【まほ★まほ】荒らし
ぎゃあああああ! なんじゃ、こりゃああああああああ!?
色々用事を済ませ『まほ★まほ』にログインした私を出迎えたのは、荒れ果てた店内。
綺麗に商品を並べて、オシャレなインテリアを並べて置いたつもりなのに。
ものの見事にぐちゃぐちゃ。
新手の荒らしプレイヤーの仕業!?
走馬灯のように嫌な思考を巡らせていた私に答える形で「きゅん!」と鳴き声が一つ。
一体どこから侵入したのか。
なんとカーバンクルが散乱する物陰からひょっこり顔を覗かせたのだ!?
え、き、君?
タクのせいで、何処かに去ってしまった君なのかい???
「きゅんきゅん♪」
随分と楽しそうな様子だったカーバンクルだが、何かに気づいて、フッと姿を消してしまう。
店内に入って来たのは、これまた久方ぶりのシークである。
目の前の光景に目を見開きつつ、私に話しかけた。
「まさかと思ったが……さっき、君の店にカーバンクルが入っていくのが見えたんだ。この様子だと、カーバンクルが姿を見せてくれたんだね。普通、逃げ出してしまったカーバンクルが再び戻るのは稀有なんだが……あのカーバンクルは余程、君に懐いていたんだね」
お、おお……!
やっぱり、あの子だったのか!!
嬉しいけど、荒らしじゃないかとビビらせる演出はやめてくれい!!!
シークの話は続く。
「君にはコレを渡しておこう。『カーバンクル専門機関』の鍵だ。もし、カーバンクルの事で何かあったら、ここに来てくれれば力になるよ」
おお。新たな施設開放だ!
一旦、シークとはお別れとなり、酷く荒らされた店内だけが残る。
うーむ……まずは片付けないと。
「きゅい? きゅきゅん!」
だぁ~~~~、遊んで欲しいのは分かるけどねぇ、君。
ん? あ、餌の方か!
なんだかんだ観賞用で確保していた宝石の実を杖で採取し、カーバンクルに与えた。
うむ、満足そうな様子。
という訳で、改めて片付けをしよう!
「きゅきゅーん!」
ちょ!? こ、こらー! タロットカードを取っていくんじゃなーい!!
完全に遊びたい気、満々のカーバンクル君だけど、ここはお店だから片付けないと……
それ以前に、この子がいたずらしないような店内に改装した方がいいかなぁ。
取り合えず、私は散らばっている物を全て回収し、ついでに清掃もしておいて。
さて、商品を並べようとした時。
違和感に気づく。
え? タロットカードの説明文が変わってる??
全部子供向け説明文になっちゃってる?
あれ……そういえば……
ログインした時、チラッと『ゲームアップデートのお知らせ』が来ていたのを思い出す。
新規コンテンツを導入するような大型アップデートではない、不具合修正や調整を報告する程度のもの。
ぶっちゃけ「まぁ、後で軽く目に通しておくか~」となる奴だ。
で、ちゃんと内容を確認したら……何とまぁ。
色々仕方ない部分もある修正だった。
あのタロットカードの魔法陣の仕様が、自力で魔術式を組み立てられるやり込み要素だ!と私は歓喜していたが、運営側は想定外のものだったらしい。
疑似的にソースコードを書き換えられるヤベェ奴だったとか。ぶっちゃけるとチート。
私、ちょっと触れちゃったよ!?
というプレイヤーの為にも、魔法陣の仕様は消去。お咎めなし。
あと、説明文も修正。
この二つの不具合は、まさかのAIが原因だったらしい。
何度も同じタロットカードを作成する事で、説明文が変化したのは、AIの学習能力の反映。
魔法陣についての詳細は(多分機密的な意味合いで)伏せられてたけど、まぁ、似たような不具合って奴かな。
ううむ……不満の声は絶対あるけど、仕方ない奴だなぁ。
運営側としては、大人がガチ編成をやって子供を一方的に蹂躙するのを防ぐ目的なんだろう。
ただ、ゲーム上でも格差が生じるレベルである。
しかしなぁ。これはこれで、クラフトにオリジナル要素がなくなった。
ガチ勢は皆が皆。同じような武器に同じようなスキル構成の服を纏って駆け巡る作業ゲーが始まる。
あぁ……これ駄目だ。
ひょっとして『まほ★まほ』運営って、MMOの専門家がいらっしゃらない?
単純に子供優先、子供向けのMMOを!的な方針??
別の意味で暗雲が立ち込め、折角現れてくれたカーバンクル君も「きゅん?」と不安そうな表情を浮かべる。
すると、VR中に外部からの連絡を知らせるアラームが鳴り響く。
もしかしなくても、弁護士さんからの連絡だ。
名残惜しくもカーバンクル君と一旦別れ、現実世界に戻ると……
『荻野さん。予想通りと言いますが、動きがありました』
嫌な報告であり、覚悟していた報告が来る。
まぁ、事前準備は整えていたので「手筈通りにお願いします」と返事をするのだった。




