【ヴァルフェリアオンライン】国務大臣
図書館の最上層に転移した、が。
念の為、他プレイヤーの気配を探る……うむ、いないのか。
ってことは……ここに到達できているのは私を含めて、バルフォードさんとカモミールさん。
3人だけ?
いやいや、そんな馬鹿な。
掲示板の盛り上がりやVRMMOのアクセスランキングを見ても、WFOは比較的上位陣に食い込んでいる。
課金要素の高く、現在までサービス継続しているVRMMOと比較すると、差はあれど。
ううむ……やっぱり、アレなのかな。
受験生とVRバイターがいなくなったというのが、痛手だったようだ。
掲示板に目を通して知ったのが、図書館下層に犇めいていたVRバイターや受験生勢が軒並みいなくなっているらしい。
別にバイターアンチや、場違い警察が暴れ回ったのではない。
何だかんだ私と同じく、VRバイターや受験生勢もやる事ついでに経験値やスキルを狙っていたらしい。
……が、実際の所、仕事や勉強だけで伸びるスキルがWFOでは乏しく。
段々と人は立ち去っていっているようだ。悲しい。
一方で、ガチで集中して勉強したいだけ、仕事したいだけって人は残っている模様。
例の、カモミールさんもそれに該当するだろう。
恐らく、昨今のバイターアンチの為に、バイター有利のスキルを軒並み制限した結果か。
それでもVRMMOのランキング上位で踏みとどまっているという事は、バイターは言うほどVRMMOに影響を及ぼさない少数派の人間なんだなぁと思い知らされた。
おっと、感傷に浸る場合ではない。
個室にある連絡システム……わざわざコレを使って呼び出すのも、申し訳ないが。
意を決して私がボタンを押すと――何も起きない?
肩透かしを食らった私の元に『ポン』と効果音が響き渡る。
検索端末のパネルから、フレンドチャットのようにメッセージが送られてきた。
[用件を下記欄にご記載下さい]
あ、そういう形式ね。
向こうも向こうで、色々忙しいからチャットでやり取り……何かこっちに直接出向くのかと勘違いしてしまった。
いやっ、して欲しかった訳ではなく。
ゲームだと、NPCが直接来るイメージが強いというか。
とにかく、アレクさんの件をなるべく詳細に、かつ簡潔にお伝えする事に。
あと……ジェルヴェーズ王国の『国務大臣』も教えて欲しいと、送っておいた。
これで、返信待ちかな?
久しぶり来たらドーナツセット食べたくなってきた。美味しかったんだよなぁ。
ん? でも、ここのやり取りしてくれているのが、アルバートさん?なら、ドーナツセットを作って下さったのもアルバートさん……??
き……気まずい。我慢しよう。
気を紛らわす為に、バイターの仕事をちゃっかりやろう。
ある会議の文字起こしをする作業だ。
これもAIで出来るやろって、突っ込まれそうだけど、意外と出来てないのだよ。
雑務がこうしてバイターとして日銭稼げるだけ、私にとっては嬉しいけどね。
お? 返信が来た!
アレクさんの件は……向こうで手配してくれるそうな。
具体的な手配は分からないけど、アレクさんをノーブルだと公にする訳ではなさそう。
一旦は、私が書き込んだ通り、館で保護をして欲しいと頼まれた。
手続きか何か必要なんだろうか?
この件はフレンドチャットで、アレクさん本人に伝えておかなくては。
それで、もう一つの『国務大臣』の詳細も教えてくれた。
文面的に異邦人たちの事前情報――世界観の詳細の認知具合を取り違えていたようだ。
つまり、我々はある程度、ノーブルNPCの誰がどういうポジションなのかを理解した上で行動していたと勘違いしていたという。
……んな訳あるかいっ!
って、突っ込みたいけれども、まあ、現地人的には「流石に来る前にある程度、現地の学習はしてるやろ」と思いたくもあるか……ぐぬぬ。
さて、改めて『国務大臣』の一覧を見て見よう!
どれどれ……
コーデリア女王陛下
総務大臣 ヘーゲル
法務大臣 エリーゼ
外務大臣 アルバート
財務大臣 オーディーヌ
環境大臣 エドワード
防衛大臣 ヘルメース
…………………………………………………………………………………………………………
ふぉあああああああああああああああああああ!!?!?!??!?!?!??!
え、ちょ、え、え!?
もう頭がおかしくなりそうだぞ!?!!!
何で国入って直ぐに接触したNPC2人が国の重要トップなんだよ!!!!
訳が分からないんだけど!!!
てか、何で2人共そういう話してくれないの!? ナンデ!?
あああああああああああ、もおおおおおおおおお…………
コーデリアさんにあげた兎の置物、今すぐ取り消す事できないかなぁ……無理かぁ……
辛い……見なかった事にしよ……
しょぼくれた様子で畑に戻って来た私に、瑠璃さんが鳴いて近寄って来る。
おお、瑠璃さん。
瑠璃さんがいるだけでワシは十分じゃよ……い、いたたたたっ! 怒涛の猫パンチ!!
どうされたのですか! え、もしかしてドラゴン君に何か……
「ちゅら! ちゅら~、ちゅら~……」
わ、わぁ。これまた派手にやったもんだ。
ドラゴン君は調子に乗って、色んな魔素をエレメントチェリーに混ぜ合わせまくった結果。
魔素がごっちゃになって、魔素が流れなくなって、エレメントチェリーを変色させている。
瑠璃さんでも、手に負えないようで「なぁん」と呆れながらも、どうしようもない様子だった。
「いいですか。よく見てて下さいね」
エレメントチェリーの状態は、糸が団子状になって塊になっているようなもの。
一つ一つ動かそうとするのではなく、魔素を辿って、どういう状態かを把握できるように魔素を流す。
「君の場合は、火の魔素……と土の魔素も動かせる筈です。今日は火の魔素を流して、魔素を辿ってください」
「ちゅら!」
意外と楽しんでいるようで、ドラゴン君はノリノリでやってくれる。
今日は……色々あり過ぎたので、ログアウトしたいです。




