【スパーダ・アベントラ】下層【タロッツ・オブ・オンライン】
第一村人ならぬ第一プレイヤーから、界隈の事情を教えて貰った。
『下層』には、本当に何もない。
サービス当初は初心者狩りを愉しんでいたPK連中が集っていたらしいが、ソイツらすらいなくなるほど何もない。
敵も強くない、採取できる素材も高くない。
面白い隠し要素もない。
初心者でも簡単に『中層』へ向かえるので、PK連中も自動的に自然と『中層』に流れたという。
しかし、ここまで何もないと逆に変だ。
ギルドを結成したプレイヤーが、一時期様々なプレイヤーに声をかけ『下層』の大規模捜索を実行。
それでも、何もないと結論付けられ、普通のプレイヤーから見捨てられた。
現在、『下層』に屯しているプレイヤーはゆったりとした時間を楽しみたいプレイヤーのみ。
それこそ、受験生の勉強の場とか。
私のようなVRバイターの巣窟になっているそう。
……って聞く割には、人気は少ないものだ。
WFOでもあったように、受験勉強や仕事ついでに得られるスキルや称号が『スパーダ・アベントラ』にないのが原因だろう。
何もない『下層』か……
一旦、ログアウトし昼食を取り、夕食の仕込みを終えた私は――現実のジムに向かう。
ちょっと、運動不足気味だと実感したので、定期的に通わないと。
流石に何もない、事はないと思うんだよな……
各層はサーバーごとで分かれているオープンワールドなのだ。
それでいて『下層』の広さを考慮すると、あのオープンワールドのサーバー自体がある意味の無駄となる。
新規の受け入れの為、あえて広大にしたってのは考えられるけど……
でも、後々の事を考えたら、やっぱり無駄過ぎるんだよなぁ。
どちらにせよ、戦闘を磨く為に、私の場合は『中層』へ向かうべきだった。
★
帰宅した私は『タロッツ・オブ・オンライン』で料理作成を行っていた。
オフライン版だと、マーケットはないし、料理店も経営できない。
それを売って資金稼ぎもできない。
食糧は自力調達だ。
私はふと気になったので『運命の輪』を使ってみる事に。
タクが猛威を振るったアルカナ……どんな性能だ。
見構えて実際にプレイしてみると、すぐある違和感に気づいた。
これは、私が散々PVを視聴していたから気づけたのだが――武器の『車輪』がオートで回転しなくなったのである。
ちゃんと脳波で『回転しろ!』と命じた時は、『車輪』は回転する。
でも、しっかり命じないと、回転しないで打撃攻撃を与えるだけなのだ。
『車輪』は回転しながら敵に接触することでダメージを与え続けられる仕様だった。
あぁ、だからか。
何も考えず、適当にぶつけるだけでダメージ継続できる。
するとどうなるか? クリティカルヒットが出やすくなる訳だ。
『奇術師』のクリティカルヒットの確率とは全然違う。
『奇術師』は1回投げて、クリティカルヒットが出る確率が50%。
『運命の輪』は車輪で回転攻撃し続けるから、回転の度に、サイコロ何回も回し続けるようなもの。
幸運補正がつけば、連続でクリティカルヒットが発生しやすくなる。
そら『奇術師』だってクリティカルヒットは出やすいけど、防御不可回避不可の攻撃ではないから、まだ許されるのだ。
車輪は攻撃範囲広いし、連続クリティカルヒットしたら、もー止まらない訳よ。
レベルアップしていくと……本来幸運補正を得られるのだが、幸運補正は貰えず。
NPCの友好度上昇に変化していた。
その、NPCの友好度はオフライン版の定型文対応のNPC相手では、あまり意味なさない。
車輪もオート回転がないので、攻撃にラグが生じていた。
結果として酷い外れアルカナに変貌している。
まるで、開発者がタクへの嫌がらせで改悪した感じである。
ただ……問題は別にある。
『運命の輪』の連続ヒットによるクリティカルヒット誘発は、まだまだ許される範疇だ。
てか、別にタクじゃなくても、他プレイヤーだって仕様に気づく。
問題は……ネームドモンスターの仕様。
タクが何度も割り込んで、他プレイヤーにマウント取る形で討伐していたのが原因で、他プレイヤーたちは「タクに邪魔される」と邪険して離れていった。
これに関しては、ネームドモンスターを廃止するに尽きる。
最初から、NPCにヘイト買うモンスターとはせず、別の形でモンスターとしてクエスト実装する。
イベントボスとして、全プレイヤーが討伐できるよう特殊ステージを用意すればいい。
今となっては、運営にどういう意図があったかは不明だが。
少なくとも、ユーザーが離れないよう最善を尽くす事はできた筈なのだ。
ネームドモンスターが運営の拘りだったとしても、
一番重要なのは、ユーザーに寄り添う事だ。
勿論、これでタクの暴走が収まる事はない。
他の形でタクが騒動を起こし、他プレイヤーとトラブルに発展し、駄々こねて俯くとしても。
WFOのように、あのプレイヤーは危険だと噂されるようになれば他プレイヤーも自然とタクに関わらなくなる。
そう……彼の暴走が悪化したのも、彼がトラブルを招いたVRMMOがサービス終了となり。
彼自身ヘイトを感じないまま、気持ちよくゲームを終えたのが原因なのだ。
WFOのように負の連鎖が続けは、否が応でも自らの過ちに気づく。
色々と思考を整理した私は、ゲームからログアウトした。
あまり、やりたくはなかったが仕方ない。
彼と連絡を取ろう。




