タクの日常 その25
鬼神より神族の改変処理が完了した旨が巫女から通達された。
同時に、子供たちは解放。
里で神隠しに遭った者がいないか点呼が行われた結果、日葵が行方不明だと判明する。
これにより、彼女の血縁者である日和と日美子が禊の儀式を行う為、神社に籠る事となった。
タクは、日葵たちの一件に居ても立っても居られず、どうにかしようと神社の周りでウロウロしているところを神官たちに確保され、追い返される始末。
トボトボ歩いて帰宅するタクは、道中何度も何度も溜息を漏らすのだった。
結局、自分は何も出来なかったのだ。
神族を止める事も、日葵を神隠しから逃す事も、日美子の事だって……
日美子が神社から抜け出した事で、彼女が神隠しの場面に居合わせ、精神的なショックを受けた。
そう里長が全体に伝えた際、タクは愕然とする。
あの時、日美子の様子がおかしかったのは……
(どうして、何も言ってくれなかったんだ……何で……)
こんな時でも、タクは日美子の気持ちに寄り添う事すらせず、自分本位だった。
彼が帰宅する中、ぷいぷいとモルモーの鳴き声が聞こえ、タクはふと顔を上げると――テイマーの白鬼たちがモルモーのカゴを運んでいる様子が。
しかも、日和たちの家から……
「あ……!」
タクが彼らに駆け寄ってカゴの中を確認すると、それぞれのカゴにはモモ、ミケ、チャチャの姿が。
以前と比較しても、下半身部分がぽっこり膨らんでいた。
そこに新しい命がある。
間に割り込む形でテイマーが介入し、タクを睨む。
「近づかないで!! この子たちは妊娠しているのよ!」
「知っています! お願いします! モモたちの出産の手伝いをさせて下さい!! モモたちは、僕が元々テイムしていたモルモーなんです! お願いします!!」
「知ってるわよ! 貴方が手違いで妊娠させたんでしょう!?」
「だからです! 僕が、僕が責任を取らないと駄目なんです!! お願いします! どうか、どうかお願いします!!」
あまりにしつこく、必死に付きまとってくるものだから、嫌々、渋々という形でテイマーたちはタクを手伝わせる方針にした。
彼らはタクをテイマー育成所に案内する事に。こんな彼を引き入れたのも、実は理由がある。
「お前も日和さんが禊の儀式で神社から出られない事は知っているだろう」
「はい……日葵さんの件は……僕にも責任が……」
「あれは、どうしようもない事だ。それよりも……日和さんの抜けを穴埋めしなくてはならないんだ。モモたちの出産を手伝わせる代わりに、他の雑用も手伝って欲しい」
「はい! 僕が日和さんの仕事を代わりに引き受けます!!」
何故、そんな解釈になるのだとテイマーたちは怪訝そうに顔を見合わせる。
不安ばかりしかないが、他にテイマーの仕事を手伝って貰える者がいないのも事実。
日和の仕事ではなく、テイマーの資格を持たなくても出来る仕事をタクに差し出すのだった。
言われた通りの事をやればいいだけの単純作業なのだが……
タクは衝動的に、あれが気になる、これが気になると目移りし、任された仕事を熟せない。
だが、タクの気づきは目ざとく。
テイマーたちが見落としていた動物たちの異変を指摘したのも事実。
「なんなんだよ、アイツ……」
「でも、あの症状を発見したのは……」
「彼、ちゃんとテイマー資格の試験を受ければ、問題ないんじゃないかしら?」
「どんな子相手でも、ちゃんと寄り添っているし……日和さんは問題しかないって判断してたけど」
「迷惑はかけていないうえに、積極的ではあるから良い方だ」
あるテイマーはタクに関心を寄せ、あるテイマーはタクに苛立ちを感じ。
絶妙な立ち回りをするタクは、色んな動物と触れ合い満たされていた。
モルモーより知能が高かったり、既にテイマーたちが飼育している為、タクが扱うのが容易になっている動物を相手にしているのだから、タクは気楽だった。
動物園の動物を相手に、餌をあげたり触れ合ったりする程度の感覚なのだから……
そんな中、いよいよ――
「白凪さん! モモちゃんたちの出産が始まったみたい!!」
「え? あ、はい!」
タクは一瞬何のことかわからず、テイマーの呼び掛けに応える形で現場に向かった。
静かな個室にある3つのカゴ。
その中にいるモモ、ミケ、チャチャ。
モモたちから苦しそうな「きゅい!」という鳴き声が聞こえ、タクはハッとする。
「モモ! ミケ! チャチャ!」
「白凪さんっ、落ち着いてっ」
「で、でも! モモたちが苦しそうな声を――」
「静かにしてくださいっ、モモちゃんたちが出産に集中できなくなりますっ」
「っ……ごめんなさい」
「モモちゃんたち、陣痛で苦しみながら頑張って赤ちゃんを産んでくれるんです。応援しましょう」
「……陣痛………あ、あの回復魔法で痛みを和らげることは出来ませんか?」
「駄目よ。モモちゃんたちが体の異変に警戒して、体を強張らせてたら難産になりかねないわ。白凪さん、気持ちはわかる……でも私達に出来るのは、モモちゃんたちを応援する事だけなのよ」
「え……」
タクは改めてモモたちの様子を伺う。
モモたちは、何度も何度も忙しなく下半身を動かしたり、安定する体勢を探す為に、体の位置を動かしたり。
時折、陣痛の痛みで「きゅい!」と鳴き声を上げ、表情も苦しそうだった。
だけど……テイマーたちは何もしない。ただ、見ているだけ。
(そんな……こんなのって……)
タクはどうする事も出来ず、その光景を見つめるしかなかった。




