バルフォードの計略 その1
VRMMOを行うプレイヤーの目標は様々である。
一方で、夢かなわぬ目標というものもある。
とくにNPC関連は大きい。
公式HPでも紹介されているネームドNPC。
そこらにいるモブNPCから街で商売しているNPC。
ギルドの受付NPC……などなど。
数多のNPCはいるが、たとえばの話……彼らと恋愛関係に発展するのは意外と不可能である。
そもそも、AIとは膨大なデータを元に学習する。
毎度クエスト失敗するプレイヤーは、そういうプレイヤーだと学習する。
毎日クエスト受注するプレイヤーは、常連プレイヤーだと学習する。
同じように好感的なアクションを起こすプレイヤーには、相応の行動をするプログラムを組み込めるが。
恋愛感情は難しい。
何より、モブはともかくネームドNPCに極端な贔屓をさせるような真似はできない。
恋愛システムを組み込んで崩壊したVRMMOは数多に存在する。
それ以上に、ネームドNPCを独占するような行為は、プレイヤー格差を生むと見做して、VRMMO開発界隈では非公式な暗黙の了解扱いされてきた。
まあ、別に、だからといって恋愛プログラムの組み込みは禁じされてはいない。
やるかどうかは開発運営次第。
やったところで、そのVRMMOの衰退の要因になっても知らないぞ、という奴だ。
その暗黙の了解は、VRMMOに触れているユーザー側も薄々感じ取っている。
WFOのプレイユーザーとなっている男性……ハンドルネーム『バルフォード』も、それを認知していた。
最も彼は、ゲームのキャラ相手に恋愛感情など論外だと見做していた。
そんな彼が何故VRMMOをやっているか?
……暇つぶし、である。
だが、暇つぶしと一言で済ますにも複雑な経緯があった。
まず、バルフォードは地頭は当然良い。
掲示板などの評判とは裏腹に、とんでもなく優秀な成績を残し、有名大学を卒業した。
しかし……だからといって、専門的な職業についたり、研究者になったり、なんてことは無い。
興味がない。
頭がいいから取り合えず、行ってみたが。何の変哲もない。
エリートの研究者たちも所詮は、金と地位の小競り合いだと理解してしまえば、どうでも良くなった。
自分の知識を誰かの為に使おうという気概もなし。
人と関りが少なく、かつ多少刺激のある夜勤の職について、朝に帰宅。
夕方まで就寝し、また仕事に行く。
そんな生活を送っていたが、見かねた職場の上司が彼にVRMMOを勧めたのである。
「お前さんも若いのに誰とも関わんのも駄目だろう。他の国の人もいるから、朝からやっても人がいると孫が言っておったぞ」
その時は、別にどうでもいいとバルフォードは無視した。
意識が変わったのは、ニュースでVRMMO内のトラブルが取り上げられていたのを目にした時。
調べてみると、案外、いやお世辞でもなく、VRMMO界隈の治安は最悪だと知った。
それからは刺激を求めてVRMMOを放浪する事に。
しかし、あまり刺激的ではなくなった。
最初は物珍しさで近寄って、バルフォードにPKなり仕掛けて来る輩は多かったが、すぐにいなくなってしまう。
彼のやる事、為す事が、偏屈だったからか、誰も近寄らなくなる。
(なんだよ。大学でも、どこでも大差ねぇんだな)
バルフォードのやり方は、WFOでも変わらない。
地頭を活かせるノーブルの仕様を理解し、数多のプレイヤーを苦しめている試験もクリアし、最上層に到達したが、それまでだった。
一応、世界最高峰の図書館というだけあり、このゲームの知識だけでも蓄えようと適当に情報を漁るバルフォード。
適当に流し見していたが、これといって刺激になる要素はなかった。
……しかし、唯一気になっていたのは
(魔族って……コイツら、設定上いるだけでイベント時にしか登場しねぇのか?)
魔族。
モンスター……魔物の上位種であり、まあ、典型的な人型の敵サイドポジション。
彼らは基本、プレイヤーたちがいる地上から遥か下界にあるという、魔界に住処を構えており、基本的に地上で活動はしないとされている。
設定――開示されている情報では、いるが、この手のネームドNPCとプレイヤーとが接触しないよう、イベント時にしか登場させない手法はある。
ただ、バルフォードは、それもそれで刺激がないと溜息をつく。
ランダムクエスト、ワールドアイテム、革命イベント……多くが一個人のプレイヤーによってかっさられてしまい、他プレイヤーたちが不満を爆発させた要素。
一方で、そんなサプライズやハプニングもない停滞的な内容は退屈でもある。
バルフォードは、そう感じていた。
(計算上、プレイヤーも魔界に行けるようだが……どうだかな)
どうせ、何等かのプロテクトがかかって直接いけないだろうとバルフォードは高を括る。
魔族の情報を流し見していると
「っ!?」
衝撃が走る。
何故なら
(す……凄ぇ好みの女……!)
魔族の『レヴィアタン』という女性キャラに一目惚れしてしまった。




