【スパーダ・アベントラ】中層
ちょっとした出来事があったが、気を取り直して『マリアンタウン』から船で『カルバリオ島』へ……
って、こっちも人が多い!?
いや……それもそうか。
中層以降にいるプレイヤーは、ここを経由して下層に向かうからね。
でも、何だろう? いつぞやの『トゥローノタウン』並に数が多いじゃないか。
ギルドの誰かが招集とかかけた? 周囲に聞き耳を立ててみると……
「あれ、どうにかなんねぇかよ。マジ面倒くせぇ!」
「状態異常のばら撒き突破できねぇって」
「運営に文句言おうぜ」
ひょっとして『カルバリオ島』で特殊モンスターが出現したんだろうか。
こういうのは情報収集が大切。
推理材料となる情報を確保しておこう。
別に『セッテコルリ』の時のように流れでそうなってしまったケースだとしても、最悪死亡したらリスポーンが面倒なんで。
この『スパーダ・アベントラ』では死亡した場合、ランダムリスポーンになってしまうのだ。
何でランダム?というのも。
『スパーダ・アベントラ』のようなPK容認のVRMMOでよくある、リスポーン狩りを防ぐ為だ。
一応、ログアウト時にリスポーン地点が固定されるんで、試練前にログアウトするのもアリ。
とか、何とか思案していた私に、想定外の情報が入って来る。
「はぁ~。もういい。俺『ワープポイント』使って中層に戻る。PK連中のせいで課金するのは嫌だけど、課金渋って時間なくなる方が嫌だ」
「俺もそうするか……」
「おいおいマジかよ?」
………特殊モンスターとかじゃないんかい!!!!!
変な勘違いしなくてよかったー! ……良くないけど!?
彼らの会話的に、どうやら中層への道なりにPK連中が屯って、状態異常攻撃をばら撒いて進行を妨害しているんだと。
最悪だよ……ある意味、これも自分で蒔いた種的な要因だけどさ……
船着き場で右往左往している彼らはPK連中に邪魔され、中層に行けなくなっている訳だ。
状態異常なら、ワンチャン称号で耐久があるから突破も……と考えたけど。
変に目立つのはな……
一応、様子見してみるか。
私はそそくさと船着き場から離れていき、島の中央を目指す。
道中、普通にモンスターが出現するので油断しないように警戒していくぞ。
そして――見えて来たのは、上空まで聳え立つ石切りの塔。
塔に入場し、中層への試練を突破しなければならない。
うーん……確かに、PKらしきプレイヤーの姿はどこにもいない。彼らは塔の中にいる。
……外から行けないかな? これ。
流石に無理か?
目立っても、PK集団には目をつけられないだろうから、試しにやってみる。
利用するのは『オーラ』と『マーレポール』君。
まず、ポール君にサリレします。
私のアバターがポール君に乗る為に空中ジャンプしたタイミングでサリレを解除、そして『オーラ』で足場を作ります。
すると、私が普通にジャンプした時よりも高い位置で足場を作って着地できちゃいます。
もう一度同じ操作を繰り返していくと……どんどん登っていける!
まるでバグ技みたいな挙動で上空移動をしているぞ!!
なんで『オーラ』で普通に足場作って上空を登らないかというと、普通に足場移動しちゃうと消費魔力が大きい。
一瞬だけ足場を作るだけなら、かなり消費SPを節約できるのだ!
色々欠点というか、これで上空突破して中層にいけるのか。
挙動がアレなのでバグったりしないのか。
サリレを連発しまくってポール君が「わふ「わふ「わふ「わふ」って感じで変なラッシュの掛け声状態になってて大丈夫か。
遠くから、変な事してる奴がいるって晒されないか。
あ、ちゃんとSP消費は気を付けていますよ。
連発しまくっている内に、雲の上まで通り過ぎた所で、ぐーんと体が浮き上がった。
そしたら『別サーバーに接続中……』と画面が表示されたので、ガチで中層に行けたらしい。
え? マジで??
いや! 油断しない!!
上空の浮遊したまんまだから、オーラの足場を作って置かないと落下する恐れがあるぞ!!
操作を連発しまくって切り替えに身構える私。
だが、私の不安を他所に、私の体はポール君にサリレしたまんま、ふわーっと浮かび上がったポール君がクルクル横回転し、スライドしながら雲の上に着地。
同時に称号獲得メッセージが流れた。
『称号:どこ行くねん を 獲得しました』
『称号:中層試練未合格者 を 獲得しました』
『称号:どこ行くねん』
取得条件:正規ルート外を一定距離移動し、正規ルートに到達する
効果:滞空時間延長(大)
『称号:中層試練未合格者』
取得条件:試練の塔を通過せず中層へ到達する
効果:中層の公共施設を利用できない
最後、ただのデメリット!?
にしても、こんな称号あるってことは、想定している挙動なのかよ……おったまげた。
って、感傷に浸っている場合ではないぞ。
私たちが地に足付いたのは塔の最上階であり出入口の門がある所――の脇。
雲が立ち込めているが、不思議な事にこの一帯にあるのは、実体のある雲で大地の代わりをしている。
下層に向かおうとしてたプレイヤーか、PK連中か、彼らから「なんだ?あの狼」と声が聞こえた。
関係ない関係ない。
ポール君には水流アタックをして、モンスターを轢きながら雲の大地を駆け抜けて貰う。
うおお……凄い光景だ。
中層はまるでスペースコロニーみたいな構造になっている。
頭上には火山や大海、川、森林、都市が広がっており、だけど重力で落ちてくる気配はない。
私達がいる場所は、雲の大地であるが、ある意味、雲の役割を担っている構造となっているのだ。
しばらく、ポール君が駆けると周囲は荒れた大地に変化していく。
よし。今日はここでリスポーン地点を固定しよう。
夕方からのFEOのレイド戦に備えて、仕事とかを済まさないとね!




