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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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タクの日常 その27


ぷいーぷいー。

小さな鳴き声を上げながら、真っ白な赤ちゃんモルモーが動き始めた。

タクは自分が頑張ったから生き返ったのだと思い、感動する。


「わぁ……! 良かった! よかった……本当に良かったぁっ!! よく頑張ったね、『ミルク』!」


ミルク。

それが何を意味するのか、テイマーたちは分からなかった。

素手の中にいるモルモーを「あはっ」と微笑ましく眺めた後、テイマーたちに告げるタク。


「あの! この子の名前『ミルク』にしませんか? ふふ、これからよろしくね。ミルク!」


何で勝手に名付けるのか。

何がよろしくなのだろう。

何を笑っているのだろう。

テイマーたちは、考えれば考える程、タクの事が分からなくなる。

タクが真っ白な赤ちゃんモルモーをカゴに戻そうとしたのを、テイマーの1人が叫ぶ。


「やめなさい!」


「え……な、なんですか」


「モモはもう、その赤ちゃんを育てないわ。貴方が素手で触って、貴方の匂いがついてしまったから」


「……………え」


タクはしばらく動く事も、息をする事も止めた。

そして、やっとテイマーたちからの軽蔑の眼差しを感じ取る。

自分が如何に非常識な事をしたのかを。

タクは小さく動く赤ちゃんを抱えながら訴えた。


「どうして、教えてくれなかったんですか! 知っていれば、僕だって直接触れることはしなかったのに!!」


その言葉に更にテイマーたちは冷めた目をする。

何故なら、彼は自分たちと同じ、モルモーの出産に関する講義を受けた筈なのだ。

しかも、育成所に来て最初の日に……

テイマーたちの無言の圧を他所に、タクの手の中で動く真っ白な赤ちゃんモルモーを見つめ、タクは「ごめんよ、ごめんよ……僕が君をちゃんと育てるから」と、また勝手な事を言い始めた。



タクの無自覚な行いにより、母親から引き離され、1匹孤独に生きる事となってしまった哀れな赤ちゃんモルモー。

案の定、タクはそのモルモーを育てたいと喚き出した。

テイマーたちが無理矢理タクと引き離そうとすれば、タクは赤ちゃんモルモーを『テイム』してしまったのだ!


まだ幼いどころか、産まれて間もない赤ちゃんモルモーの友好度はすぐに変動できない。

故にテイマーの資格による強制執行で、テイム強制解除を出来ず。

タクは「僕が育てるんだ!僕が!!僕が!!」と子供のように駄々をこね始めた。


タクの本性が露わとなり、テイマーたちは唖然とし、日和の警告を安易に捉えていたのを後悔したのだった。


テイマーたちは、タクに人工哺育の仕方を教えるしかなかった。

彼らは淡々と、それでいて何度もしつこくタクに予習させた。

何度も、タクがやり方をマスターしたのかを実践させた。

そうでもしないと、彼は学ばない子供のような奴だと彼らは判断した結果である。


タクは「もう大丈夫ですよ」と呆れるように言い続けるが、聞き入れられて貰えない。

その度に「ちゃんと講義を受けたのに忘れたでしょ」「一度聞いただけじゃ、覚えられないのよ」と悪口のような事を言われ、タクは気が重くなる。


ようやく、予習と実践から解放されたと思えば、さっさと育成所から離れるようにと追い出された。

他の赤ちゃんモルモーたちや、母親のモモたちとも会えないまま。

タクは深い溜息をついたが、赤ちゃんモルモーが可愛く鳴いてタクを求めたのに、タクは微笑む。


「ふふ。大丈夫だよ、ミルク。僕にはミルクが一緒にいるから……ちゃんと育ててあげる。心配しないで、ね?」


結局、その赤ちゃんモルモーに『ミルク』と名付けて、タクは育てる事になった。

質素な自宅に戻り、タクは『ミルク』と共に生活を始めた。


最初の内は、全然何ともなかった。

『ミルク』の姿も鳴き声も小さくて微笑ましい。

活発にぴょこぴょこ動き回って、跳ねたようにジャンプするのをタクは「あはっ」と笑いを溢す。


タクは、いつもの手順でお手製の小動物用ミルクを作る……が。

彼は小動物用ミルクの粉末を、()()()()()に投入する。

あまりに薄味なので、濃くした方が『ミルク』が喜ぶと思ったのだ。


小動物用の哺乳瓶を『ミルク』の口元に運ぶタク。

最初は哺乳瓶へ必死に吸い付いていた『ミルク』だったが、暴れて哺乳瓶から口を離す。

折角、飲んだご飯を口から溢す始末。

タクは汚らしい行為をする『ミルク』を叱るのだった。


「こらっ!! 動かないで、ミルク! こんなに汚して……ちゃんと口をつけて!!」


「きゅー! きゅー!」


「ミルク! 飲まないとご飯はお預けするよ!!」


「きゅうううううう!」


何度やっても『ミルク』は飲んでくれない。

タクが気持ち多目に投入したミルクの粉末が溶け切っておらず、粉っぽいミルクになっているせいなのだが、タク自身は想像すらしないだろう。

そうとは知らないタクは、無理矢理飲ませようとするばかりだった。

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