【Fatum Essence Online】理解不能
加代流は訳が分からなかった。
一体、どうしてタクがそんな発想に切り替わるのか。
切り裂きジャックを、女性キャラがいるフレンドルームに招き入れようとしているのか。
悩みに悩んで加代流は「まさか」と、ある可能性に至った。
「もしかして……タク君、切り裂きジャックを知らない……!?」
かのイギリスのロンドンを震撼させた連続殺人鬼を知らない。
日本では、色んな作品でオマージュキャラがいたり、作中に取り上げられる有名な犯罪者。
それを……知らない!?
俄かに信じられないが、そうとしか加代流には判断できなかったのである。
なので、チャットに『タク君、切り裂きジャックの元ネタを知らない?』『女性の人ばかり狙う連続殺人鬼なんだよ?』と加代流はわざわざ送るハメに。
しかも、全然チャットに返信がない。
「え!? もしかして、ジャックさんの方にメッセージ送って迷惑かけているんじゃ……」
慌てて加代流が確認したら、そもそもジャックのプレイヤーはログアウトしているのだ。
なら、すぐにタクは戻って来るだろうと加代流は一息つく。
……が。
全然戻って来ない。返事もない。
「うう……お腹すいた~。キラレも一緒にご飯食べよう!」
先にカグヤの空腹の方が先に来てしまったようだ。
折角なので、加代流はツクヨミ(みずの)が作ってくれた料理を取り出す事に。
「和風イタリアンのフルコースだって!」
「わ~! 美味しそう!!」
豆腐サラダ、きのこパスタ、和風ピザに大根おろしのハンバーグ。デザートには、和風パフェ。
本当にどれも美味しいのは事実。
匂いだけでも食欲をそそられるものだ。
実は、カグヤと同じく隠れ大食いの加代流も、食べたくて仕方ない。
だが……
「……ごめん! カグヤだけ先に食べてて!!」
「え。なんか気まずいよ」
「ちょっとタク君と大事な話があるから、目が離せなくて……」
「ふふ。やっぱり、タクの事が気になるんだ!」
「も、もう! 違うってばっ」
「分かった。先に食べてるよ。キラレの分もちゃんと残しておくから、安心して!」
「うん、ありがとう……」
そんな会話を繰り広げている内に、タクから返事が返って来て加代流は安心した。
……のだが。
タクからの返信内容に、固まってしまう。
[ゼウス:そんな事知ってるよ! でも、ジャックさんだけ参加できないなんて酷いじゃないか!!]
[ゼウス:ジャックさんにメッセージを送ったんだけど、僕じゃ無視されるみたい]
[ゼウス:カヨルさんからもう一度、お願いするように言ってみてくれる?]
(………………………………………………………………………え?)
加代流はますます理解できなかった。
元ネタを知っていて? それでフレンドルームに呼ぼうとしている??
フレンドルームの仕様を理解してない? でも、さっきその話はした筈……
では何故?
[カグヤ:タク君、フレンドルームの仕様は覚えているよね? キャラがAIで勝手に動いちゃうって]
[ゼウス:その話、さっきもしたよね?]
[カグヤ:もしもだよ? フレンドルームでジャックさんが暴れたらどうするの??]
[ゼウス:その時は僕が止めるよ!]
[カグヤ:違うよね? そもそも、そんな危険な人を参加させちゃ駄目だよね??]
[ゼウス:カヨルさん、ジャックさんを仲間外れにするなんて駄目だよ!]
[ゼウス:参加させてあげようよ!!]
(????????????????????????????)
加代流は頭がおかしくなりそうだった。
タクと全く話が通じない。
心なしか「分かってるよ!」と拗ねた態度のタクにもイライラしてきた。
タクは、どうしてもジャックを参加させたい、仲間外れにさせたくない。そんな思いなのだろう。
だからと言って、無理矢理参加させようとして周りに迷惑をかけるなんて、どうかしている。
[カグヤ:ねえ、タク君。もしもジャックさんが暴れて、タク君がそれを止めても]
[カグヤ:ジャックさんを参加させた私の責任になるし]
[カグヤ:故意で暴れた訳でもないのに、ジャックさんだって悪く思われるんだよ?]
[カグヤ:参加してくれた人達だって嫌な気持ちになる]
[カグヤ:タク君。ジャックさんを参加させたい気持ちはわかる]
[カグヤ:誰かを仲間外れにするのも駄目だと思う]
[カグヤ:でも、周りの人達の事を考えて。何でも、タク君の思い通りにならないんだよ]
タクからの返事は、すぐに来なかった。
気持ちを抑えて必死に打ち込んだメッセージが伝わったのだと加代流は安堵する。
だが、やや遅れて来たタクの返事は――
[ゼウス:じゃあ、僕がフレンドルームを開いて、僕が料理教室を開催するよ!]
[ゼウス:そうすればカヨルさんの責任には、ならないよ!]




