【Fatum Essence Online】『悪役令嬢』
タクが反省しようが風評被害は消えないのである。
WFOがサービス再開しようが、関係ない。
博覧会が終了して、結構な時間が経過しても、結局モルモーの糞まみれいじりは消えなかった。
過去を改変しない限り……
それこそ、あの時、私がモルモーを無理矢理誘拐しない限りは、晴明の漫画は一生モルモーの糞まみれ漫画なのだから。
この糞まみれ漫画の称号は拭っても消えない。
私の絵柄で別作品の漫画を公開しても、モルモーの糞まみれ漫画の作家だと、再びコメ欄が糞まみれになる未来は想像が容易。
故に、他VRMMOで別作品を公開し、そこで更なる収入を狙う。
そして、公開する作品は漫画ではなく『小説』。
絵柄で特定される可能性をなくし、作品の傾向でも特定されにくい感じにしよう。
変な伏線とか関係なく、謎解きみたいなややこしい要素もなく、独自の世界観で縛られない感じの、うーん。あれかな。
それこそ『悪役令嬢』ものを書いてみようじゃないか。
今思うと『悪役令嬢』は、頭を空っぽにして、貴族階級の常識を知らなくても、何となく誰でも想像できるって意味だと、ジャンルとして革命的なテンプレで万能だ。
とは言え……私は男だからなぁ。
女性の気持ちが分からんのだよ。
ああいうの書いてる人って、大体女性のイメージがある。
いくら『悪役令嬢』が万能テンプレであっても、重要なのは女性の心理描写な訳で。
ってことは『悪役令嬢』ものだけど、男を主人公にするとか?
普通の『悪役令嬢』にアレンジを利かせる必要はあるとは言え……ううむ。
色々思案しつつ、まずはFEOにログインする事に。
FEOの方では心なしか、エッセンスリンク申請が届くようになっていた。
確認でタクことゼウスのアカウントの様子も伺う。
鬱陶しいメッセージを送らないどころか、ログインをしなくなっているようだ。
またイベントで復帰する可能性は否定できない。
用心していこう。
★
前回までのストーリーは……そうそう、クトゥグアの衝撃発言で終わったんだった。
だが、クトゥグアの模擬戦闘をやっている内に、三方向から狙われている私が乗る船。
ストーリーを挟んだ後、さらっと黒いオーラを纏った海賊船が、接近。
概要的に、どうやら戦闘ではなさそう……?
「アンちゅわ~ん、メアリーた~ん! 迎えにきたぜぇ~!?」
ストーリー開始早々、黒いオーラを纏った海賊船に乗る厳つい黒髭の男の厭らしい声が響き渡る。
やっぱり登場するよね。
海賊の代表格の1人! 黒髭ことエドワード……
「――フン!」
すると、クトゥグアがいきなり何かを放つ。
青白い炎を黒いオーラを纏った海賊船に放てば――何も起きない。
否、接触して直ぐには何も起きないだけで、黒髭が「む?なんぞ??」と惚けた矢先。
クトゥグアの青白い炎と黒いオーラが、未知の反応を起こし、衝撃的な爆発を発生させたのである。
原理は掴めないが、青白い炎と黒いオーラが合わさると互いに相殺し合うようで、黒髭を含む海賊船が吹き込んだのは相殺エネルギーの余波だろう。
しかし、余波でも十分過ぎる威力!
黒いオーラが完全消滅しただけでなく、まさかの出オチで退場させるなんて。
何か哀れだ……
メアリーが呆れた風に言う。
「よく見たら、あれ黒髭の船だね」
アンも「うわー」と吹き飛ばされた残骸を見届けつつ、敵を一掃したクトゥグアに言葉をかけた。
「黒髭の奴、結構付きまとって来てて鬱陶しいかったのよー。フッ飛ばしてくれて、ありがとね!」
「……顔がある奴の気配がした。だから放った」
「あら、そうなの? アナタ的に言う、顔がある奴を倒したいって訳ね」
「倒す……? 違うが」
メアリーが「今、攻撃したじゃん」と突っ込むのは当然。
私も矛盾しまくってる現状に困惑している。
彼?の言う『顔がある奴』とは、ひょっとして『顔がない』事で有名な敵対神格を示してそうなんだけど。
室長さんもクトゥグアに尋ねた。
『ええと、確認したんだけど。いいかい? クトゥグア。君が探しているのは「ナイアルラトホテップ」で間違いないね?』
「名前は知らん。顔がある事は分かる」
『え、あ、えーと。じゃあ、顔がある彼とは敵対関係にある??』
「敵対……何故そうなる。私は接触と交信を求めている。それだけだ」
ああ、ひょっとして?
彼なりに接触と交信をしようとしたのが、第三者から敵対行為に見えてしまったとか?
残念過ぎる……!
が、でも。
若干ややこしいのはクトゥルフ神話の神格って、どっちかっていうと完全宇宙人存在かつ宇宙人的思想っぽいのだよ(後日、調べて事前知識を貯めておきました)。
他の神様みたいに地球産の倫理観も欠片もない。
設定的に仕方ないとは言え、私が言えるのは一つだけ!
「いきなり攻撃するのは……駄目です」
さらっと私自身発言できたのを他所にクトゥグアが怪訝そうな表情をする。
「攻撃はしていない」
うーん。どうしたものか……!




