タクの日常 その32
タクとメリッサは結局、日が暮れるまでハーフ候補を絞っていたが、これといって確実な候補を発見する事ができなかった。
一旦、休憩として食事を取る事にした二人だが空気は重い。
メリッサの顔には焦りが出ていた。
アレンがカタリナの病の進行が限界だと聞き、気が気ではないだろう。
タクはふとある事を思いつく。
「あの! 他にも協力してくれる人を探してみませんか?」
「駄目! 駄目よ。それだけは駄目!!」
「え……ど、どうしてですか! 他のプレイヤーの人に協力して貰えたら、きっと」
「はぁ。そうだったわ。貴方は異邦人だからノーブルの国際事情とか、全然知らないのよね」
「え……?」
「ノーブルは国際法でジェルヴェーズ王国に在住が義務つけられているの。ノーブルは強大な能力を有しているから、有事の際やこの間、逢魔鴇で発生した改変処理のような特例がない限り、ジェルヴェーズ王国国内と周辺のみ移動と活動が許され、国外には出られないのよ」
「そうなんですね……」
「本来なら例のハーフの存在も、あってはならない事なのよ。でも、彼らが暗に存在を秘匿しているのは、存在を秘匿し続ければ、例のハーフも自由……ジェルヴェーズ王国国外で生活できるからって事」
「それは……」
タクは事情を聞いて、悩ましく思う。
国の外へ自由に探索出来ないなんて流石に窮屈だし、同情する。
だから、下手に仲間の存在を明るみにしたくないという意識も理解できるのだ。
更にメリッサは告げた。
「もう1つ。もしも、国外にいるノーブルを見つけて、各国政府に通達して、ノーブルの存在を捕捉、事実確認が取れれば――報奨金が貰えるのよ」
「ホウショウ、金?」
「それも結構な大金がね。例のハーフの存在が明るみになれば、金目当てで異邦人も現地人も殺到。それで……仮に例のハーフが他の人に見つかれば、カタリナは治療を受けられないわ」
「え!? そ、んな……見つかればいい訳じゃ……」
「あくまで、カタリナの治療を依頼しているのは私個人。さっき説明した通りの経緯で発見されても、それは他人の報酬になるから駄目だと言われたわ」
「………っ」
何と、もどかしい話だろうか。
タクはどうするべきか、この状況を、カタリナの治療を依頼させるには、どうしたらいいのか。
「他に……他に方法はないんですか? これじゃ、あんまりです。カタリナちゃんだって……僕、そのレーピオスって人にもう一度頼んでみます! メリッサさん達の頑張りを無駄にさせたくない!!」
「待って!」
メリッサが必死にタクを掴みかかる。
タクは意図せず「なんですか!」とメリッサを睨んでしまう。
彼は別に睨んでいるつもりはなく、相手の目と合わせる為、眼力を込めているだけなのだが……
しかし、メリッサは怯まずに話を続ける。
「私だって何度も頼んだの! 最初はずっと断られていたのよ!! でも、ようやくその条件で治療を承諾してくれたの……もう、これ以外に方法はないのよ……!」
「………っ……そんな、他に……他に方法は」
「あったら試しているわ! 私だって医者よ!? ずっとカタリナの病気を治そうと頑張った。色んな医者にも尋ねた! でも……もう他にないの。そういう段階なのよ!!」
「………っ………どうしたら……」
「だから! 例のハーフを探し出すしかないのよ! ……貴方、本当に協力してくれるのよね」
「も、勿論です!」
「だったら……例のハーフを必死に見つけ出して。そうしなかったら、貴方の本当の秘密をバラすから」
「……はいっ」
威圧感あるメリッサの声色に気圧されながらタクは返事をする。
でも、ノーブルを捜索するなんて、一体どうしたらいいのか分からない。
タクはこのまま捜索を続けても、きっと進展はないと考え、何か方法はないかと空っぽの頭で考え続ける。
そんな時、メリッサは顔を上げると――
「……アレン?」
彼女の目線の先に、カタリナに付き添っている筈のアレンの姿があった。
しかも――見知らぬ女性と一緒にいる。
流石に、メッリサは立ち上がってタクに告げた。
「ちょっと席を外すわ」
「………え? え?? ま、待って下さい!」
慌ててメリッサを追いかけて飛び出すタクは、周囲を見渡していると
「ちゅら~……ちゅら~……」
「へ? わっ、ドラゴン!? の赤ちゃん?」
1匹のドラゴンの子供が悲し気な鳴き声で彷徨っており、タクは目線を合わせるようにしゃがみ込んでドラゴンの子供に話しかける。
「大丈夫? お腹が空いたの??」
「ちゅら~……」
ドラゴンの子供は意味あり気に小さな翼をちらちら見る。
片方の翼は動いているが、もう片方の翼に動きがなかったのだ。
タクはハッとした。
「もしかして……! 翼が動かないの!?」
「ちゅら! ちゅら~……」
「待ってて! 病院に連れて………あ………」
「ちゅら?」
咄嗟にドラゴンの子供を抱え込んだはいいものの、病院に連れて行くとなると、自分の責任になる。
タクは、モルモーの件でテイムを忌避していた。
途方に暮れるタク。
ドラゴンの子供は助けたい。でも、テイムはしたくない。
「うう……どうしよう、でも、ううう、どうしようどうしよう! でもぉ、でもでも、でもぉぉおぉ~~~~っ! うううう、ううううううう!」
「ちゅ、ちゅら!? ちゅら~……」
タクが呻き泣き出したのに、助けられる筈だったドラゴンの子供の方が困惑してしまうハメに。
結局、通行人に助けられるまでタクは、その状態で突っ立っていたのだった。




