【ヴァルフェリアオンライン】白凪
『紅ノ荒野』から『銀ノ峰』に時空間通路は通じていない。
てか、『紅ノ荒野』と通じている里が少ないのだ。
だからといって『風ノ賭博』と『銀ノ峰』も時空間通路を開通させていない。
かなり割高になってしまうが『紫ノ鉱脈』から『銀ノ峰』へ向かうしかなかった。
この為に、山脈で資金を稼ぐ必要があったんですね。
『銀ノ峰』は大正浪漫をモチーフにしている場所である。
建造物から白鬼の服装まで、如何にもな大正風味。料理も美味しいし、空気も澄んでいる。
ただし、観光客には割高な商売をしているのだ。
って……まったり、している暇はないぞ!
すっかり日が暮れ、夜も中盤に差し掛かった頃であった。
私は瑠璃さんを外に出しつつ、小走りで石畳みの道を駆けていく。
割と人口密度があるせいで、全力疾走もしにくいし飛行術を使う訳にもいかぬ。
何より、ここは光の魔素が多い土地なので、闇魔法の瞬間移動がしにくい土地でもあるのだ。
ああ、神社はまだ大丈夫だろうか……
私が不安で集中していなかったせいか――
「うわっ!? い、たたた……」
俯いて脇から飛び出してきた誰かにぶつかってしまう。
私が声をかけようと思ったら……ん? なんか違和感……いや、既視感??
露骨にいたたた……とリアクションをしている白鬼の青年。どうやらプレイヤーのようだった。
「すみません。大丈夫ですか」
「ぼ、僕こそぶつかってしまって、ごめんなさい!」
……んん?
なんだろうな……私は彼に手を差し伸べて、彼の名前を確認したが……『白凪』。
記憶にはないけど……白凪は立ち上がってすぐ、足元にいる瑠璃さんに反応するのだ。
「わっ、猫だ! 貴方がテイムしているんですか?」
「……ええ」
「えっと……漆、瑠璃?」
「漆塗りの語感に合わせて名づけました。瑠璃さんと呼んでください」
「あはっ。面白い名前ですね! よろしくね、瑠璃」
……じゃないわ。
足止め食らってしまったが、神社に向かわないと。瑠璃さんを撫でようとする白凪に私は告げた。
「すみません。私達、神社に向かわなくてはならないので」
「え? 神社?? 何をしに?」
「御朱印ですよ。御朱印巡りをしていて白鬼の神社が最後の一つなんです」
「御朱印って?」
「参拝した証みたいなものです。オーガの国にある御朱印を全て集めると記念品が貰えるんですよ」
「へぇ~……そうなんですか?」
「そういう訳で、私は失礼させていただきます」
私が行こうとすると、白凪が「待って下さい!」と追いかけて来るのだ。
もう今度は何だよ!?
と思ったら、白凪はこんな事を言ってくるのだ。
「神社の場所を僕に案内させて下さい! 僕、ここでの生活は長いので、神社の道のりを知っています!!」
……はい?
「お願いします! 僕に案内させて下さい!!」
って自棄に必死に頭を下げてくるもんだから、私は訳が分からなかった。
何故なら――
「この白い柱を頼りに進めば、神社に着けるそうなんで、問題ないです」
「……へ?」
「コレです。コレ。ほら、ずっと続いてますよね」
私のような巡礼者の目印の為に、神社への道標的なものはどの里も設置されているのだ。
顔を上げた白凪にも、その柱が続いているのを示してやる。
なんだか、呆然としている白凪。
……ちょっとコイツなぁ。私はある一言を告げる。
「お気使いして頂きありがとうございました。お気持ちだけ受け取ります」
「は……はいっ。こちらこそ」
白凪は何やら満足した様子で、意気揚々と駆けていった。
承認欲求爆発させまくってる、有難迷惑な人だったなぁ。
……ブロックしておこ。
って、ああ! すみません、瑠璃さん!!
完全にタイムロス食らっちゃった! 急がないと!!!
神社は都心部から少し離れ、林道にある石畳の小道と会談を登って、ようやく辿り着く。
道中、この時間だとモンスターが現れる事があり、途中で、瑠璃さんと協力しつつ、何とか到着。
人気もない。物静かで簡素な神社。
だが、意外と境内は広くスペースが取られており、枯山水のような庭園が整備されていた。
「あれ……」
受付所に巫女さんの姿がない。
立て札の文言を読むと
『本日、鬼神様からのお告げの儀式の為、参拝及び御朱印などの手続きは行いません』
ぎゃああああああああああああああああああああ!
間に合わなかったあああああああああ!!
……戻って宿に泊まって寝よ!
★
「はぁ~……極楽ですねぇ。瑠璃さん」
「なお~ん……」
私と瑠璃さんはちょいとお高い旅館に宿泊し、まったり過ごしていた。
美味しい料理、いい感じのマッサージ、客室にもある露天風呂!
しかも、瑠璃さんも一緒にサービスを受けられるペット同伴の宿!!
1泊15000G!!
静かで長閑な客室ではゆっくり仕事もできるし、漫画の構想も着々と……はいかなかった。
なんか雰囲気が晴明の奴になってるわ。
少年探偵団風味の子供たちが暗号を解き明かす、的なストーリーにしたかったんだけど。
リーダー役が晴明……いや、晴明じゃんこれ。
……これ晴明の続編にしようかな。
京で少年探偵団的なモン結成して暗号解く感じで。
そう割り切ったら、意外とスラスラ構想は捗った。
続編描いてもモルモー事件のせいでロクなコメントがないけど、いっそプレイヤーの購入禁止にするとか……
駄目だな。NPC利用してアンチコメ流しそう。
どっちにしろ、オギノのアカウントで漫画投稿し続け、ちゃっかり収入も得る。これで良し!




