【ヴァルフェリアオンライン】カモミール
ログイン三十一日目。
本日は、ドワーフのアカウント『ダンテ』でログインし、館の修繕素材回収をするぞ。
お次は薬草庭園を作る予定なのだ。
その館には、新たな住人たちが食堂で嘆いている。
「ママー! ごはーん!!」
「オギノママ~」
「ぬおぉぉん」
「……なーお」
最後の瑠璃さんの鳴き声が呆れてらっしゃる。
てか、オギノママって別の有名人に聞こえちゃうかもだから、止めなさい。
新たな住人であるナーサリーさんと、彼女のペット、クッションキャットの『マクラ』ちゃんの餌も必要になってしまった。
クッションキャットは別に食べる必要ないのだけど。
皆が食事取っている影響か、食べたそうな表情をしているので魚出汁のわたあめという、特殊な餌を与える事に。
瑠璃さんは栄養を考えて乾燥煮干しと野菜のキャットフードを。
たまには歯ごたえある食事も必要だ。
私達、プレイヤーたちは『モーニングトーストセット』だ!
イチゴ、ラスベリー、エレメントチェリーのフルーツ盛り。
付け合わせのサラダ。
スクランブルエッグ、ベーコン、目玉焼きのおかず。
カリッと焼いたトースト。
味付け用のジャムやハチミツとバターも用意!
飲み物も、お茶、コーヒー、牛乳、ジュースと色々揃えております!!
品数だと豪勢だけど、キャサリンさんとナーサリーさんの量は控えめにしております。
私はガッツリ食べるのは、普通に食べる目的だけど、他にもドワーフの隠し要素、適合食材を探る目的もあるぞ。
ふむ、朝食を食べてステータスアップ!は良しとして……
急激に力が湧き出る感覚が、ない。
ここにある食材ではないようだ。入手が難しい食材が適正食材ではない事を祈ろう。
「おぎのん、カモと直接話した事あるか?」
急にナーサリーさんに尋ねられる。
かも……カモ? プレイヤーの事だろうか。全然知らないし、掲示板でも聞かない名前。
私は聞き返してしまう。
「カモさん、とはプレイヤーですか?」
「最上層で仕事してるぞ」
あ、もしかして……!?
「あの、革靴の人ですか!?」
「革靴……?」(キャサリン)
「カモ、革靴だった?」(ナーサリー)
「ぬぉん」
「なーお」
い、いや、そんな目で見ないで……!
私視点だと本当に革靴の足音しか分からないんだもん!!
瑠璃さんまで、そんなっ……!!
困惑気味だったキャサリンさんが詳しく説明してくれた。
「カモ、じゃなくてカモミールって言うんだけど、アイツも国籍取得してるんだ~。仕事で使ってるから、平日の昼間しかログインしてないけど。僕達が紹介してあげよっか?」
「仕事……バイターですか?」
「違うぞ、正社員」
「それは珍しいですね」
なんかちょっと羨ましい。
VRMMOの加速時間使っていいよって企業、意外とないんだよね。
語弊があるけど、所謂、企業ギルドで進出しているのとは別。
一般企業で職場利用するって、ありそうで意外とない。
結局はゲーム空間な訳で、遊んでいると誤解されたり会社の体裁の問題とか情報流出とか。
まぁ、色々あって導入や利用を控えているものなのだ。
……逆にフレンドになろうとしたら、迷惑な感じしちゃうな。
向こうは真面目に仕事しに来てる訳で。
私も仕事はしてるけど、それがバレないように偽装しつつ、ゲームはやってますからね。
うん? でも、キャサリンさん達と普通にフレンドなってるの……?
「お仕事の邪魔になりそうなので、積極的にフレンドになるのは抵抗があるんですけど。カモミールさんの方は、どうなんでしょうか? 皆さん、普通にフレンドになってる感じなんです??」
サラダやスクランブルエッグとかをトーストで挟んで食べていたキャサリンさんが、何とも言えない表情で言う。
「えー。おぎのん、神経質過ぎない? 一々、フレンドになるだけで、考え過ぎっていうか」
「裁判沙汰とかなる時はなるので」
「「は?」」
「晒しが酷い時とか、年単位で数十件分、裁判起こしてましたよ」
「「……」」
「なおん」
私の方がヤバイ人みたいになっているけど!?
でも、本当の本当にヤバイ人間いますよ!
話の通じない人間が、世の中、結構いて理不尽な晒しばっかり!
裁判で勝訴しても、賠償金払われません!!
妙な眼差しでキャサリンさんとナーサリーさんが言う。
「ああ、うん。カモはそんなんじゃないから、大丈夫だよ。今、休暇中だからログインしてないから、ログインした時、教えるね」
「バルも頭おかしい奴じゃ……いや、変な事してるが、頭はおかしくないから心配しなくていいぞ。最上層行けるくらい頭はいいからな……」
「なーん」
「ぬぉぉ……」
何で!?
★
気を取り直して、館からゲルヒィンのリスポーン地点に転移する私。
薬草庭園の為に必要な素材と『香石』の確保。
そして、モンスターのドロップ素材回収だ!
久々のドワーフの感覚を取り戻しながら、無難に低レベルのモンスター討伐。
そして、素材回収ポイントでの採掘。
うーむ……やっぱり、デカい武器振り回すより、拳で戦闘する方が小回りが利くんだよね。
AGIの低さは、食事の裏補正で補えている。
中型のドラゴン程度なら、尻尾を掴んで振り回し、叩きつける程度のSTRに仕上がっている。
拳で対処しにくい、装甲つきや物理耐性持ちに魔力を駆使するだけ。
適正食材が見つかったら、どんな補正がつくか次第かな……?
「あ……! せ……せ……」
ん?
な、なんだ? 探索エリアにNPCの姿があった、茶髪でちょっと薄暗いダウナーな雰囲気ある。
ヘーゲルさん程ではないけど、影がある青年。
珍しい事にドワーフではない体格……人間だろうか?
「あの、どうかしましたか?」
意味あり気に言葉足らずになっているので、私は彼が落ち着くまで待ってあげると
「せ、せんせ……!」
え?
「は、晴明の、先生……!」
……ま、漫画の方!?




