【あなたがアイドル】カラオケ
ログイン三十五日目。
今日も『あなたがアイドル』……長いから略称で呼ばせて貰うが『あなドル』にログインする。
向かうのは『ミュージックエリア』と呼ばれる作曲歌唱専門エリア。
そこにあるカラオケボックス!
完全個室で、現実のカラオケボックスと違って覗かれる心配もない安心性!
ここでやるのは勿論、バイターの仕事である!!
とは言え、この個室を借りるにも料金が必要。
私は大食いチャレンジの賞金で、ここを借りたけれど……ふぅ、静かだ。静か過ぎる。
歌唱練習用なので、余計なBGMは一切皆無。
仕方なくBGMとして適当にオススメソング[カラオケver]を予約して流す事に。
ちなみに、ここでのカラオケ採点情報が色んな事務所に流れて、スカウトの切っ掛けになるらしい。
まさしく、アイドル特化のVRMMOシステム。
おっと、ちなみに別料金でドリンクや食事も注文できるぞ。
ここまでの説明を聞いて「じゃあ、何でお前このVRMMOをやってないんだ?」と突っ込まれるだろう。
だって、個室も確保できて。
しかも、大食いもできて?
いいところ尽くめなのに……
でも、やっぱりアイドルのVRMMOなのだよ。
アイドルにスカウトされないにしても、周囲は必死にアイドル活動している。
他プレイヤーに話かけられても、話題にされるのがアイドル関連のものだからね。
それだったら、まだWFOでキャサリンさんみたいなプレイヤーに絡まれるチャンスの方がマシじゃないか。
いつも通り、色んな企業の表データを作成していき。
最後は晴明の漫画の下書きをする。
WFOのサービスがいつ再開するか分からないが、それでも漫画の区切り良い所で終わらせたい。
暗号編が終わったら、どうしようか……
無難に探偵のライバル的存在を登場させるか? あるいは怪盗を登場させる?
怪盗・蘆屋道満?
……適当に考え過ぎか。一先ず、暗号編を完結させないと。
ノーブルの方々にご指摘されたので、徐々に暗号の難易度を上げていく形式にしよう。
そんなこんなで個室貸し切り時間が終了。
よし、運動しよう。
別にアイドルを目指す訳でもないが、体を動かす感覚も忘れないようにしたいのだ。
私が移動した場所は『スポーツエリア』。名称通り、運動特化のエリアである。
ここでのトレーニングを見てスカウトされる機会があるらしい。
いや、どこでもスカウトされるやんけ。
『スポーツエリア』に移動するとアバターの服装は、自動的に初期から持っている運動着に変わる。
うーん。
適当にジョギングかな。
『スキル:いつものペース』で安定した運動ができる筈。
ジョギングをする際には、専用のジョギングコースに向かいコマンド表示される[ジョギングをする]を押す。
すると、勝手に体が動き出す。
前進するのは止められない仕様だが、ある程度の向きとスピード、走り幅はプレイヤーの感覚で調整できるぞ。
『ペースゲージ』を確認しながらコースを3周した辺りで切り上げようとした矢先。
ジョギングコースの傍らで人だかりが出来ていた。
え、ちょ、ちょっとあの、邪魔なんですけど。
ジョギングを中断して、コースから抜ける場所にちょうど複数名が言い争いをしているのだ。
「あんた何なの!? 部外者が割り込まないで頂戴! 私達の問題よ!!」
「無理に決まっているじゃないか!」
仕方ないのでジョギング続行。
コース戻る際には、いなくなってくれ……と願って更に1周。
人だかりは消えたが、やっぱり数名、ジョギングコースを抜ける場所で少年と少女たちが残っている。
「僕にいい考えがあるんだ。僕に任せて欲しい!」
「あ、ありがとう。でも、私達は私達で表現したい事があるから……」
まだ続きます?
流石に、疲れて来たんだけど……頼むから、いなくなってくれよぉ。
更にもう1周。
そしたら、少年と少女が残っていて。
「え、そうだったんだ……」
「うん。でも僕にとってはいい思い出になったんだ」
いや、そんなところで話せんといて!
あかん。アバターの汗ダグダグなんですけど! これ途中でコースアウトできればいいのに!!
自動的に、あそこでスポーンされてしまうから、あの2人に割り込む形になる!!
最悪!
仕方ないのでペースを減速させる事に。
スタミナ回復はしたが、これじゃあ折角のステータス伸びしろがプラマイゼロだ。
再度周回したのに、まだ居る!と思いきや。
コースを抜けたプレイヤーが、案の定、少年少女に衝突してしまったらしく口論となっていた。
……これ、また居座り続ける奴ですか?
最終的に私はコースを更に20周するハメになった。
それまで、少年がコースを抜ける場所で俯いて立ち往生しており、動く気配がない。
見かねた誰かが彼に呼び掛けたらしく、彼がいなくなった事で、やっと私は無限ジョギングコースから解放されたのだった。
もうジョギングは懲り懲りだよ……




