【ヴァルフェリアオンライン】クッション
「貴様、本気か?」
老朽化した病院内で、レーピオスにそう尋ねられ私は頷く。
「次の治療費はタダと仰っていましたが、別に私の治療費とは定められておりませんよね?」
「そこではない。初対面は愚か、存在すら認知していなかった病人を助けるのか」
私が彼に依頼したのは、掲示板で噂されている難病患者――カタリナと呼ばれる少女の治療だ。
以前、レーピオスは治療のツケをしてくれたので、ここで消費する。
彼としては、見ず知らずの人間を助ける私の正気を疑っているようだった。
なので不満たらたらで答える。
「私だって、ここでツケを消耗したくありませんよ。しかし、向こうで異邦人が起こした騒動により、現地人の方々に異邦人の悪印象を植え付けられて……いえ。ぶっちゃけ、植え付けられつつあります。少しでも悪印象を緩和する為には、こうするしかないんです」
「……異邦人も面倒な連中だ。まあいい。あの人間共には運が良かったと伝えておこう。俺はこれからアルバートに緊急要請をかける」
「すみません。よろしくお願いします」
レーピオスが肩にとまっているスカルガーゴイルと共に、後輪で瞬間移動したのを見届ける私。
やれやれと、私が畑の方に戻ってくると……新たな刺客が!
「あ! おぎのん!! ナーサリーの許可出してー!!」
「瑠璃さんにお願いします」
襲撃三人衆の一角、ナーサリーさんがそこに……いや、平時でパジャマ姿なのかよ!
彼女は比較的清潔感はあるが、後輪のベッドに横たわり、非常にだらけている。
「む」とナーサリーさんが体を起こす。
「私には、とっておきがある。これだ」
眠たげな声色で取り出し……じゃなくて、ベッドの上にいた巨大羽毛のクッションを持ち上げるナーサリーさん。
そのクッションが、動いている!?
違う。これは『クッションキャット』と呼ばれる猫の一種だ!
食事や手入れを必要としない代わり、周囲の動物の睡眠からエネルギーを吸収し、成長し、上質な毛並みを保つ安眠枕動物である。
つまり、同じ猫同士、瑠璃さんと親しくなれる……のか?
畑の敷地から鋭い眼光でクッションキャット、もそうだが、ちゃんとナーサリーさんを品定めしている瑠璃さん。
うむ、流石でございます!
厳しい審査?の結果、瑠璃さんは「なおん」と鳴いた為、彼女も合格?のようだ。
ナーサリーさんは、盛大にだらける。
「あー、やったぁー……ベッドで寝れる~……」
「ぬおぉん」
結構、野太い鳴き声をするクッションキャットと共に、ナーサリーさんは物置小屋のベッドに滑り込み爆睡開始。
……え? 睡眠ログアウトする訳ではなく!?
キャサリンさんは、慣れたように言った。
「ナーサリーはコアラ体質だから気にしないで~。会話したかったら、フレンドのチャットルームで……あ! ちょちょ、ナーサリー! まだ、おぎのんとフレ登録してないじゃん!!」
「のあー」
大丈夫か、この人……コアラ体質なら尚更一日ほとんど寝てるやんけ。
寝ぼけながら、ナーサリーさんがフレンド登録してくれた。
まさかの1日で2人もフレンド登録! 快挙では!?
フレンド登録後、爆睡中の筈のナーサリーさんから個人のフレンドチャットにメッセージが届いた。
『あっしは夢見で活動してますんで、何かあったらチャットでお願いしやす』
ふざけている口調ながらも、『夢見』かぁと納得する。
ログアウトせずに睡眠を取り続ける事で習得できるスキルが『夢見』。
肉体は睡眠状態のまま、スタミナ消耗をせずに夢の中で活動する特殊なものだ。
しかし、良くも悪くも夢の中。
活動可能な内容は限られている。
そう言えば、夢の中でしか取得できないアイテムとかあるんだっけ。
ちょっと欲しいかも……
とか、やっている内にキャサリンさんの衣服修繕が完了するのだった。
「修繕終わりました」
「うおー! ありがとう、ママー!!」
ママやめなさい。
修繕が終わった衣服を確認しながら、キャサリンさんは唸る。
「大会は何着てこよっかな~。あれ。そういや、おぎのんって大会出んの? GWとイベントのせいで霞んでるけど、そろそろ武闘大会開催じゃん?」
ん? ああ……
『イースターテイム祭』『魔族の館』とは別に、ゲーム内時間1年に1回、開催される系の奴。
武闘大会――バトルロイヤル形式の大会だ。
すでにルールは公開されている。
NPCを含めた参加者全員のレベルキャップは100。
NPCを倒してしまってもゲーム内で死亡しない特殊仕様になっているので、プレイヤーも含めNPCも全力で挑んでくるぞ。
大会の優勝者自体は、最後まで生き残った者。
しかし、どれだけ倒したか、どれだけ生き残り続けたか、などで、イベントポイントを獲得。
最後まで生き残れずとも、相応の報酬が貰えるのだ。
うーん……どうしようかね?




