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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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【ヴァルフェリアオンライン】【まほ★まほ】大人【Fatum Essence Online】【あなたがアイドル】


奇妙な事にタクはそれと向き合っていた。

普通なら「そんなつもりじゃなかったのに!」とギャンギャン子供のように泣き喚いている筈が。

終始無言でVRウインドウ画面を眺めている。

意外だったのは、タクを訴えると名乗り出た人物こそ――『みずの』だったという事。


しかも、『みずの』はこれまで。

タクに漫画の評判を滅茶苦茶にされ、カーバンクルイベントを妨害され、店の周辺で張り込みされ……

FEOでタクとやり取りを交わす前に散々な目に遭っていた。

なのに――


「みずのさん、どうして僕に優しくしてくれたんだろう……どうして僕をブロックしないで、僕の心配をしてくれたり、僕の話を聞いて……それなのに、僕は……」


「彼は、それでもどうにかしようと努力を尽くしたんだろうね」


里香の父親も画面を見ながら言う。


「君の被害を受けたからこそ、どうにかしようと勇気を振り絞って君と接触したんだ。……考えてもみたまえ。彼はもう十分、君を訴えても良い立場だったんだよ。最終的に、君を訴える手段に出たのは、君の行いが法律で裁かれるほど深刻なものだと突きつける為だろうね」


簡単に訴える、と言っても弁護士費用など含めたら、かなりのお金が必要なのと。

VRMMOのタクの行いの曖昧さで、精神的苦痛で勝訴を勝ち取れるか危うい。

そんな荻野の事情を知ってか知らぬか。

里香の父親は、それらしくタクを納得させた。

事実として、タクを現実の法で殴る手段を荻野が強行した部分は間違っていない。


これでも、不思議とタクは涙を流さない。

俯かず、ただ自身の想いを述べた。


「僕……ずっと、()()()()()()()()。みんな、自分勝手で、我儘で、相手を思いやって行動してない。僕に怒っているのも、自分の意見が間違っているのを指摘されて、拗ねているんだと思ってました」


タクは、周囲のプレイヤーを我儘をいう子供のように捉えていたのだ。

駄々をこねて、あれが欲しいこれが欲しいと立ち止まり喚き、両親や周囲の人々を困らせる、我儘な子供だと。

だから「僕がちゃんとしなきゃ!」「僕が何とかしなきゃ!」と、さも自分が立派で真面目で正義側で普通で、そして助ける側の人間なのだと思い込んでいた。

たとえ自分がモブでも、一般的な善良な市民のモブだと()()()()()()()


「ここに映っている彼らも、君にとっては我儘な子供に見えるのかい」


「……いいえ」


「何故、彼らがこんなにも君に怒りを露わにしているか、分かるかい」


「僕が……この人達を、傷つけたからです」


「……そうか。ようやく理解したんだね。田中君」


ようやく。

あまりに遅すぎる理解だった。

理解した頃には、周囲にいたミミたちはいない。

タク自身が現実の法で裁かれようとしている。

仮に示談金で解決したとて、それを払う能力はタクにあるかどうか。


すると、会議室がノックされ、先程タクを案内した女性と共に、タクの父親と母親が案内されてきたのだ。

まさか、父親まで来るとは思わなかったが、タクは仕方ない事だと受け入れた。


「タク! お前は……お前は本当に、何をやっていたんだ!! 私もお母さんも、VRで働いているものだと思っていたんだぞ!? クビにされたなんて聞いていないぞ!!!」


「本当に、どうするつもりなの! どうなるか分かっているの!? 犯罪者になるのよ!!!」


「……()()()()()()()()()。お父さん、お母さん」


あのタクが、そんな言葉使いをするものだから、両親の怒りは吹っ飛んでしまった。

涙を流さず拗ねた表情もない。

静かに頭を下げるタクに、両親の方が冷や水をかけらた気分となる。


「え……? ど、どうしたの……タク……」


「こ、こんな事になって、頭がおかしくなったのか……?」


「以前から言葉使いを改めるように言われてました。今まで、相手を傷つける態度ばかり取っていたと理解したので、これから直していきます。……最後までお二人のご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません」


タクのあまりの変化に、両親は顔を見合わせる。

涙も流さないタクに彼らは言葉をかけた。

今まで、我儘な子供だったタクと向き合わなかったからこそ。

それも――あまりに遅すぎる判断だった。


「タク。まだ、どうなるか分からない。交渉次第では、示談金で解決できるかもしれないんだ。タクも反省しているんだな?」


「はい」


「タク。家に帰って、ご飯を食べて、お風呂にも入って……それから、これからの事を話し合いましょう。……里香ちゃんのお父さん、今日まで息子を預かって頂き、ありがとうございました」


田中一家が立ち去って、会議室の灯が灯り、里香の父親は盛大に溜息をついた。


「里香も、彼も、なんて事をしでかしてくれたんだ。里香の独断で保護システムを作動したなんて! WFOのシステム解除は、どれほど時間がかかる?」


会議室に残った女性秘書もどこか疲れた様子で告げた。


「最短でも1か月とのことです。プレミアム購入者には1か月分の補填を行う旨を近日発表致します」


「そうか……はぁ。株主への緊急説明会が今回の件で、荒れそうだな……」


娘の我儘で企業にとって深手を負った。

これが今後WFOへどう影響を及ぼすかは、誰にも分からない。

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