運営――真帆与はそんなの想定していない。
運営はユーザーが地道に素材集めを頑張って、誕生日イベントを迎えるものだと能天気に想像していたが。
「今から周回始めます」と一部ユーザーが重課金して遠征周回を火事場の如く回し始めていた。
別に推しの誕生日が来月になくても、いつかは推しの誕生日が来るのだから、その日の為に、周回を徹底し、素材集めを行う。
本物のガチ勢は徹底してここまでやるのが普通だった。
現在進行形で課金スピードは加速されていく。
……裏を返せば、そこまで気力が湧くほどユーザーが『まほ★まほ』に熱中している良い証拠なのだ。
広告宣伝がほとんどなく、序盤は害悪行為で荒れていたVRMMOが、他の大手と肩を並べる程、注目度とランキングが上昇しているのだ。
喜ばしい話である。
でも、真帆与と運営メンバーは誰もこの展開を望んでいなかった。
「子供だってイベントを楽しみたい筈なのに! どうして周りのこと、考えられないのよ!! ああもぉ……」
頭を抱える真帆与を差し置いて、運営メンバーが色々と思案する。
そんな中、一人が「こうするしかないのよ!」と勇気をもって割り込む。
「前倒して新規サーバー導入したばっかりでしょ!? このままじゃ、採算が取れないの!」
「さ、採算って……」
想定外の登録数で急遽サーバーは前倒しの形で導入されたのだ。
その分、当然赤字。
『誕生イベ』の課金に期待があったのだ。
採算に触れたメンバーは、続けて言う。
「それに声当てしてくれた声優さんの給料もあるじゃない! 向こうは今回の流れ見て、期待してる感じなのよ。課金排除のイベントなんてやったら、どうなるか……」
対して真帆与は喚く。
「夢のない話しないでよ! 運営費は貯金削っていこうって決めたじゃない!! 金儲けとか考えないで子供たちの立場を優先するって決めたでしょ!? 人気が急に出たから、金に目が眩んだの!? 言っておくけど『まほ★まほ』を作ったのは私だから! 責任者は私!! 方針は全部、私が決定する! 文句があるなら出て行って!!」
あんまりな物言いにメンバーが愕然としてしまう。
指摘したメンバーは、金ではなく『まほ★まほ』を継続させたが為に提案をしたのだ。
本当なら、最低限の課金で楽しめるよう維持をしたい。
でも、よくある広告収入は嫌。課金も低価格じゃなきゃ嫌。
あれも嫌、これも嫌。
真帆与の態度に、指摘メンバーは激怒した。
「はぁ!? サーバー用意したり、ここの物件用意したり、周りの準備整えたの全部私だけど!? 自分は何もしない癖して、いい気になってんじゃないわよ!! バッカみたい。いいわよ。抜けてあげるわよ! アンタがログアウトした後、残業しないで済むから気が楽!! さようなら!」
彼女が退出したのに対し、真帆与は「なによアイツ!」と拗ねた態度で反省もしない。
完全に雰囲気が悪くなったメンバー。
仕方ないので、メンバーの一人が真帆与の納得できる提案をした。
「じゃ、じゃあ。こうしよう? 誕生イベ期間になったら特別クエストが出来るようになるの。で、そこで得られた報酬をプレゼントとして送る」
真帆与が訝しんで「格差生じないの?」と尋ねる。
「格差がないようにドロップする報酬は固定! 期間中毎日やって毎日送ったら最高得点になるようにする!! ね? これなら全員平等にイベント体験できるじゃない!」
「む~……そうね。ちゃんと毎日ログインすれば問題ない。これでログイン忘れちゃったら、まぁ、仕方ないって事になるわ。うん。それでお願い!」
メンバーは一安心したが、真帆与が「お願い!」と投げたものはメンバーがやらねばならない。
提案したシステムをイベント期間までに完成させる。
別の重荷を背負う事となるのだった。
★
「このままじゃ、駄目に決まってる……」
ほとんどのメンバーがログアウトした『まほ★まほ』運営専用バーチャル空間にて。
居残った一人が呟く。
離脱者が発生したのもそうだが、真帆与の無茶苦茶な運営では折角の『まほ★まほ』が瓦解してしまう。
「『MAO』。イベントの収入以外で採算を取る提案をお願い」
『MAO』とは『まほ★まほ』の運営AIの名前である。
彼女達は変に拘りを持っていて、AIにも名前をつけようと考え合うほどだ。
……最終的に真帆与の意見がゴリ押されるが。
『現在可能なプランはこちらとなります』
『MAO』が掲示した内容に目を通すが、プレミアムパックや広告収入など真帆与が嫌いそうなものばかり。
だが、その中でも、あるものに目をつけたメンバー。
「サーバー停止? サーバーの稼働を抑えるってこと??」
『順を追って説明します。現在、クリムゾン、シアン、カーキ。三つのサーバーの登録者数はクリムゾンに収容可能数です。これは違反者を排除した事により生じた空きです』
「そんなに? あぁ、でも前に他サーバーへの移動がある告知はしていたし……そうすればシアンとカーキのサーバーは稼働しなくていいんだ」
『クリムゾンサーバーへ移行完了後。カーキのサーバーを休止。新たにシアンへ新規登録を解禁します。新規登録者による課金収入に期待ができます』
「うん、いいね。今の内にそれやっちゃって。私もログアウトするよ」
『かしこまりました』




