【タロッツ・オブ・オンライン】世界
『タロッツ・オブ・オンライン』の検証前に、私は再度情報を洗い直した。
何か見落としている要素があるんじゃないか?
戦闘モーションのPVを眺めても、なんかピンと来ない。
……まさかだけど、私。
戦闘していなかったとか?
クラフトしてた?
更に言えば……何もしていなかったって、ある?
ブラック企業で摩耗した精神で、何をする気力も湧かなかった当時。
ひょっとしたら、加速時間で睡眠取ってたとか……ありそう。
う……うーむ。ありそうだが、それなら何故、ヘリオガさんと関わる事になったのだ?
プロのVRプレイヤーである彼は、戦闘特化の気質な筈。
行動する気力もない私と関わる接点がないとしか……
今日は一旦、戦闘検証をせず町の探索をする。
オンライン版でもあった施設を見て回る事にした。
図書館、装備屋、雑貨……冒険者ギルド、宿屋……む、ここは料理店か。
料理の嗅覚と味覚は、やっぱりなさそう。この手の味覚データは別会社が権利持ってて。
オフライン版だと使用料金を払う義理がないからって事で、なくなっているのが常だ。
ふむ……しかし。
見た事、あるぞ……!? この料理! 食べた記憶もある!!
他にもステータス補正が得られる料理を提供してくれる料理店の品々を確認したが、何か見覚えある!
あ~~~~~~! ちょっと思い出してきた!!
料理食べて、滅茶苦茶美味かったんだよ!
そうだ!
わざわざアルカナを再選択する為に、アカウントを作り直したんだ!!
それで選んだのが……
『世界』 効果:成功 武器:バトン
クラフトが必ず成功する
まさかの『世界』のアルカナ!
この、必ず成功するのが肝。
『タロッツ・オブ・オンライン』では、基本、どれほどクラフトの成功率を高めても99%どまり。
どれほどレア素材をつぎ込んで、手間暇かけても1%の失敗を引く可能性がある。
料理を頑張って作って、ちゃんと完成させても謎の1%でゴミになるのが嫌で、このアルカナにしたのだ。
………で。
私は、どうしたんだっけか。
色んな料理を加速時間を使って研究し、時短料理を追及してた気が。
勿論、味を美味しく!
ただ……食材とか、もしかして、誰かが確保してくれた、とか?
私には『世界』で戦闘をやってた記憶がないのだ。
食材集めをしてたのが、ヘリオガさんとか?
……まず、実際に食材を集めて料理を作ってみるとしようか。
『世界』のアルカナを選択すると、黒のラテンダンスの衣装に変化する。
言うほど奇抜ではないし、すらっとした体格に沿った感じの襟付きシャツとズボンなので、恥ずかしさもなくて安心。
武器は『バトン』。
バトントワリングという奴だっけか、金属のバトンを回転させて攻撃するスタイルなのだ。
それだけではなく、バトンに合わせたアバターの動きをする事で、攻撃威力が高まるとか。
今は、手軽に食材を集めたいだけなので、普通にバトン攻撃だけで頑張ろう。
バトンを回転させる事で発生する風の攻撃は最初から使える。
レベルアップで水と火、最後に土の能力を取得するぞ。
能力的に、結構……料理に必要な能力だな。うむ。
モンスターからドロップした肉、植物系の香辛料や野菜、エリアでは水やハーブの採取を行う。
残りは、街でNPCのお店で購入する。
オフライン版での、自動的に決められたマイルーム兼自宅に移動した私は、調理を開始した。
オフライン版だとパン生地の発酵時間が短縮されているようで、そこは嬉しい。
他にも煮込み時間、焼き時間がかなり短くなっていた。
よし、完成!
作成したのは『ピザ』。
実は焼窯も『世界』の能力で作成したのだ。火の加減も『世界』の火能力で調整してある。
しかし……やはり、味はない。
折角、パリっと焼けて、チーズもトロッとしているのに、その味がない。
分かってはいたけど、物寂しいものだ。
食べ終わると――
『ステータス補正獲得!』
料理によるステータス補正アップを得られた。
勿論、こういうのは一定時間しか効果がないもの。
しかも、オフライン版だからか、持続時間が短めになっているようだ。
[称号:はじめての料理]
おっと、オフライン版ではあるが、こういう称号もゲットできる。
一々触れなかったが、モンスター討伐したり、探索したり、ギルドのクエストクリア回数で割と称号は獲得してある。
ふむ……確か、お店とか開業できた筈なんだけど、やってたか? 私??
いや、そんな気はしない。
朧げな記憶では、ずっと家に引きこもって料理してた気がするよ。
マーケットで料理を販売して資金稼ぎしてたとか?
ありえる。
簡単なパンとかなら、NPCが販売している食材で作れちゃうし、野菜とかはマイルームの庭で栽培できる。
収穫量は『女帝』を下回るけど……ソロでやっているだけなら十分可能。
なら、ヘリオガさんは?
ぶるーはわいさんみたいに、接触しなくても交流ある感じの……
私の料理を購入してた常連客だった?
ううーん。しばらく、引きこもり生活をやってみようか。




