【Fatum Essence Online】振動
謎の敵の討伐が終わると、何か不思議な感覚を覚えた。
おや? 自由行動ができる……?
ここでストーリーの一部で発生するロールプレイングシーンになったのか?
私が気になったのは、やはり謎の隕石だ。
自由に動けるのを確認してから、私はツクヨミに話しかける。
「すみません。例の、隕石が落下した場所を確認したいので、一心同体モードに切り替えても……」
対してツクヨミは、どこか不満そうな表情を浮かべた。
何か面倒くさそうな……気が進まないのは私だってそうだけど。
溜息を漏らし、ツクヨミが答える。
「もうすでに何者かが現場へ向かっている。恐らく、アルゴー船の船員だろう」
ああ、戦闘で私達は出遅れてしまったって奴か。
私は構わず言う。
「それでもいいです。少しでも情報になりえる要素を拾っておくべきです。遠目でもいいので確認しておきましょう」
「……分かった」
まあ……多分だけど、アルゴー船にいるのはギリシャ神話の面々だし。
神々同士が鉢合わせしたら、厄介てか面倒てか、色々あるんだろうなぁ。
ここは我慢して貰うしかないのだ。
船内がまだ混乱状態だが、私はアンとメアリーに告げる。
「私達は何が降って来たのか確認して来ます。直ぐに戻ってきますので」
「了解」
「マジ? 気を付けてね!」
一心同体モードに切り替え、氷山のようになった海の塊を乗り換えていく。
上空まで移動すると、陥没した部分を把握でき、そこには二つの人影が……1人は巨女として目立っている『ヘラクレス』。
そして、もう1人は……ううむ、今までの派生作品でも確認できていない新規キャラだ。
ギリシャチックな衣を纏っている赤毛で炎を帯びている女性……恐らく女神。
彼女の周囲には、先程私達を攻撃してきた冷気の炎たちが浮かび上がっていた。
芯の太い声色のヘラクレスが問う。
「貴殿は……記憶が曖昧になられておられるようだ。その御姿、豊穣神『デメテル』殿ではないか」
あ、デメテルって確か――ハデスさんの嫁さん(ペルセポネー)のお母さん!
ややこしいけど、ギリシャ神話の関係者だ。
でも……なんだこの炎? 豊穣神なのに、それとは関係なさそうな能力を使っているし。
デメテル?らしき女性は怪訝そうな表情で、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「笑う、ない。ちがう。これ、違う。探す、それ笑う、顔ない」
マジで意味不明な内容なので、屈強な女戦士のヘラクレスも困った顔をしてらっしゃる。
すると、アルゴー船から女性が吠えた。
「ヘラクレス! とにかく彼女を船に連れてきて! なんか飛んで来てるから!!」
あ、不味いな。見つかってしまったようだ。
どうするべきか思案していると、ツクヨミの方が「撤退するぞ」と勝手に動き出す。
事情は分からんが、相手はギリシャ神話関係者だったから、まあ別にいいか。私もそんな感じだった。
が、どこからともなく砲撃が放たれた。
強大な氷山を打ち砕きつつ、氷結で身動き取れないアルゴー船目掛けて飛び交う砲弾には、あの謎の黒いオーラが纏わっているではないか!
氷山の合間から見えるのは、別の海賊船……
タマモの能力?らしき黒いオーラの攻撃は、アルゴー船のメンツも対処に困っているようだ。
私達も巻き込まれる! 撤退だ!!
すると、デメテル?が片手をかざして何かを放つ。
その何かは――振動だった。
やっぱりか、私は今までの現象の共通点に振動が関わっていると薄々気づいていた。
WFOでも語ったが、振動によって熱が帯、振動がなければ氷結する。
デメテル?は氷結した海に振動を与える事で、大津波を再度動かして、砲撃する海賊船を襲う。
同時に氷結していた周囲全体も、氷結が解除された事で、氷結部分を足場にしていたヘラクレスは波の飲まれ。
上空にいた私達は問題なかったが、アンとメアリーの船も飲み込まれて――
いや、そこはツクヨミが辛うじて能力を行使して、波に飲み込まれるのだけは阻止していた。
……って、あれ。
全てが決壊した今、上空にいる私達がなんだかんだデメテル?に接近する事ができる。
ここは動かないと駄目か。
私はツクヨミに呼び掛けた。
『ツクヨミさん。あのー、彼女を何とかしないといけないと思います。流石に放置する訳にもいかないです』
「………」
仕方ないみたいな雰囲気でツクヨミはデメテル?の方へ降りて来る。
彼女は再び同じ事を繰り返していた。
「笑う、ない。違う」
「……何かを探しているのか」
「ちがう。……ちがわない? ん。ちがう、が、ちがわない」
もしかして月神かな?
違わないって言っているから、同じ雰囲気の人?を探してそう。
私の推理に応じてツクヨミが尋ねた。
「探しているのは月神か」
「月? ……」
「大丈夫ー!? 今そっちに船寄せるから、待っててねー!」
やり取りを交わしている内にアンが船を動かして、こちらに向かっていた。
これでストーリーは場面が一区切りする。
切りがいいから、今日はここで終わりにしよう。




