タクの日常 その40
「……ク……タク! そっちに行ったぞ!!」
「え? うわっ!?」
タクはボーっとしていたせいで、モンスターの攻撃をまともに食らってしまった。
まほ★まほにログインし、メロン同盟のプレイヤーたちと活動していたタクだが、今日一日に起きた怒涛の展開に精神が疲弊しており。
攻撃を受けた反動からの切り返しも出来ず、派手に尻餅をついてしまう。
タクが「いたたた……」と痛みの意思を言葉で漏らす間に、他のプレイヤーたちがメロンの魔法でモンスターを倒す。
「おい……大丈夫かよ。タク」
「アイテム使うのに慣れてないなら、やっぱり私がやるよ」
「えっ!? ご、ごめん! 僕にやらせて!! タイミングを見計らうのは得意だから!」
タクは慌てて食い下がる。
しかし、他のプレイヤーたちは何とも言えない表情で顔を見合わせた。
何故なら、タクとのこのやり取りは、今回が最初ではないのである。
メロン同盟の彼らがやろうとしているのは、素材を組み合わせて作成された攻撃アイテムを使用し、それをメロンの魔法に巻き込んでモンスターを攻撃する戦闘方法。
アイテムを消耗する必要があるが、沢山のモンスターを捕縛し、一斉に討伐できるのでは?
皆が意見を出し合った結果、辿り着いた新たな可能性である。
だが……
肝心の攻撃アイテムを所持しているのが、タク。
他プレイヤーたちも作成したり、購入した攻撃アイテムをタクに託したというのに。
タクは、ボーっとして立ち尽くして動かないまま。
何度も何度も、モンスターの攻撃を受け続けているのだ。
最初は、ちょっとしたミスだと気にしなかった他プレイヤーたちも段々と疑心感を抱く。
「なぁ、いい加減にしろよ。お前さぁ。正直に、無理なら無理って言ってくれよ」
「ちょっと、そんな言い方……」
「流石におかしいだろ! こんなに何度も何度もミスって! アイテムを取り出す動作もしないんだぜ!?」
「ねえ。何がしたいの、タク」
「真剣にやってよ」
「疲れてるのか?」
様々な苛立ちと不満と、そして心配の声が投げかけられて。
タクは俯きながら、モゴモゴと喋る。
「ごめん……今日、色々あって……それを思い出しちゃって……」
本当の事ではあるが結局は自分自身の問題に過ぎない。
他プレイヤーたちからすれば「だから何だ」と言わんばかりの内容だった。
仕方ないと、他プレイヤーたちは提案する。
「要するに集中できないって事?」
「……うん。ごめん」
「じゃあ、私達だけで練習するからタクはログアウトして休んでなよ」
「ま、待って! 僕も一緒に戦うよ!!」
「集中できなくて、ボーっとしちまう奴が無理に参加するんじゃねえよ! 足引っ張るだけなんだよ!!」
「も、もう大丈夫……! 本当にごめん!! ちゃんと集中するし、アイテムも使うから」
「はぁ……だからアタシ嫌だったのよ! コイツと一緒に組むの!!」
突然、そんな事を叫んだ女性プレイヤーにタクは目を見開く。
一体何だとタクが彼女に眼差しを送る傍ら、彼女がどんどんと語り続けた。
「コイツが前に掲示板で噂になってた営業妨害してた荒らしプレイヤーだって、言ったじゃない! アイテムも持ち抱えて、アタシたちに返さないでしょ!? どうせ、クラフト素材だって返さないし、クラフトだってしないわよ。コイツ!!」
「え、営業妨害……って、僕そんなこと」
「何度も何度も同じ店に突撃して、ウロウロして、ずーっと突っ立ってたでしょ!? 違う!!?」
「あ……あれ、は。あれは違う。違うんだ! カーバンクルが、庭が気になって、それで、つい……」
恥ずかしながら、タクが何とか言い訳する。
顔面が真っ赤になるのを感じながら、タクはますます俯いてしまう。
周囲の反応が怖くて仕方ない。
だが、彼らの反応はタクの想像とは斜め上のものだった。
「……は? いや……え??」
若干の意思の齟齬が気になって、タクは恐る恐る顔を上げて訴える。
「だ、だからっ。その……あの時、お店の庭にカーバンクルがいてっ。気になって、お店の人に話を聞こうとして中に入ろうとしたらバリアで入れなかったから。あ、あとっ。庭が全然手入れされてなかったら、手入れしたいと思って。お店の人と、話がしたかったんだよ」
「「「………」」」
必死に言い訳したのに、周囲の反応はますます冷めたものになっていく。
それが、タクにも訳が分からない。
彼らは何が不満で、何に疑問を抱いているのか。どういう反応なのか。
プレイヤーたちの1人が、ようやく口を開く。
「あのね、タク君。他の人達がタク君を噂してたのって、タク君がお店の営業妨害をしてるんじゃないかって事なんだけど」
「営業、妨害?」
「店の周りでウロウロしてたり、庭に何度も突撃しようとしたり、店の前で突っ立ってたりする変な奴がいたら、誰もその店に近づきたくないじゃん。何か怖いし。近づいたらソイツに何されるか分からないし」
「………え」
「タクのやってた事のせいで、あの店の印象も悪くなるんだよ。まぁ、あの店やってるプレイヤー。凄い奴だから、全然マイナスになってねぇけど」
「普通のプレイヤーの店でアレやられてたらさ。店の売上、確実に落ちてるよね」
「そうそう。変なのに付きまとわれたくないから、商品買うのも躊躇するじゃん」
「………………………………………え」
タクは想定外の横殴りで放心してしまった。
カーバンクルでも、庭でもなく。
タクがずっと店の周りにいたせいで、周囲の影響を与えていた事。
庭の印象が悪いと売上が、と考えていたら。
タクがウロついているせいで売上に影響を及ぼしていたという事。
呆然としているタクに、他プレイヤーたちは更に後へ引いた。
「えっ、て。なに? コイツ。まさか自覚なかったとか??」
「荒らしでやってたとかじゃなくて? 素で??」
「マジで頭おかしい奴……?」
「ほら……だから、止めようって。ブロックしてアタシたちだけでやってようよ」
「……そうだな」
そうして、彼らはタクをブロックしてしまい、タクの前から誰もいなくなった。




