タクの日常 その38
再度メリッサは問う。
「今のを踏まえて聞くけど、私が『一度異邦人の世界に戻らなくて大丈夫?』に対して『どうしてそんな事を聞いてくるの?』って返事していたのね?」
「あ、その、はい。どうして、メリッサさんが、そんな事を聞いてくるのか……分からなくて」
「貴方がハーフの捜索中に、異邦人の世界に戻らないといけないんです!って言ってたじゃない? 何か理由があって戻りたかったのよね?」
「あ……それは……その……食事とか、仮眠を取りたくて……」
「そうだったのね。じゃあ、こう言うわ。もう戻って、食事と仮眠を取って大丈夫よ」
「え……? だ、大丈夫、なんですか?」
「そうよ。貴方は一旦休んで大丈夫。ここまで付き合ってくれて、本当にありがとう」
「そんな! 僕は結局、ドワーフとノーブルのハーフを発見できませんでした……」
「でも私と一緒に探してくれたじゃない。1人で探すより、心強かったわよ」
「……! そう思って下さっただけで……良かったです。僕、メッリサさんの役に立てたんですね」
メリッサは便乗するように「ええ」と頷きタクを促す。
タクは勝手に満足し、ログアウトを決めた。
最後にメリッサへ「ありがとうございました」と頭を下げ、漸くWFOの世界からログアウトする。
ふぅ!と満足気にタクはVR機器を取り外し、体を解す。
「いっ! たたた……!! 結構な時間、やっちゃったなぁ……わ! もうこんな時間だ」
深夜をまわっている時刻の為、物音を立てないようにタクは廊下を進み、テーブルにある冷え切った食事を食べ、シャワーを浴び、トイレを済まし、衣服を着替えて再び部屋へ。
そうして就寝する。
これがタクのルーティーンだ。
両親と鉢合わせすれば、彼らから嫌味を言われるばかりなので、自然とこんな生活になってしまう。
そして、朝の七時頃。
周囲の生活音で嫌でも目がさめて、タクの一日が始まるのだ。
★
タクが新たな目覚めと共に爽快感を覚えたのは、カタリナの件が解決したからだ。
メリッサもタクに感謝してくれた。
そして――やっぱり、自分のやっている事は間違っていなかったのだと、確信を得る。
彼の記憶は漠然としており、どうしてそういう経緯になったのかすら自覚がないだろう。
タクの人格に対してメリッサが、的確な対応をしてその気になっただけで、何も学習していないのだから。
こうなると、折角気持ちが落ち込んで気を付けていた事なんて、全部吹き飛んでしまうのがタクだ。
「よし! 今日もログインだ!! ん?」
タクはVRのメニュー画面に『まほ★まほ』のイベント開催の知らせが目につく。
「イベントやってたんだ……よし。参加してみよう!」
荻野を含めたプレイヤーが、子供向けでも低レベル過ぎると引いたイベント内容。
しかし、精神年齢の低いタクにとっては丁度いい内容だった。
やかましいNPCを鬱陶しく思うことは無く「ぎゃ~~~~!」だの「わ~~~~!」だの叫ぶNPCを助けると「サンキュー!」や「ありがとう!」とお礼を言ってくれるのだ。
これだけで承認欲求満たしまくりである。
「タク! 君がジュエルフルーツを使って、奴を倒すんだ!!」
「お前ならできる!」
「お願い……頑張って! タク!!」
露骨な主人公あげのような演出にも、タクはキッと真面目な表情で「うん!」と頷くのだった。
[好きなフルーツをえらぼう!]
ここで好みのフルーツを選択できるのだが、タクは様々あるフルーツの中から……
「よし! これだ!!」
『メロン』を選ぶ。
メロンの捕縛能力をタクは、敵を捕らえる為ではなく、誰かを助ける為に使えないかと考えたのだ。
手にしたメロンの魔法でイベントボスを倒し、満足するタク。
「はー、イベント面白かったなぁ! そうだ! 新しい魔法を試してみよう!!」
だが、攻撃力が低いメロンでは全然敵が倒せず、周囲のプレイヤーからは「アイツ、メロン選んでるぜ」と笑われてしまう始末。
一度溜息をつくタクだが、今回は逆にやる気をみせて「よーし!」と構えた。
「頑張って、メロンの魔法を使いこなせるようになろう!」
「あ、あの……」
「へ?」
急に声をかけてきたオレンジのボブショートの少女に、タクが振り返る。
「わ……私も、メロンです」
「え!? そうなんだ! 僕はタク!! 折角だからフレンドになろう!」
「い、いいですか? ありがとうございます! こ、これから数少ないメロン同盟として新たな仲間集めをしましょう!」
「あはは! メロン同盟って面白いね」
「わ、笑い所じゃないです! 本当にメロンの魔法取ってる人、少ないんですぅ……!!」
「……え。そんなに?」
「なので、メロンの魔法使う人がいたらフレンドになって情報共有して欲しいです! お願いします!!」
「うん。わかった! 僕に任せて!!」




