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VRバイターが往く!~近未来の生存戦略~  作者: ヨロヌ


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【ヴァルフェリアオンライン】神隠し


日葵は神社ではなく自宅に戻っていた。

神社の警備は、巫女ではなく男性の神官と成人男性のみで行われおり、巫女は自宅待機となっている。


窓ガラス越しでも分かるように、他の家も全て明かりを消していた。

こうして不在を装って神族の目から逃れるのが、一種の習わしである。


(でも……どうかしらね)


しかしながら、巫女である日葵は不思議と恐れはなかった。

彼女は巫女故に『神隠し』の実態を把握していたから。

神族が気に入った者を連れ去るというのは、半分間違いはない。


実際は『子孫を残す為に相性のいい者だけを連れ去って番にする』というものだからだ。


神族は家庭を持つ事も、子孫にも関心を持たない。

自分本位の為、無関心。

故に神族の数は一時期、激減してしまった。

それでは下界の管理を担う者がいないと天井の神々は無理矢理でも子孫を繁栄させようと、エルフの発情期のようなシステムを神族に組み込んだ結果が『神隠し』だ。


そして、神族が派遣されたからといって必ずしも『神隠し』が発生する訳ではない。

相性のいい番を発見できなければ、起きないのだから。

それに便乗して悪さをする者は多少現れる程度。それが『神隠し』扱いされる。

本当の意味で『神隠し』が行われた真実の記録は、日葵が知る中では数百年も前の話だった。


薄暗い家の廊下を歩いていた時、物音を聞いて日葵が向かうと――


「キャアアアアッ!!!」


「っ……! 驚いた……日美子、どうしてここにいるの?」


「ひ……日葵お姉ちゃんっ……!」


出くわした日美子は安堵しつつも涙を浮かべる。


「ご、ごめんなさい……あたし、モモたちに餌あげるの忘れちゃったの。日和お姉ちゃんに内緒にしてくれる……?」


「はぁ……もう、日美子ったら。大丈夫よ。今日の『お泊り会』の事は日和も私も知ってたから、私達がモモちゃんたちのお世話をする事にしたの。日美子に伝え忘れちゃったわね。ごめんなさい」


「ほ、本当? 良かったぁ……」


「表にいる大人の人に神社まで連れて行って貰って。そろそろ神社で催しが行われるわ」


「え? どんな??」


「ふふ……行ってからのお楽しみよ」


「なんだろ~! じゃあ、行ってくる!」


日美子がすっかり安心した気持ちで、玄関まで駆けていくのを日葵は見届けた。



バン!


と何かが落ちる音を聞いて日美子は、ノブに手をかけるのを止めた。

後ろを振り返り、薄暗く、何も見えない家の中を見渡す。

不安を抱きながら小さな声で喋る日美子。


「ぇ……なに? 日葵お姉ちゃん? モモ?」


モルモーがこんな音を立てられる訳がない。

むしろ、大きな音に反応してモモたちが「きゅい!きゅい!」と騒ぎ立てていた。

日美子はこっそりと、家の中へ戻っていく。

そしたら遠くから


「嗚呼、ネズミが煩いね」


と誰かが喋る声が聞こえた。


声の主は男のものだった。

日美子の顔見知りである白凪の声でもない、初めて聞く男性の声。

誰かいるの?と怖くて口にも出せない日美子。

彼女は、足が一歩も動けないまま、男性の声を聴き続ける。


「それよりもお前の音を聴かせておくれ」


「………ああ、やっぱり。とてもいい音だ」


「聴いているだけで満たされる。心地の良い音だ。私はずっとこの()()を求めていた」



「私の所においで」



その一言だけ残して、男の声は聞こえなくなった。

きゅいきゅい騒がしいモルモーたちの鳴き声が家の中で響く。

入れ違いで番をしていたNPCたちと茶番劇を繰り広げたタクが、モモたちの餌の為に、家へ入って来た。


「……え? 日美子ちゃん!? 何でここにいるんだ! 僕が餌をあげるから大丈夫って言ったじゃないか?! 日美子ちゃん! 日美子ちゃん……?」


目を見開いた表情のまま、立ち尽くしている日美子。

途方に暮れたタクは「そこで待ってて」と彼女を放置し、モモたちの餌と清掃をしようとした。

興奮気味のモモたちを宥めつつ、タクは作業を熟そうとしたが……


(あれ? もう餌もあるし、小屋の掃除もしてある……日和さんがやってくれたのかな?)


不気味に立ち尽くして無言の日美子に、タクは優しく伝えた。


「日美子ちゃん。日和さんがモモたちのお世話をやってくれたみたいだよ。清掃もしてあるし、安心して神社のお泊り会を楽しめるね」


「………」


「えっと……い、行こうか。日美子ちゃん」


一度目と同じようにタクは手を繋いで、日美子を神社に連れて行く。

日美子はタクがどんなに話しかけようが終始無言のままだった。



その日、数百年ぶりに本当の『神隠し』が発生した。

連れて行かれたのは白鬼の巫女であった。

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