【ヴァルフェリアオンライン】先生
実際、NPCで「漫画読んでます!」って声かけられると、嬉しいような、恥ずかしいような。
いや、ノーブルの人達とは感覚は別だよ?
だって、あの人達は……
……あれ? この人、何で私が晴明の漫画描いてるって分かったんだ?
ノーブルじゃないだろうし……ノーブル、じゃ?
困惑している私を他所に、話しかけて来た彼――『アレク』という男性NPCが、少しだけ近づきながら、拙い感じで喋る。
「あっ、あの! よ、読んで、ます。いつも、楽しく」
「あ、ああ。ありがとうございます」
「そ、その、こっ、ここ、これっ……これ……!」
「?」
慌ただしく何かを取りだすアレクさん。
魔導書?
と思いきや、ページを開いて、私に差し出してきた。
………え!? あ、暗号! 最新作の暗号、解読しちゃったの!?
嬉しい! ような悔しいようなっ!!
一応、解読できるように、程度の低い感じに設定しておいたのだけど。ま、まじかぁ。
てか、冷静に考えると、彼――アレクさんはNPCなのだ。
NPCのAIで物語の、それもプレイヤーが考えた奴に登場する暗号を解読するって、ある意味凄いな……!?
AIは進歩しているとは言え、ここまで自由に進化しているものなのか!
「グルルルル……」
ぐるる?
アカン! 突っ立っていたら周囲にモンスターが!!
私は慌てて、アレクさんに呼び掛けた。
「すみません! ここは危険なので移動しましょう!! 取り合えず、街まで!」
「は、はい!」
★
「わ、私、漫画描きたい、です」
「え」
念の為に、人の少ない休憩所に移動した私とアレクさん。
漫画の話かと思えば、漫画の話だったけど、唐突な流れにちょっと驚いてしまった。
俯きがちで、しどろもどろで、圧倒的コミュ障雰囲気を醸しているアレクさんの気持ちであり、思考を読み取って尋ねる。
「……私に漫画の描き方を教えて貰いたい、という事でしょうか?」
「あ、は、はい! そうですすみませんすみません先生に教えて下さいお願いします」
「分かりましたので、落ち着いて下さい」
「は……はい」
色々大丈夫か……
言っておくけど、ワシは漫画のプロでも何でもないから偉そうな事を言える立場ではないのじゃよ。
正直、ヒュルアニア公国で漫画活動ギルド的なものがあるから、そっち所属した方がいいけど。
それを言ったら、もげるかってくらい首を横に振られた。
「せ、先生じゃ……先生の漫画がいいだけで、他の連中は別に」
極端すぎやろ……!
しかし、教えるか。教えると言ってもだな。
ドワーフのアカウントは、本当に素材集めと修繕工事用なので、長期活動用ではない。
当分、ノーブルのオギノで活動したいのだけども。
申し訳なく私は告げた。
「教えたいのは山々なんですが、私も常にこちらにいる訳ではなく。別のアカウント、ええと、別種族の方で活動するので、時間は限られてしまいます。それでもよろしいなら……」
「ジェルヴェーズに行く」
「え」
え? 行くって、え?? マジで?
私は改めて周囲に誰も何もいないのを確認してから、アレクさんに尋ねる。
「色々確認したいのですが……アレクさん、ノーブルですよね?」
「ノーブルとドワーフのハーフ、です」
ウッソ!?
あ、ああでも、高身長のノーブルと低身長のドワーフ、足して割った身長具合が人間っぽいのか。
絶妙なバランスのせいで、普通に人間にしか見えない。
しかも、レーピオスが探してたピンポイントの種族の奴!!
どでかい情報を受けながらも、私は大事な話に触れた。
「アレクさんが、どういう経歴なのかも分かりませんが……ジェルヴェーズ王国に行って、こちらに戻る感じですか?」
激しく首を横に振って否定するアレクさん。
「ここじゃ、生きられない。誰とも馴染めない。私がノーブルだから」
「そうですか……」
「もう、出る予定だった。もう少し、資金を貯めたら」
薄々、ノーブルの人達は周囲に馴染めにくいタイプだよなぁと感じていたから、自然とそうなる訳か。
だがアレクさんや。
あちらのノーブルの方々は、大分辛辣なのだよ。ギャップで揉まれて苦しみそう。
別の意味で心配になって来てしまった。
「分かりました。私はまだ現地で家を購入できてないので、畑で生活しています。私が不在中でも、畑を警備しているキャサリンさんとナーサリーさんというノーブルの方がおりますので、尋ねて下さい。新天地だと不安やトラブルもあるでしょうから、何かありましたら私達の所にきて下さい。お力になりますので」
アレクさんは上手く返事ができないながらも、縦に首を振ってくれる。
……あと、ついでに一つ尋ねてみた。
「アレクさん。ドワーフのスキル、活用しておりますか? 実はジェルヴェーズ王国で建築に困っている方がいらっしゃるので、ちょっと……」
アレクさんは何とも言えない無表情で即答する。
「そういうの、興味ない。使ってない」
「分かりました。私が向こうにお伝えしておきます。建築の事で向こうで変に絡まれても無視していいです。教えて下さり、ありがとうございました」
「……」
「ええと、建築の事は気にしなくていいですよ。好きな事をして大丈夫です」
「そ……そう、か。そうですか……何も、作らなくても、何も、言われない。ですか?」
「はい。大丈夫です」
俯きながら、アレクさんは小さく「良かった」と呟くのが聞こえる。
ドワーフだから物作れってね? 押し付けるのも悪いよ。
それに、ドワーフだって色んな事が出来るんだから。




