タクの日常 その36
「何って……だから、アレンさんの兄弟ですよ。アレンさんそっくりで、多分双子です!」
「私が探しているのは、アレスよ」
「え……アレス、ってなんですか? アレクさんじゃなくて」
意味の分からない状況にタクも混乱する。
アレスとは何か? アレクとは何か?
それはタクの方が聞きたかった。
「とにかく! 本当に似てて……兄弟なのは間違いないです! ちゃんとその目で確かめて下さい!!」
拗ねた子供のような反応をするタクに、メリッサは最早苛立ちを通り越して無の感情だった。
「あのドワーフは知っているが、あの女は知らない」
すると、奥の方から声が聞こえて来る。
嫌々姿を現したアレクに、メリッサは動揺する事はなかった。
アレンと似ている、そんな些細な事はどうでもいい。風貌や見構え、挙動だけでも、アレンでもアレスでもないと理解した。
「ほら! 似ているじゃないですか!!」
そんな風にドヤ顔をかますタクを、メリッサは無視した。
メリッサは無表情でアレクに近づくと頭を下げた。
「わざわざ呼び出してごめんなさい。人違いだったわ。本当に、ごめんなさい」
アレクも、無表情ながら彼女の謝罪には関心があるような様子。
頭を上げてメリッサは告げた。
「貴方は三つ子で、他にアレンとアレスって、そっくりな兄弟がいるの。だから、間違えてしまったわ。言い訳になってしまうけど、勘違いしてごめんなさい」
「み、三つ子……!?」
タクだけ場違いな程にリアクションを示す。
一方で、アレクの反応は非常に淡白で、面倒そうに溜息を漏らした。
「ああ、そうか。どうでもいい情報だ」
「な……! どうでもいいって、なんですか!!」
激怒して詰め寄ろうとするタクを無視してメリッサは「そうね」と続ける。
「どうでもいいわよね。今日まで知らなかった兄弟の話なんて。急にされても困るわよね」
メッリサの言葉に、タクは踏みとどまった。
彼女が述べた通りで、実の兄弟がいると急に言われても直ぐに情なんて湧く訳がない。
どう思うかと聞かれれば、本当に『どうでもいい』となる。
ドワーフの義両親たちも複雑そうな表情で見守っていた。
タクも、衝動にブレーキがかかり、成す術がない。
「でも、貴方には兄弟がいるという事だけでも、覚えておいて。少なくとも……私の知っているアレンはいい人よ。私と同じ医者で、カタリナの延命治療を施してくれて……頼りになる人だから」
それだけ告げ、メリッサはドワーフの義両親にも「ご迷惑をお掛けしました」と頭を下げ、タクに対して「貴方も行くわよ」と呼び掛けた。
タクも慌ててメリッサの後を追って外に飛び出す。
彼女に追いついたタクは「あの!」と大声でメリッサに問い詰めた。
「どうして名前を教えてくれなかったんですか! そしたら、こんな勘違いをしなくて済んだのに!!」
「……そうね。私が伝え忘れたから、情報の行き違いになってしまったわね。ごめんなさい」
「本当ですよ! しっかりして下さい!!」
プリプリ怒るタクの表情に人によって苛立ちを感じてしまうだろうが、メリッサは無だった。
タクに対する感情が、何もかもどうでもいい。
彼女は冒険者ギルドに向かうと、アレスの捜索依頼を申請する。
一連の手続きを、ぽかーんと見届けるタクを他所に、メリッサは彼に告げた。
「もう大丈夫よ。今、冒険者ギルドに頼んでアレスの捜索クエストを緊急で流して貰ったわ。現地人や異邦人が協力して捜索してくれる。貴方も今日まで協力してくれてありがとう」
「え、いや……僕は大した事は全然してませんよ」
なんて頭をかいているタクにメリッサは「貴方……」と何かを言いかけた。
「へ?」ととぼけた風に顔を上げるタクの幼い子供のような顔に、メリッサは再度溜息をつく。
「何でもないわ。それより、一度異邦人の世界に戻らなくて大丈夫? 私が無理に引き留めた時、戻りたいって訴えてたじゃない」
「えっと?」
「………」
「……へ?」
「一度戻らなくて大丈夫?」
「え? ……えっと」
メリッサはまたもや溜息をついて尋ねた。
「ごめんなさい。私は異邦人の専門用語が分からないの。貴方のいう『えっと』って、どういう意味? 教えてくれる?」
一瞬、タクは質問の意図が分からなかった。
彼女が何を尋ねているのか。どういう事なのか。頭が回らなかった。
改めて、メリッサが丁寧に問いかける。
「今、私は貴方に『一度異邦人の世界に戻らなくて大丈夫?』って聞いたのは分かる?」
「え? えっと……」
「今、また言ったわね。『えっと』って『分かりますけど』って意味?」
「ち、違いますよ? その、何で、そんな事を聞いてくるんだろうって……」
「貴方の『えっと』は『どうしてそんな事を聞いてくるの?』って意味なのね?」
「……え、えっと……あ。……はい」
「説明しないと全然伝わらなかったわ。私が馬鹿で察しが悪いせいかもしれないけど。私みたいに馬鹿で察しの悪い人の為に『えっと』って返事するのは止めた方がいいわよ」
とんでもない言葉を投げかけられ、タクは漠然としてしまった。
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