タクの日常 その38
気力を回復したタクは『まほ★まほ』に完全復帰した。
数少ないメロンの魔法を取得したプレイヤーたちによるメロン同盟は、ちょうどよく12名集う。
これも、タクが根気よく聞き込みや、捜索を続けた結果である。
彼らと共に小規模なパーティーを開催して、今後の活動を語り合う。
「ところでクラフト系はどうする?」
「俺、そういうの無理」
「私もクラフトは苦手。小道具とか作ってもセンスないかも」
「僕に任せて!!」
意気揚々とタクが名乗りを上げた。
よりにもよって、メロン同盟に加わった彼らはクラフトとは無縁な者ばかりで、タクの存在が心強く感じる。
「ホント!? 私、メロン属性の杖が欲しいなぁ!」
「メロンだし、メロンっぽい水晶玉で統一もアリだろ!」
「問題は服じゃね? タクって服作れるのか??」
「あたしは、メロンの効果上昇する料理作って欲しいかな。服は無理しなくていいし、武器も後回しででいいよ」
「あはは! みんな心配しないで! 料理は他のVRMMOでもやっているし、服も武器も大丈夫!!」
「うおー! マジか!! クラフトの神!」
「じゃあ、素材は私達が集めておくね!」
「……! うん! ありがとう!!」
自分の意見に賛同してくれ、更には素材集めを自主的に協力してくれる彼らの存在が嬉しくてたまらない。
タクは一旦、ログアウトし喜びを嚙みしめる。
この感覚、この調子なら、きっと他のVRMMOでも活躍できる筈だ。
「もう一度、行ってみよう!」
自信を取り戻したタクが、FEOにログインしたのである。
かつて、イベントでチャットをスルーし、他プレイヤーたちから反感を買ってしまったタク。
今の自分なら、信頼を取り戻せるはず!
タクがメッセージを確認していると、カグヤの適合者・キラレから料理教室を開催の話が持ち掛けられていた。
「料理教室?! 参加してみたいなぁ……でも……」
ここで他プレイヤーたちと一緒に、なんて無謀だとタクは察する。
企画はいいが、今回自分は参加しないとキラレに対し、返信をした……が。
どうやら、料理教室の形式に悩んでいる様子のキラレ。
料理教室自体できるか不安だと。
原因はAI処理。FEOではキャラに似合った言動でAI処理されてしまう独自の仕様なのだ。
タクも、実際それを味わい。満足に振るまえなかった結果、嫌気が差してしまった程。
中でも切り裂きジャックは、女性キャラの被害があるのでは?と不安視され、ジャックのプレイヤーは不参加するしかないと言うのだ。
「仲間外れなんて、そんな……!」
実際仲間外れにされた経験から、それはジャックのプレイヤーを傷つける事になると思ったタク。
必死に何とかしようと画策する。
だが、タクがしつこくキラレやジャックのプレイヤーを説得した結果。
何と彼らからエッセンスリンクを切られてしまったのだ。
慌てて、再度エッセンスリンクを申請するが――
[この演者にエッセンスリンクの申請はできません]
なんてメッセージが表示される始末。
他プレイヤーにも呼び掛けたが、無視されるか、キラレたち同じくエッセンスリンクを切られた挙句、申請拒否される始末。
「な、んで……何で!」
苛立って怒鳴り散らすタク。
「何で!? どうして! どうして! どうして! どうして、みんな我儘なんだ! 自分勝手なんだ!! どうして仲良くしようとしないんだ!!」
1人で怒鳴り散らしたところで何も変わる事はない。
ピロリン、と何かの通知音が聞こえた。
タクはチャットを送信する間、簡易探索を行っていたのである。
ほとんどのプレイヤーからエッセンスリンクを切られているにも関わらず、イベントでも迷惑をかけ、トークルームでも悪く噂されているのに、誰かがタクにエッセンスリンクを申し込んだのだ。
誰だろうと確認した相手の正体は――『八咫烏』と呼ばれる男性キャラ。
男性相手に上手く交流できた試しがないタクは、少しばかり抵抗感を覚えた。
しかし、わざわざ申請してくれたのだから……
と、仕方なく、エッセンスリンクの申請を承諾する事に。
彼から早速メッセージが送られた。
[八咫烏:良かった良かった! 変に噂されてるせいで、承諾してくれないかと思ってたよ]
[八咫烏:改めて、これからヨロシク]
気乗りしない感じでタクは「よろしくお願いします」と普通に返事をする。
苛立ちのせいか、緊張感の欠片もないフレンドリーすぎる八咫烏の態度に対し、雑な対応をしてしまう。
たとえば、彼が太陽神のエッセンスが余ってないか、と聞いても。
タクは[ゼウスは太陽神じゃないから、ありませんよ]と素っ気なく答えてしまう。
八咫烏が[悪い悪い、それもそうだわwwww]とヘラヘラした文面で返信するものだから、タクは溜息をついてログアウトしてしまった。
(きっと、僕の事を馬鹿にしているんだ)
折角の繋がりを粗末に扱っているとは、自覚なく。




