バルフォードの計略 その2
(いや、やっぱねぇわ。ゲームのキャラじゃねえか!)
と、一旦手を止めたバルフォード。
しばらくすると、やっぱり気になって計算を始めた。
即ち、地上から魔界へ往くのに必要なINTとMPの値。
(……無理だろ! こんなん!! 最初から行かせる気ねぇな、クソが!!)
結局はイベント時にしか登場しないのか、と投げ出しかけたが……
(待てよ。海底山脈ってあったよな)
異世界特有の魔法原理で存在する海溝にある山脈。
海底山脈『トリエステ』。
ヴァルフェリア内に実在する最も深い海溝にあり、実際に向かう事も可能な場所。
そこから魔界に転移すれば、INTもMPも大分節約できるのだ。
最も、魔界への転移を目論む者はプレイヤーだけでなく、NPCもいるので、厳重な監視が敷かれている。
(あぁ……少しは現実的な数値になったが……)
これでも称号などで獲得できるステータスをつぎ込んで、更に課金ガチャで排出されるステータスポイントや装備の補正を全込みで、何とかギリギリだとバルフォードは導く。
しかし、だ。
「こんな面倒くせぇ事、チンタラやってたら他に取られる!」
バルフォードも伊達に長くVRMMO界隈にいた訳ではない。
この手のネームドNPCの好感度や特別ポジションは、皆が皆で努力している傍ら、華麗にかっさらう輩がいる。
つまり、時間の問題。
正攻法でやっていては努力も無駄。
何より――
「この、タクって野郎が問題なんだよ……!」
そう、バルフォードは他VRMMOでタクの存在を知っていた。
ワールドアイテムからネームドNPCの攻略、特別称号を軒並み踏破する、ある意味ではVRMMOの天才と呼ばれる存在『タク』。
『タク』は界隈でかなり噂されていた。
サービス終了したVRMMOでは必ず『タク』がトップに君臨していたのだから。
しかし、ここ最近、有名になり過ぎたせいか『タク』の偽物が登場したり、タクの名前が溢れ返って、VRMMO側が同名プレイヤー対策を設けるなど変な事態に。
そもそも『タク』本人が現れなくなったのではないかと囁かれていた。
実際、タクは大学でサークル活動をし、そこであるVRMMOのギルドの雑務を押し付けられていた為、表舞台に立つ事は無くなったのである。
バルフォードはタクが迷惑プレイヤーだと評価される中、あの『タク』だと確信を持っていた。
後輪を使い、周囲の視察をしていた際、タクの戦闘を観察していたが挙動は明らかにプロ級の技術がある。
『タク』はクラフト活動を中心にしているが、本人が謙遜しつつも戦闘技術が一番優れていると評価されていた。
タクはいづれ魔界への裏ルートや魔族と接触する方法を見つける。
故にバルフォードは、タクの監視を怠らなかった。
情報収集目的の監視だったが、バルフォードの目標が魔族『レヴィアタン』に定まった今、タクの存在そのものが障害になりつつある。
「今頃になって復帰しやがって! しかも何でWFOなんだよ!!」
苛立つバルフォードに冷や水をかけるかのように、個室の扉がノックされた。
「すみません。図書館ですので静かにして貰えますか」
「はぁ!?」
バルフォードが扉を開けて外を伺うと、黒髪をオールバックに整えたインテリ系の雰囲気漂う男性プレイヤーが険しい表情で一瞥し、立ち去っていく光景があった。
他プレイヤーに絡まれてダルイと感じ、舌打つバルフォード。
やや間を置いて。
「…………あ? 今、プレイヤー……?」
自分以外に最上層に到達したプレイヤーだとバルフォードが理解し、彼を追って個室から出た。
その男性プレイヤーこそ『カモミール』である。
★
しかし、現実は上手くいかない。
VRMMOの天才と呼ばれた『タク』は、ただの迷惑プレイヤーと成り下がってしまったのである。
雇われていた企業ギルドから解雇。
更には迷惑プレイヤーとしてブラックリスト入りされる始末。
過去の栄光はどこへ消えたのか……
とは言え、『タク』が上手く活躍できないとなると、魔族との接触の糸口も掴めない。
それでも根気よく『タク』の監視や武闘大会へ向けた準備などを行っていたバルフォードに、チャンスが巡って来る。
「魔族との接触で病気? 『瘴気腫瘍』か??」
掲示板でドワーフのアカウントの『タク』が晒されていた傍ら。
その『タク』がある病を治療する為に、特定の人物を捜索していたと話題が取り上げられていた。
魔族と接触した感染した病。
『瘴気腫瘍』であれば……バルフォードは、糸口を掴む。
「やっぱり、あの野郎は主人公補正かってほどツイてはいるんだな。使い方を知らないってだけで」
『タク』のアカウントを全て特定していたバルフォードは、ハッキングで過去ログを追っていく。
接触したNPC。
『タク』に暴行を働いたNPCが患者の身内。
なので、彼のダメージログからNPC『メリッサ』を特定し、彼女のステータス等の情報をハッキング。
NPCもフレンド機能は活用しているのがWFOの特徴。
案の定、メリッサは一種の連絡手段として妹の『カタリナ』をフレンド登録している。
「余裕だな。あとはコイツが病死するまでに過去ログを追っていくか……」
ダラダラと作業を続けていたバルフォードだが、舌打つ。
カタリナに接触していた魔族は、やはり『レヴィアタン』ではなかった。
だが、別の意味で大物だった。
「……『サタン』かよ。魔族の総大将じゃねえか」




