タクの日常 その49
「NPCが変だった? どういうことかな、タク」
「どうもこうもないよ、里香。オフライン版の……『タロッツ・オブ・オンライン』って奴をやってたんだけど、何かNPCが変だったんだ」
ムッとした拗ねた表情で訴えるタク。
折角の食事の場で、タクが意気揚々と指摘を始めた。
彼はある意味、自分が発見したものだと言わんばかりに里香へ伝える。
だが、里香は表情を歪める。
その『タロッツ・オブ・オンライン』こそ、里香が最初に開発したVRMMOなのだ。
そして、それを破壊したのもタク。
タクはかつて、それをやった記憶すらないようで、色々とゲームシステムへの不満点を述べる。
「いつもみたいにNPCと会話をしても、全然話に乗ってくれないんだ。僕がいくら頭を下げても無反応で……それに戦闘も上手くいかないんだ。僕は『運命の輪』ってアルカナを選択したんだけど、全然ダメージが入らないんだ。あれじゃ、駄目だよ! 里香」
一方で、里香は満足そうに「ふむ」と納得する。
サービス終了し、オフライン版へ移行した際に『運命の輪』の武器である車輪の仕様を変更したのだが、それがタクにはテキメンだった訳だ。
「すまないね。タク。NPCはAIが定型文対応の安価なものと入れ替わっているんだ。不満はあるだろうが、暇つぶし程度でやれるだけのオフライン版だ。修正しようにも需要がないから、そんなところに金をかけるより、新たな事業の資金にした方がマシだよ」
「でも……まだ買っている人が、いるかもしれないじゃないか」
「タク。もう『タロッツ・オブ・オンライン』はサービスを終了してしまった。どうしても修正して欲しいなら、君がここで成果を出してくれたまえ」
「………」
「タク。今度こそデバックの仕事をやってくれないかい。今ので確信したよ。タクは些細な事に気づく才能がある。先程の『タロッツ・オブ・オンライン』の不満点を即座に見抜いた君だからこそ、頼みたい」
「ごめん……僕、やっぱり疲れてるみたいだ。もう寝るよ」
タクは拗ねた子供のように、都合が悪くなったから、そそくさと退散する。
別に、タクは『タロッツ・オブ・オンライン』の不満点なんて、どうだってよいのだ。
自分の意見を通して欲しいだけなのである。
★
翌日。
タクはケロッとした態度で、WFOにログインしようとした。
昨日までセクハラ問題で、あれだけ騒いで、うじうじとしていたのに。
だが……「あれ?」とタクはポカンとしてしまう。
WFOがサービス休止となっていたからだ。
その原因にタク自身が関わっているとは知らず。
仕方ないのでFEOにログインしたのだが、ここでもタクは「あれ?」となる。
いつも、チャットでやり取りしていたツクヨミが、昨日ログインしていない事に気づいた。
取り合えず、タクは近況報告だけを伝えて、ログアウトしてしまった。
タクにとってFEOは、ツクヨミとの交流の場でしかなかったのだ。
じゃあ『まほ★まほ』にログインしようとしたら、見知らぬ画面が表示され、ゲームが始まらない。
二度あることは三度ある。
「あれ?」と困惑しながらタクが、概要を確認すると――
『貴方の過剰なまでの悪質行為が確認された為、アカウント停止措置を行いました』
……もう少し詳細に語ると、タクの幾度となく牧野の庭に突撃しようとした行為。
カーバンクルイベントの妨害行為。
更に、牧野の家周辺で異常なまでに長期滞在したのが要因だった。
別サーバーへ移動させる訳でもなく、一個人に対する悪質な迷惑行為と判断された。
タクは、いつもの台詞を言うばかり。
「僕は……そんなつもりじゃなかったのに……」
オフライン版のゲームをやる気力もない。
どうせ、NPCのAIが定型文対応で、武器の性能も悪い、サービス終了して当然のゲームなのだ。
タクは別のVRMMOをやる事にする。
色んなVRMMOがある中、どれもこれも『仲間と共に連携!』という煽り文があるので、タクは溜息を漏らす。
自分がどんなに連携を取ろうとしても、他プレイヤーたちと息が合わない。
彼らは自分勝手で、協調性がないのだ。
「……これ」
そんな中、タクが目につけたのは『あなたがアイドル』というVRMMO。
プレイヤー自身が理想のアイドルを目指し、切磋琢磨する。
タクは自分がアイドルになれるとは思わず――
「アイドルになる人をサポートできるかも!」
と、おめでたい方向へシフトしていた。
タクが考えるプレイヤーがサポート側に回るというものは、『あなたがアイドル』では逆に不可能なのだ。
一応、世界観の背景が『あなたがアイドル』には存在している。
プレイヤーは彼方より現れた『星人』と呼ばれる、一般人よりもアイドル適正を持つ存在。
そして、それ以外のNPCはアイドル適正を持たない存在。
それが宿命づけられているのだ。
どうあがいても、根底を覆せない世界観にタクは踏み込んだのだった。




