【ヴァルフェリアオンライン】【まほ★まほ】復讐者【Fatum Essence Online】【あなたがアイドル】
またもや、タクは落ち込んでいた。
しかし、いつもとは異なる意味で気分を暗くしている。
FEOで交流していたプレイヤー……『みずの』にブロックされた。
「僕は、そんなつもりじゃなかったのに」
これまでも何度も何度も繰り返してきた彼の決め台詞だが。
逆上して切れてきた今までの相手とは違い、『みずの』は「ごめんなさい。生理的に無理です」と拒絶した。
縁を切ったのではなく、向こうが逃げた。
タクは本当にそんなつもりではなかった。
これまでも、そうだった。
タクが『みずの』の為を想って、『みずの』の欠点を指摘して、正そうとした。
彼はタクの前から逃げ去った。
唯一、今までとは異なるのは、彼はタクに対し謝罪を告げてたこと。
彼は今までの被害者たちとは違い「すみません」「ごめんなさい」「申し訳ございません」と自分を卑下しながら立ち去った事。
最後まで、彼はタクに逆上をぶつける事がなかったのである。
『みずの』は最後までタクに寄り添っていたのに、タク自身が突き放した。
完全なタクの自業自得であった事になるのだ。
それが、タク自身にも響いていた。
今までの被害者たちは、タクの正しさに反抗し、拗ねて、自分勝手で我儘なのだと解釈していた。
しかし、『みずの』はタクの正しさの行為が、自身のトラウマを呼び起こすと怖がっていた。
タクに恐怖して逃げたのである。
当然だが、タクは相手を脅しているつもりなんて一切ない。
傷つけている自覚すらなかったのだから。
「僕……は……」
すると、タクの部屋を誰かがノックする。
里香ではなく、職員でもなく、ぴっちりとしたスーツを着こなす女性秘書だった。
困惑する彼を他所に、女性秘書が告げた。
「社長がお呼びです。ご案内いたしますので、ついてきて下さい」
「社長? って……里香、じゃなくって。ええと」
「里香様のお父様です」
「り、里香のお父さん!?」
「……失礼のないよう、お気を付けください」
ますます理由が分からないタクは、流されるまま、施設内のエレベーターに乗り、部屋に案内された。
そこは、大企業の社長室――ではなく。
複数のVRウィンドウが浮かび上がる会議室のような空間。
淡い光を灯すVRウィンドウを強調する為、室内の灯は消されていた。
会議室の中で、たった1人、席に座る男性こそ里香の父親だろう。
男性が立ち上がり、口を開く。
「君が田中君だね。君には本当に申し訳ない事をした」
「え? えっと、僕はむしろ里香に助けられたんです。今は気分も落ち着いて……これも里香のおかげです」
「いいや……何から伝えるべきかな。まずは座ってくれたまえ。長い話になるからね」
「はい……」
何となく口調が里香に似ている里香の父親が重く語り始める。
「里香は……君に復讐しようとしていたんだ。君に恨みがあったんだよ」
「え……!?」
「『タロッツ・オブ・オンライン』……というVRMMOに聞き覚えはあるかな」
「あ……その、オフライン版を最近やらせて貰いました」
「当時、君はオンライン版をプレイしていたんだ。もう記憶になくて仕方ないだろうけどね」
「え!?」
「オンライン版を遊んでいた君は、あのゲームのワールドアイテムや重要NPCを全て手にしただけではなく、ネームドモンスターも全て倒してしまった。だが、それでは他ユーザーの不満が募る。他の人達だってネームドモンスターを倒してみたいだろう? だから復活措置を取ったんだが、それすら君は討伐してしまった。NPCに被害を及ぼし、危険なモンスターだから自分に任せて欲しい、と。他プレイヤーから横取りする形でね」
覚えていない。
全く何一つ覚えていない。
タクは自身がやった行いですら記憶に残っていない。
「それで、どうなったか……他のユーザーは離れてしまった。最終的に君を含めて、極数人のプレイヤーしかログインしない状況に陥ってしまったんだ。その極数人のプレイヤーも、戦闘をしないクラフトメインで、マイルームに引きこもって作業する人達だったからね。VRMMOとして成立しない。利益を齎さないゲームとなってしまったんだ。サービスを終了する他なかった。サービス期間は僅か1か月だけだった」
「いっ……!? そ、そん、な、僕の、せいで……」
「いいや。君のせいではないよ。ネームドモンスターの仕様やワールドアイテムの仕様、使用アルカナやNPCだって、後からいくらでも修正する事はできたんだ。でも、あのVRMMOを作った里香が嫌がってね」
「里香!? あ、あのVRMMOって、里香が作ったんですか……!?」
「そう、初めて作った、彼女が拘りの詰まったVRMMOだった。仕様変更なんてしたくないって、ダダをこねたんだ。全部、君が悪いって。空気を読まないで、他プレイヤーに譲らない、ネームドモンスターを横取りする君が悪いってね」
タクは真実を聞かされ、愕然とした。




