タクの日常 その31
「あの……あの! すみません!! 僕、勘違いしてました! 本当にごめんなさい!!」
タクは居ても立っても居られなくなり、勢いよく頭を下げた。
女性と男性は、そんなタクにポカンとしてしまう。
羞恥心で一杯になりながら、タクは正直に言う。
「僕! 僕がモルモーを酷い目に合わせた異邦人なのがバレたんじゃないかって! 勘違いしてしまったんです! この子の病気を治せる人とかじゃないです!! 本当に本当にごめんなさい!」
必死に土下座までするタク。
そして、何かを理解した女性は膝をがっくり落として座り込んでしまう。
「う……うそ……? 異邦人? 本当に……? 演技とかじゃ」
「メリッサ落ち着いて。ノーブルがこんな風に頭を下げる訳ないだろう。君が一番よく知っている筈さ」
「あ……ああ……そんな、ようやく見つかったと思ったのに!」
ノーブル?
タクは少女の容態や、彼らの会話を聞いて、やはりただ事ではないと察する。
意を決してタクは頭を上げて提案した。
「あ、あの……! ぼ、僕を脅して構いません!!」
「何を言うんだ君は……?」
「さっき言ったのは本当です! 僕がモルモーの知識がなかったせいでモルモーに虐待のような事をしたのは、事実なんです! そ、それを盾に、僕に協力するよう脅して下さい! ぼ、僕も、出来る事は、します……!」
「………」
男性は嘆く女性――メリッサや、横になったままの少女・カタリナを横目にやり。
タクの真っ直ぐな視線と意思を感じて、言う。
「分かった。手短に話をしよう」
男性・アレンは本当に手短な話をする。
経緯は不明だが、治療困難である病気にかかってしまったカタリナ。
彼女の治療は人間や他種族でも困難を極め、唯一治療ができるノーブルの医師『レーピオス』を頼る他なかった。
だが、レーピオスはカタリナの病を大したものではないと判断を下す。
レーピオスは未知なる病に関心はあるが、既に解明された病には関心を持たないのだ。
それでも治療をして貰いたいならばと、彼はドワーフとノーブルのハーフを連れて来いと要求したのである。
「彼の病院は特殊な構造になっているらしくてね。修復できるのがドワーフとノーブルのハーフだけなんだ。どこかに、彼の病院を作ったドワーフとノーブルのハーフの子孫がいる、らしい」
「そういう……事だったんですね。えっと……参考までに聞きたいんですけど、どうして僕を疑ったんですか?」
落ち着きを取り戻したメリッサが一息ついて語る。
「ノーブルって、他種族とは違って、思考も行動も浮いているのよ。貴方はドワーフなのに酒を飲まない、食事も控えめ、1人で行動していたから……」
「あはは……ほ、本当に勘違いさせてすみません。でも、他のプレイヤー……異邦人にもそういう人は多いですよ」
「……そんな」
メリッサが頭を抱えたのに、タクが慌てて言う。
「異邦人かどうか見極める事ぐらいしかできませんけど、それだけなら僕に任せて下さい」
「え? 見極められるの??」
「あ、はい。NPC……現地の人と異邦人の区別がつくアイコンみたいなのが頭に……えっと、現地の人はそういうの分からないんです、ね?」
「それだけで十分よ!」
水を得た魚のようにメリッサは立ち上がる。
一方でアレンは深刻な表情を浮かべた。
「なんとか薬で繋いでいるが……いよいよ限界が近い。僕の薬でも進行が抑えられなくなっている。何がなんでも早急にドワーフとノーブルのハーフを見つけ出して欲しい……」
「……っ、わかりました!」
★
「あの人はどうですか?」
「……違うと思うわ。むしろ、どうしてそう感じたのか教えて貰いたいくらい」
「えっと……ノーブルに会った事あるんですけど、あんな感じだったなって」
「はぁ。違うわ。何と言うか……異邦人の感性と私達の感性って、ズレがあるみたいね」
「すみません……」
メリッサと協力してタクは様々な場所を渡り、ノーブルの血が混ざってそうなドワーフをピックアップしていく。
だが、双方の意見は食い違うばかり。
今度はメリッサが「あの人はどう?」とタクに尋ねる。
黒髪黒目の男性ドワーフ『ダンテ』とステータスに表記されているが、タクは首を横に振る。
「あの人は異邦人です」
「もう変な異邦人ばっかりじゃない!」
「えっと、あの人ってそんなに変ですか?」
「変……うーん。ドワーフとして変、って事。ほら……周りを見てみて? 男性でも女性でも、ドワーフって明るくて気さくな人が多いの。でもさっきの人は、明るい感じはないし、気さくっていうより近寄りがたい感じがしたから」
改めてタクは周囲の様子を伺う。
メリッサが指摘するように、豪快に酒を飲んで笑い飛ばす立派なヒゲを生やした男性ドワーフ。
快活で料理をつくり運んで積極的でハキハキした女性ドワーフ。
確かに、彼らは明るく、活力に溢れた種族だとタクも感じ取った。
対してノーブルは……
「じゃあ、メリッサさんから見てノーブルってどんな種族なんですか?」
「……何を考えているかよく分からない」
「え……そう、ですかね?」
「表情もよく分からないし、何をしたいのかも分からない。それなのに色々口出ししてきて、お節介かけてくる」
果たして、そうだっただろうか? タクは改めて周囲の様子を伺った。




