タクの日常 その30
タクはあれから白凪のアカウントを消去した。
もう二度とモルモーと関わらない為、日和と真っ白な赤ちゃんモルモー、モモたちと関わらない為にそうしたのだ。
だが、タクはVRMMOをやる事しか術はない。
彼は別のアカウントを作成する。
使い慣れたドワーフでランダム作成を行い、普通にソロプレイを始めるのだった。
GW期間というのもあり、新規作成したプレイヤーが多くおり、冒険者ギルドでクエスト受注する際に声をかけるプレイヤーたちが多くいた。
赤髪赤眼の少年体型の『ドンク』というドワーフになったタクは、初めてドワーフの国『ゲルヒィン』の探索をした。
『ゲルヒィン』は火山地帯にある国家で、土地を利用した製鉄所や工房が多くある。
温泉があちこちに湧き出ており、それを使った観光施設や温泉を利用して作られた繊維や食材が豊富。
とても豊かで活気ある場所だ。
一方で……
「駄目だ駄目だ! こんなんじゃ商品にならねぇぞ!!」
「今度はどこが駄目なんですか!? ちゃんとスキルは付与されていませんよ!」
「スキルが付かなきゃいいってもんじゃねえ! 形が駄目だと言っとんじゃあ!!」
あちこちでプレイヤーたちが職人のNPCに怒鳴られている。
『ゲルヒィン』において生産職が店舗を構える事が国籍取得を意味するのだが、その査定がとんでもなく厳しい。
上手く国籍取得できたプレイヤーはちらほら現れているが、ほんの一握り。
他プレイヤーたちは、彼らを人間国宝ならぬドワーフ国宝なんて呼称してたりする。
タクはクラフトを率先してやる方だったが、他プレイヤーたちがあんなにも苦戦しているなら自分に出来る筈がないと思い、無難に冒険者ギルドでこつこつクエストを熟す事に。
(なんか……懐かしいな……この感じ)
悪い意味でタクは懐かしさを味わう。
最初、タクは1人で活動していた。
幼馴染のミミや、同級生のアキ、いとこのシィ、生徒会長の琴葉、そして里香……
彼女達は最初からタクと共に活動していた訳ではない。
VRMMOがきっかけで、交流の輪が広まり、いつの間にか彼女達と色んなVRMMOを巡るようになった。
(また……最初から、だ)
いつの間にか、彼女達はタクから離れてしまった。
薄々、タクも感じ始めていた。
もう彼女達は戻ってくることは無い。見限られてしまったのだと。
現実での周囲の人々のように。
タクの両親のように。
「ちょっと、いいかしら」
そんな時だった。
活気ある居酒屋のような雰囲気の冒険者ギルドの食堂で、1人食事を取っていたタクに声をかける女性が。
ドワーフが多いこの国では珍しく、人間の女性。
銀髪銀目という、ファンタジーな外見ながらも身に纏っているのは白衣。
女医なのだろうか?
しかも、美人で……NPCのアイコンがついている。
ドキリと驚いたタクは「な、なんですか?」と返事をするが、女性は何故か厳しい目つきでタクを睨みつける。
そして「やっぱり」と呟いて、タクの腕を引っ張る。
「貴方に用があるの。こっちに来て貰える?」
「だ、だからなんですか? ここで話してください!」
「逆に聞くわ。ここで話していいのかしら?って。貴方の秘密に関する話だから、他の人達には聞かれたくないでしょう?」
「っ!?」
秘密と言われて、タクは震えてしまう。
もしかして、自分が『タク』だと特定されたのか、と。
しかし、彼女はNPCだ。
でも、NPCでもモルモーを虐待した異邦人の存在は知られている。日和だってそうだ。
再度女性が促す。
「他の人達に貴方の秘密を明かさない代わりに、ある事をやって欲しいの」
「ぼ……僕に……何を?」
まさか、モルモーの虐待を……?
そんな不安を抱くタクを他所に、彼女は立ち上がる。
「話は向こうでしましょう。大人しくついて来て貰える?」
「………はい」
★
銀髪の女性NPCに連れられて来たのは、活気ある中央から大分離れ、木々が生い茂り、清らかな渓流がある森林。火山地帯とはいえ、国内全てが平野だったり岩肌だらけではない。
山の地下水で広がった自然も確かにあるのだ。
そこに光の結界のようなものがあり、女性はそこへ入り、タクにも入るよう促す。
小さな小屋があり、中に入ると――茶髪の男性NPCが薬品を調合しており。
奥に、更に光の膜がしかれた空間に、1人の少女がベッドの上で横たわっていた。
少女は包帯まみれで、所々変な染みがある。
あれ?とタクは困惑した。
切羽詰まった状況なのは分かるが……モルモーとは無縁の状況だと理解する。
男性NPCが「見つけたのか!?」と半信半疑で立ちあがり、女性NPCは頷いた。
「彼がそうよ」
「ああ……良かった! カタリナ……よく頑張った!! 治療して貰えるぞ!」
タクは気まずくなった。
これはどう見ても……モルモーとは関係ない。自分は勘違いしてしまったのだと。




