タクの日常 その51
「確かに私は、VRMMOをやる判断は君次第と言ったが……これまでも他プレイヤーと関わってトラブルを招いて、精神的に参っていたのに、何でまた他プレイヤーと接触しようとするんだい? 自分が傷つくのは火を見るよりも明らかじゃないか」
「それは……でも……誰かと交流しなくちゃいけないんだ。おばあちゃんにも言われたんだ。相手を思いやる事が大事だって。誰かの為に頑張れば、皆に認めて貰える。大した事ができない僕でも役に立つことができる筈なんだ」
「まだ、分からないんだね。君は他人と交流するのが下手なんだよ」
「え」
「だから、こうしてトラブルを起こす。言っておくが、君の祖母の教えは間違ってないよ。君がやろうとしている事も正しい。ただ、君が致命的なまでに他者との交流が下手なんだ」
「…………え……あ……」
自分の考えを肯定し、正しいと言われた上で、タク自身が下手だと指摘されてしまった。
里香も再度「違うかい?」と問いかける。
タクは何とかあがこうと言葉を探す。
「でも、僕は……僕なりの、やり方で……」
「自分なりでやったから、何度も何度も他人に嫌がられて、皆離れて行ったんだろう?」
「でも、でも、ミミたちは、里香だって僕と一緒に」
「ミミたちは君があまりに交流が下手だから、フォローしてあげていたんだよ。ミミが慰めて、アキが励まして、シィが傍にいて、琴葉が頭を下げたから君はやっていけたんだ。私は、君の交流下手なんかより、君の才能に興味があるだけ。これ、前から言っているんだけどね」
「……」
「私は最初から気づいていたよ。でも、ここまで追い詰めないと君は納得しないと思ったのさ。もう一度言わせて貰う。君は他人と交流が下手だ。それでも他人の役に立ちたいなら、誰とも関わらない職業に就くしかない。是非とも、私のもとでデバッカーの仕事をやって欲しい」
タクは完全に黙りこくってしまった。
★
それからしばらくした後……とんでもない事態になってしまった。
職員に呼ばれて、里香が面倒くさそうに把握したが、本当にとんでもない事態へ発展している。
あるプレイヤーがタクに対して損害賠償請求をした、というものだ。
しかも、些細な問題ではない。
1つはWFOで、タクが博覧会でモルモーを持ち込んだ事で被害を受けた事。
それに対する謝罪もなく、作品への印象が悪化、コメント欄が荒れ、収益化にも影響が及んだ。
1つは『まほ★まほ』という、里香が全くマークしていなかった小規模運営のVRMMO。
ここでも、タクはあるプレイヤーの店への営業妨害行為を行っていた。
更には、タクの行為で、特定のイベントが妨害された事もプレイヤーに噂されている。
1つはFEO。ここではタクがあるプレイヤーへのパワハラ行為を行った。
そして、それらがどれも共通のある1個人のプレイヤーが被害者であったというのだ。
職員は顔面蒼白になりながら状況説明する。
「里香様。博覧会での一件は、多数のプレイヤーが把握しており、該当プレイヤーがタク……様本人であることは出回っている動画などで証拠としては十分過ぎます」
「ああ、クソ。すっかり忘れていたよ。あの博覧会での件が、ここで掘り起こされるなんて! 収益化……そうだったね。だが、WFOなら保護システムが作動している。証拠の提出は――」
「里香様。恐らく……既に収益化申請は受理されております。提出書類や受理証明書も証拠として提出するでしょう。何より当人が証拠をしっかり記録していますので」
「それでもタクが謝罪文を送ったぐらいの偽装は可能な筈だ。保護システムが作動している今、開示請求はできない。『魔法使い』の何たらだって小規模運営だから口止めはできる」
「FEOは不特定多数のプレイヤーが強制的にグループを形成し、情報を共有されています」
「奴らの口止めだって可能だ」
「……しかし、『あなたがアイドル』は別です。多くのアイドルグループを排出する大手企業のバッグには、多くの有識者が集っています」
「は? アイドルの方は、たかがジョギングを強いられた程度だろう??」
「その際に、他アイドルへのセクハラ行為や妨害行為を行っていたのが問題です。見て下さい。今回の騒動を切っ掛けに、件のアイドルが所属する事務所からも賠償請求を行う旨が正式発表がされました。これもかなりの目撃者がおります。何より――」
「なんだい!? まだ問題があるとでも!!?」
「株主が黙っていません」
里香は沈黙した。
彼女も所詮はVR関連の某大企業のご令嬢。彼女の企業も株主が存在している。
そして、WFOの保護システムが発動ことによる株主への説明会を急遽行おうとした矢先にコレだ。
職員たちは真剣な、それでいて呆れたような眼差しで里香を見つめた。
「株主がタク様を擁護するような対処をする我々を見限るのは当然の事です。VRMMO界隈でタク様を知らない者はおりませんからね。むしろ、タク様を社会的に追い詰めるチャンスだと株主は後押しするでしょうね」
「……それも、そうか。……少し頭を冷やしてくるよ」




